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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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小さな魔女と約束 その4

 子爵が用意できるのは馬、華鳥(通称『鳥』)、走竜の三種。馬と華鳥は知っているがシャルルは走竜という生き物を見た事が無い。なので子爵に尋ねると、彼は少し驚いてから二足歩行の小さな(と言っても人よりは大きい)竜だと教えてくれた。


 走竜は獣なので暴れた場合に対処できる必要があり、フォースや魔法が使えるある程度の実力者でないと扱えない。力があり荷車を引けるが移動速度は鳥とあまり変わらないらしいので、それならとシャルルは乗った事のある鳥を選ぶ事にした。


 そして鳥のいる厩舎に向かう途中、シャルルは扉が開け放たれた小屋、言うなれば小さなガレージのような場所に大型スクーターのようなものがあるのを発見する。


「あれは?」


 どう見ても乗り物にしか見えないそれを指しシャルルは聞く。すると――


「あれは浮遊速車。先ほど申し上げました通称『速車』と呼ばれる移動用魔法道具です」


「ああ、あれが……」


 実は子爵が用意できると言ったのは速車を入れて四種。正確には子爵に「速車を操作できますか?」と聞かれ「ソクシャとは?」とシャルルが聞き返したら「移動用の魔法道具です。非常に高速で移動できる乗り物なのですが、素人では扱えないでしょう」と言われ「そうですか」とスルーしたものだ。


 あれってどう見てもスクーターだし、運転できるんじゃないか? だいたい、どれくらいの速度が出るんだ?


 疑問に思い興味もわいたシャルルは子爵に尋ねる。


「あれでグリュンバルトに行った場合、どれくらいで着きますか?」


「あれで行けるのなら数時間ですが――」


 子爵の説明によると、速車はベテランが運転すればグリュンバルトまで数時間。だが素人だと、まず乗れるようになるのに数日、そしてここからグリュンバルトにたどり着けるレベルになるには最低でも数ヶ月はかかるのだと言う。


 理由は運転が非常に難しい事と燃費が悪い事。そして燃費は移動速度に依存するため、遠くまで行くには高速であやつる必要があるからとの事だった。


 速車は反重力魔法と風魔法を使った乗り物で、反重力魔法で浮かせた車体を風魔法で制御し動かすという方式。反重力魔法で物を浮かせるのはかなりのマナを消費するので、速車は移動速度に関係なく起動しているだけで燃料をガンガン消費して行く。そのためできるだけ高速で移動しなければならない。


 以上の理由から仮に乗れたとしても素人レベルでは途中で燃料切れを起こし、グリュンバルトにはたどり着けないのだと言う。


「なるほど。ですが、あれって二人乗りできませんか?」


「ええ、定員は二名なので可能ですが――そうすると重量の関係で燃料消費が多くなります。それに予備燃料が積めなくなるのでやはりここからですとグリュンバルトまでは持たないでしょう」


 シャルルはガレージの中を見て考える。


 こんなガレージがいくつもあるとは思えない事を考えると、ここにある速車は一台だな。二台目がある感じがまったくない。


 そしてあそこに見える箱が恐らく予備燃料。丁度後部座席らしき部分にはまりそうな形をしている。


 だとすると前の座席しか使えないわけだが、詰めればなんとかなりそうだ。重量の問題は……まあステラくらいなら誤差の範囲だろう。


 素人に運転は難しいと子爵は言うが、あれはどう見てもスクーターだし運転の仕方もあまり変わらないはず。


 それに私は癖があるから難しいと言われた鳥だって、初めて乗ったときから問題なくあやつれた。たぶんこっちに来たときにそういう力が備わったのだろう。


 以上の事から考えても、問題なく乗りこなせる気がしてならない。


 シャルルは軽く頷くと子爵に言った。


「以前、似たようなものを操作した事があります。乗り方を教われば運転できる気がするのですが……試させていただくわけにはいかないでしょうか?」


 子爵は少しだけいぶかしげな表情をするが頷く。


「わかりました。今は一刻を争うときですが……少しでしたらうちのライダーにレクチャーさせましょう」


 こうして子爵の了承を得て、乗れるか試す事になった。


 そして子爵に呼び出されたライダーに一通りの操作方法と手本を見せてもらったあと――


「おお……」


「さっすが、ごしゅじんさま」


「しゃるーかっこいー」


 シャルルは華麗に速車を乗りこなしてみせる。


「どうですか?」


 速車から降りシャルルが聞くと、ライダーは苦笑しながら言った。


「旦那もお人が悪い。ベテランでもここまで乗りこなせる人はそうはいませんよ」


「まあ、多少操作感は違うが、似たようなもの(スクーター)には乗った事があるんでね」


 実際、スクーターとは似ていると言えば似ているが、違うと言えばかなり違う。


 例えばハンドルは大型スクーターと同じようなタイプだが、アクセルは右足だしブレーキは一つで左足。それに浮いているので接地感がまったく無い。


 それでもまったく問題なく運転できるのは、シャルルの思った通りこっちに来てそういう力が備わったのか身体能力が高いからのどちらか、もしくは両方なのだろう。


「では、シャルル殿は問題なく運転できると?」


「今見た限りでは私なんかより遥かに上級者ですよ」


 そう言ってライダーは太鼓判を押す。


「では、お借りしても?」


「もちろんですとも。すぐに準備させます。どうか伯爵閣下のお力になって下さい」


 手を握りそう言う子爵にシャルルは頷く。


「お任せください」


 そしてすばやく準備がなされ、シャルルたちは速車でランジュルングをあとにした。


 走り出した速車の上でシャルルは言う。


「よし、グリュンバルトにステラの約束を果たしに行くぞ!」


「おー!」

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