マギアブレード その4
ルドルフが見せたスクロール。それには他のスクロール同様、意味不明な記号のような文字が書かれていた。
もちろんシャルルにその文字の意味はわからない。だがそれは魔術らしくラーニングが可能なので、名前、魔法レベル、効果はわかった。
「マギアブレード? 刀を作る魔術か……」
シャルルがつぶやくとルドルフは驚く。
「なんと! 確かに専門家の分析で、何か物――恐らくは刃物を作り出す魔術であろうというところまでは判明しているのだが……シャルル殿は少し見ただけでそこまでわかるのか!?」
「ん……まあ、なんとなく」
「では、もしかして使う事も?」
「可能だな」
「今まで高位魔術師に試させても使う事はできなかったのだが……良かったら使ったところを見せてもらえないか?」
「かまわないが……」
そう言うと、シャルルの右手に一振りの刀が現れた。
その見事さに、ルドルフは思わず感嘆のため息を漏らす。
「おお……美しい。これがこの魔術で作り出した刀……。ところで、これは何本でも作れるのだろうか?」
シャルルは現在、右手に持つ刀を維持するのにマナを消費し続けている。
つまりこの魔術はいわゆる継続魔法。刀を維持している状況は、魔術で水を出し続けているのと同じ状態だ。
したがって――
「無理だな」
そう言うとシャルルは刀を床に置く。すると物理的にシャルルから離れた刀はマナの供給が途切れたため霧散して消えた。
それを見てシャルルはシルフィの服やティアラと同じだな……と思う。
そしてシルフィのそれがこれと同じ仕組みなのだという事を理解する。
「なるほど、こうなってしまうのか。しかし……魔術師にしか使えない刀というのもなんだか無駄な感じだな」
「確かに」
魔術師には無駄だなとシャルルは思う。だが、魔戦士には意味がある。
とはいえ魔法は複数同時に使う事ができないので、この魔術を使っている間は他の魔術が使えない。何も無いところから出せるという利点はあるが、換装が使えるシャルルにはあまり意味のある魔術ではないだろう。
シャルルはこのあとも日が暮れるまでラーニングやスクロールのチョイスを続け、多種多様な魔術を入手し習得する。
満足そうなシャルルを見て、たいしたものではないものの、少しでも礼ができて良かった……とルドルフは思った。
その後もシャルルたちは乗合馬車が出発する日までグリュンバルトに滞在し、その間、少しでも礼をしたいルドルフは、あの手この手でシャルルたちをもてなす。
観劇や都市内の観光地に連れて行ったり、特別な酒や料理を振舞ったり……そして月も変わりやや汗ばむ陽気の6月上旬。シャルルたちが出発する日がやってきた。
前回同様、伯爵邸玄関前にはルドルフ、夫人、ナスターシャ、そしてカロリーネと執事がシャルルたちを見送るために集まる。だが、少し打ち解けたシャルルとルドルフは、前回と違い社交辞令ではない挨拶を交わしていた。
「おかげで楽しく充実した日々を過ごせました。ありがとうございます」
「恩義に報いたとは思ってないが、それなりにできる事をしたつもりだ。そう言ってもらえると嬉しいよ」
シャルルとルドルフが会話を交わすすぐ横で、ステラとナスターシャが別れを惜しむ。
「たーしゃ……すてら、またたーしゃとあそべてたのしかった」
「私も楽しかったわ。きっとまた遊びましょうね」
「うんっ」
大きく頷くとステラはナスターシャに抱きつき、ナスターシャはそれを受け止め抱きしめ返す。
そんな二人をみんなは笑顔で温かく見守る。
そんな中、申し訳無さそうに前回同様ルドルフが用意してくれた箱馬車の御者が言う。
「そろそろお時間ですが……」
「ああ」
そしてシャルルたちは馬車に乗り、乗合馬車の乗り場に向け出発した。
いつも通りステラは馬車の窓からナスターシャたちが見えなくなるまで手を振る。だが今回は前回の別れからすぐ会えたからか、見送りの人たちが見えなくなっても泣く事は無く笑顔のままシャルルに言った。
「しゃるー、きっとまた、たーしゃにあえるよね?」
「ああ、そうだな。きっとまた、いつか……」
結構長かった『エピソード10 手の届く範囲』もこれにて終了です。
お楽しみいただけましたでしょうか?
さて、次はついに第二章本編の最終エピソード。とはいえもうしばらくは続きますので引き続きお付き合いください。
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