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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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マギアブレード その3

「お爺様の書庫?」


『お爺様の書庫』と聞きシャルルは首をかしげる。


 ナスターシャの言うお爺様とは恐らく隠居して別宅に暮らす先代伯爵の事。今からその家まで行こうというのは不自然なので、たぶん先代の頃からこの屋敷にある書庫だろう。


 だが、そんな書庫に子供向けの本があるのだろうか?


 シャルルの疑問を察しルドルフは言う。


「父は書物を集めるのが趣味でね。その中には絵本や子供向けの本なんかもあるんだ。もちろんほかにも文学や魔法、動植物の図鑑やアーティファクトに関する本なんかもあってその種類は多様だよ」


 それを聞き納得したシャルルはその書庫に興味を持つ。


「なるほど。ところでその書庫の本、私にも見せてはもらえないだろうか?」


「もちろんかまわない」


 ルドルフの返事を聞きステラが言う。


「じゃー、しゃるーもいっしょにいこー」


「ああ、そうしよう」


「では私も行こう」


 ルドルフがそう言うと、ナスターシャは夫人に言った。


「じゃあ、お母様も一緒に行きましょ」


 だが――


「わたくしは遠慮しておきますわ」


「えー」


 こうしてティータイムのあと、シャルル、ステラ、シルフィ、ルドルフ、ナスターシャ、カロリーネ、の夫人を除く六人で書庫に行く事になった。




 書庫は伯爵邸本館にあり、それなりの広さがある。とはいえ図書館ほどの規模はなく、大きい学校の図書室程度といったところ。


 鍵がかかっているので勝手に入る事はできないが、鍵の管理はメイドなどの使用人がしているのでそこまで厳重ではない。もちろん貴重な書籍などは厳重に管理されているが、館の使用人を伴えば簡単に入る事のできる場所だ。


 ちなみに、あくまで先代伯爵が趣味で集めた本を置いておくだけの部屋なので司書は居ない。


「どうぞ」


「ありがと」


「はーい」


 カロリーネが鍵を開け扉を開くと、ナスターシャとステラ、シルフィが書庫に入る。それに続いてルドルフとシャルルも中に入り、最後にカロリーネが入った。


 部屋の中には本棚が所狭しと並び、窓のそばの日当たりの良い場所には数人で使える大きさのテーブルと数脚のイスがある。


「この前はお花がいっぱいのってる本を見たから、今日は動物がいっぱいのってるのにしましょ」


「うん」


 ナスターシャとステラは数冊の図鑑らしき書物を手に取りイスの上に置くと、壁を背に床に座り込んで一緒にそれを見始めた。


 シャルルはざっと書庫を見て回ってからルドルフに聞く。


「魔法に関する本が見当たらないのだが……」


「ああ、その辺は貴重なものが多いから奥の部屋だ」


 そう言うとルドルフは懐から鍵の束を出し、部屋の隅にある扉を開ける。


 扉の向こうは物置のような部屋になっていて、埃をかぶった本棚や箱、積まれた書籍などが置いてあった。


 人があまり入らない部屋なのだろう。入った事で埃が舞い上がりシャルルたちは咳き込む。


「ごほっ。すまん。ここには貴重品もあるので鍵は私と父上しか持ってない。だからあまり掃除はしないんだ」


「なるほど……」


 仕方ないとはいえ空気が悪すぎる。だが、窓を開けてもあまり効果はなさそうだ。そう思ったシャルルはシルフィを呼ぶ。


「シルフィ。ものを飛ばさないようにしながら埃だけを外に出したい。できるか?」


「やってみます」


 そう言うとシルフィは小さな竜巻みたいなものを起こし埃を集め、それを窓から外に出す。さすがにものに付着した埃までは取れなかったが、軽く吹いても舞い上がらない程度にはきれいになった。


「おお、素晴らしい」


「すごいです」


「良くやった」


 ルドルフとカロリーネは感嘆の声を上げ、シャルルはシルフィの頭をなでる。


 すると彼女は得意げに笑う。


「おやくにたててうれしいです」


 その後、ルドルフが居ないと入れないところなので、この機会にとカロリーネは掃除を始め、シャルルは適当に面白そうな本がないか探す。そして、彼はなんとなく無造作に置かれたバインダー型の本を手に取り開いてみた。


 そこに綴じられていたのは魔術のスクロール。それを見てシャルルは思う。


 書庫にあるから本なのかと思ったが……スペルバインダーか。しかし、これは……。


 そのバインダーに綴じられていたスクロールは低レベルのものばかり。恐らくはさほど珍しいものでもないだろう。


 だが、その多くはシャルルがまだ習得していないものだ。


 夏に使えそうな冷水を出す魔術やつけたり消したりが簡単なライトの継続魔法版など、覚えておけば便利そうな魔術がいくつもある。


 これは良いものを見つけたな。


 そう思ったシャルルはこの機会に覚えておこうとそれに見入り、そんな彼を見てルドルフは言った。


「なにか良いものでも?」


「スクロールがあったのでちょっとね」


「スクロール? ああ、魔術師が魔法を使うときに必要なあれか。しかしここにあるようなものではシャルル殿にはいささか低レベル過ぎるのでは?」


 ルドルフはシャルルがドラゴンと戦ったときに高位魔術を使っているのを見ている。この世界の常識で考えれば、そんな人物が低レベルの魔術を知らないのはおかしい。なので彼の言う事はもっともだ。


 しかしシャルルにこの世界の常識は通用しない。


 彼は確かに高度な魔術を使えるが、使える魔術はゲームで覚えたものとこの世界に来てから習得したものに限られる。今まで魔術を習得する機会が少なかったため、低レベルなものも含めシャルルが使える魔術は極わずかだ。


 とはいえシャルルはルドルフにそんな事まで教えるつもりはない。なので適当にごまかしておく事にした。


「確かにそうだが……いずれステラにもこれくらいは用意してやらねばと思ってね」


「なるほど。そういえばあの子には魔術の才能があるんだったな。スクロールは複製もできるし、しまわれていないものはさほど貴重なものでもない。ここにあるもので良ければ差し上げよう」


「それはありがたい。では遠慮なく……」


 そう言うとシャルルはそこにあった何冊かのバインダーから自分が使いたいものをラーニングしたり、ステラが将来使えそうなものをチョイスする。そしてしばらくその作業に熱中していると、ルドルフは一つの箱を持ってきてシャルルに見せた。


「これはそこらのスクロールとは一線を画す一般には出回ってない貴重なものだ。遺跡で発見されたものでおいそれと誰にでも見せられるものではないのだが――」


 そこまで言うと、掃除しているカロリーネに聞こえないように小声で続ける。


「……皇帝陛下のご友人でこの都市の恩人でもあるシャルル殿には特別にお見せしよう」


 そして箱を開け一枚のスクロールを開いて見せた。

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