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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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紅蓮の竜騎士、再び その1

 浮遊速車。通称『速車』と呼ばれるビッグスクーターに似た形のそれは、重力魔法で機体を地面から少しだけ浮かせ、風魔法で制御、推進させる魔法道具。


 機体は燃料消費量のほとんどを占める重力魔法の負担を軽くするため、見た目に反してかなり軽量に作られている。


 そのせいもあり制御が難しく、ベテランでも高速で運転し続けるのは難しい。


 そんな速車に乗ったシャルルはゴーグル越しに前方を見据え、ローブをはためかせながら街道をひたすら飛ばしていた。


「おおー! おそと! おそとがどんどんながれてく」


 運転席に深く腰掛け座るシャルルの前に空いた狭いスペース。そこにシルフィと帽子を抱え座るステラは、速車のスピードと流れる景色にはしゃぐ。


「こら、危ないから動くな」


「はーい」


 そう言いつつも、ステラは右を見たり左を見たりと落ち着かない。


 そんな彼女を押さえつつシャルルは言った。


「シルフィ、ステラが落ちないように気をつけてくれ」


「わかりました、ごしゅじんさま」


 速車はバイクに近い乗り物だがエンジンも車輪も無い。その上、宙に浮いているので非常に静かだ。


 だが浮いているとはいえその高度は精々20~30cm。なので大きな岩や穴、起伏がある悪路を進むのは難しい。


 しかし、今シャルルが走っている場所は舗装こそされていないがきれいに整地された街道だ。そのため高速道路やサーキットでも走っているかの如く快適に進んでいる。ステラが動いて邪魔な事を除いての話だが。


 そして途中、何台かの馬車を追い越しつつ、出発から2時間ちょっとといったところでシャルルたちは小都市グリュンバルトに到着した。




 グリュンバルトは都市封鎖が始まったらしく、昼間にもかかわらず門が閉まっている。そんな様子を見てステラは言った。


「しゃるー、へーてんしてるよ」


「そうだな」


「都市はお店じゃないから閉店じゃないんじゃない?」


「そーなの?」


「まあ、そうだな」


「じゃー、なんてゆーの?」


「えっーと……」


 ステラの質問にシルフィは腕を組み考え込む。


 それを見て閉門か封鎖あたりかなぁ……などと思いつつ、シャルルはこれからどうするかを考える。


 とりあえず都市の中に入らなければ始まらない。なので事情を説明して中に入れてもらう必要があるのだが――門の前では締め出されたのであろう人々と、説明をしているのであろう都市兵がもめているのが見える。


 今あそこに行ってもスムーズに話が進むとは思えない。落ち着くまで待った方が良いだろう。


 とはいえ状況がわからない以上、一刻を争う事態になっている可能性も否定できない。なのでぼーっと待っているというのも問題がある。


 さて、どうしたものか……シャルルが悩んでいると、誰かが近づいてくるのが見えた。


 近づいてくるのはがたいの良い中年くらいの男。貴族ほどではないが仕立ての良い服を着ている。


 その男はシャルルから数メートルというところで立ち止まると礼をして言った。


「失礼。特務騎士シャルル様とお見受け致しますが、間違いないでしょうか?」


「そうだが……」


「確認させていただいても?」


「かまわんが……貴殿は?」


 シャルルの質問に男は、はっとした表情をすると慌てて頭を下げる。


「申し遅れました。私は都市防衛管理局所属、正門警備隊第三部隊隊長ヨーゼフ。グリュンバルト伯爵閣下の遣いの方よりシャルル様をご案内するように申し付かっております」


 そしてシャルルの身分証を確認したヨーゼフは、シャルルたちを門から少し離れた関係者用の通用門に案内した。




 ヨーゼフに連れられ都市内に入ると、グリュンバルト伯爵家の執事である初老の男がシャルルを出迎える。


 彼を見てさっきヨーゼフが言っていた伯爵の遣いとは彼の事なのだろうとシャルルは思う。


「シャルル様をお連れしました」


「ご苦労様です」


 執事に労いの言葉をかけられると、ヨーゼフはシャルルたちの方に向き直り会釈する。


「では、私はこれで」


「ああ、ありがとう」


「ばいばーい」


「さよなら~」


 手を振るステラたちに軽く手を振り返すとヨーゼフは背を向け去って行く。そして一通り終わるのを待っていた執事は、シャルルの前に進み出ると丁寧なお辞儀をして言った。


「お待ちしておりましたシャルル様。このたびはグリュンバルトの危機に際しご助力いただけるとの事。主に代わり厚く御礼申し上げます」


「いえいえ、まだ来ただけで何をしたわけでもありません。ところで……なぜ私が来る事をご存知で?」


 シャルルは素朴な疑問をぶつけてみる。すると答えは言われてみればそれしかないというものだった。


「それは兄上……ゴホン、失礼。ランジュルング子爵閣下より伯爵閣下に連絡があったからです」


 それもそうか……と思いつつ、執事の最初の言葉でシャルルは気づく。


 ああ、子爵が言っていた弟ってこの人の事か。言われてみれば少し似てるな。


「そうでしたか」


「はい。では、とりあえずお屋敷の方にご案内致します。馬車を用意してございますのでこちらへ」


 そう言って歩き出す執事にシャルルは聞いた。


「子爵閣下からお借りした速車はどうすれば良いでしょうか?」


 ここは関係者しか入れない場所っぽいので置きっ放しでも問題なさそうな気がしないでもない。だが、もし借り物の速車に盗難や破損があったらやはり困る。


「もちろんランジュルングに返却する必要があります。よろしければこちらでやっておきますが、いかが致しましょう?」


「そうしてもらえると助かります」


「わかりました。そのように致します。では、参りましょう。伯爵閣下がお待ちです」


 こうして速車の返却を丸投げし、シャルルたちは伯爵の屋敷に向かった。

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