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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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紅蓮の竜騎士、再び その2

 伯爵邸本館の玄関前。そこにはシャルルたちを迎えに行った執事を除き、五日前にシャルルたちを見送った人たち――伯爵と夫人、令嬢ナスターシャとメイドのカロリーネがいた。


 伯爵は迎えに遣した執事からシャルルたちを連れて戻る旨の連絡を受けている。だが、連絡を受けてさほど時間が経たないうちから待っているため、既に結構な時間待ち続けていた。


「少し早すぎたか……」


「かも知れませんわね」


 伯爵のつぶやきに夫人は扇子で口元を隠しつつ苦笑する。


「ステラも来るのよね?」


「はい。そう聞いてます」


 カロリーネはもう何度目かわからないほど同じ質問をするナスターシャに同じ答えを繰り返す。


 そして――


「あ、あの馬車。あれよね?」


「ですね」


 到着した馬車からまず執事が降り、続いてシャルルたちが降りてくる。


 ステラが居る事を確認すると、ナスターシャは駆け出しその名を呼んだ。


「ステラ!」


「たーしゃ!」


 駆け寄るナスターシャを見てステラも彼女の名を呼ぶ。


 そして二人は――


 長い間離れ離れだった親友同士が久しぶりに再会したかのように、固く抱きしめ合い再会を喜んだ。まあ、別れはつい先日の事なのだが。


 そんな二人を見て軽く微笑みつつ、シャルルは伯爵に挨拶する。


「帝国特務騎士シャルル。この都市の危機を知り馳せ参じました」


「良く来てくれた。貴殿の助力に感謝する」


「そのお言葉に応えられるよう、尽力致します」


 シャルルたちが定型文のような堅苦しい挨拶をする横で、ステラはナスターシャに言う。


「あのね、あのね。すてら、たーしゃとやくそくしたから、どらごんやっつけにきたの」


「えっ!?」


「でもね、でもね。すてら、たーしゃとやくそくするよりもっともーっとまえに、しゃるーとやくそくしてたの。どらごんはしゃるーがやっつけるから、すてらはやらなくていーって。だからすてらはやっちゃだめなの。ごめんね」


 ドラゴンをやっつけに来た。ステラのその言葉に驚きあせったナスターシャだったが、結局ステラはやらないという事なので安心して胸をなでおろす。


「ううん。私、ドラゴンが出たって聞いてすごく怖かった。でもステラが来るって聞いたら、怖いのが少しなくなったわ。だから、来てくれただけでとっても嬉しいの。ありがとう」


「たーしゃ……」


 今度は手を取り合って見つめあう二人。そんな様子を優しい目で見ていたシャルルだったが視線を伯爵に戻すと聞く。


「して、現在の状況は?」


「うむ。現状は――」


 ドラゴンに動きはあるものの、まだ少し時間はある。とはいえ早ければ今日中、遅くとも明日には襲撃があるであろうペース。


 ドラゴンは門と逆の西の方角、この都市の周囲に広がる森から来ている。広大な森には背の高い木もいっぱいあり、そのせいで発見が遅れたらしい。


 現在は都市の西側に軍とハンターが陣を張り待ち構えている状況。戦力としてはそのほかに帝国が誇る対ドラゴン専門部隊、ドラッへイェーガーに出動要請を出しているのだが、到着に数日を要するため初戦には間に合いそうもない。


 ちなみに防衛の指揮は伯爵ではなく都市軍のトップである将軍が取る。とはいえ都市の最高責任者は伯爵なので完全に丸投げというわけではないらしい。


「と、まあこんな感じだ」


「なるほど……」


 シャルルは知っている情報と今聞いた話から状況を整理する。


 ドラゴンを倒すのを討伐、引かせるのを撃退と言うが、この都市の戦力ではよほど強いハンターでもいない限り討伐は不可能。小都市に有力なハンターが居る事はまれなので、恐らく目指すのは撃退だ。


 撃退したドラゴンは数日から数週間で再び同じ都市を襲う事が多い。初戦には間に合わないであろうドラッへイェーガーを呼んでいるのは二戦目以降を考えての事だろう。


 まあ、私が来たからには二戦目は無いがな……そう思ったところでシャルルは気づく。このままだと自分は帝国特務騎士として戦闘に参加する事になるという事に。


 特務騎士はその名の通り騎士の身分。そして騎士が単騎でドラゴンを倒したらどうなるか? 他国の事ではあるが、それにはラーサーという前例がある。


 ラーサーは騎士のときにドラゴンを倒し叙爵された。その例に(なら)えば帝国でも同様に叙爵されるはず。


 そうなれば帝国の貴族となってしまい、シャルルに今のような自由は無くなる。そして、ステラの将来もおおむね決まってしまうだろう。


 しかもそれだけでなく、ヴォルフが語っていたシャルルに帝位を継がせるという計画が進行する可能性すらある。


 もちろん叙爵を辞退すれば回避は可能だが――特務騎士は事実上、皇帝の私兵。それが主の意に反する行動を取るとなると、皇帝の権威を下げる事になる。


 ヴォルフは気にしないかもしれないが、他の貴族たちの反感を買うのは必至。そんな事になれば帝国で生活しづらくなってしまう。


 確かに今はステラを通わせる学校を探すため大陸南部に行くつもりであり帝国に留まるつもりは無い。だが、しばらくはまだ帝国内に居るわけだしうまく行かずに戻ってくる可能性だってある。


 そう考えると、やはりここは波風を立てず行きたいところ。


 もちろん力を隠して大勢の中の一人として参加すれば問題は起きないのだが、そうすると間違いなく参加者に死人が出るだろう。


 さすがに自分が手を抜いているせいでそうなっては気分が悪い。


 マギナベルクのときみたいになんのしがらみもなければ、さくっと倒して終わりなんだがなぁ……そう思ったところでシャルルに妙案が浮かぶ。


 そうだ! 特務騎士ではなく、あくまで無関係な者がドラゴンを倒した事になれば良いのだ。例えば、たまたまこの都市に滞在していた英雄とかが。

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