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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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小さな魔女と約束 その1

 すべての日程を終えた翌日。グリュンバルト伯爵邸本館の玄関前でシャルルたちは伯爵一家に見送りを受けた。


 参加者はグリュンバルト伯爵と夫人、令嬢ナスターシャ、そしてメイドのカロリーネと初日にも居た初老の執事。


 伯爵はシャルルと握手を交わし微笑む。


「実に有意義な視察だった。仕事でなくともまた、ステラちゃんを連れて遊びに来てくれ。娘も喜ぶ」


「機会があれば是非」


 そんな社交辞令を交わしている横では、ステラとナスターシャが別れを惜しんでいた。


「私、ステラと過ごした日々をずっと忘れないわ」


「すてらもたーしゃのこと、ずーっとわすれない」


 さすがは伯爵令嬢といったところか。ナスターシャは目に涙をためつつも決して笑顔を絶やさない。


 そんな彼女にステラも精一杯の笑顔で答え、そして――


「これ、あげる」


 そう言うとシルフィに持たせていた花冠を受け取りナスターシャの頭に載せた。


 不意打ちにナスターシャの目からほろりと涙がこぼれ落ち、彼女は慌てて後ろを向く。そして後ろに控えていたカロリーネは、すばやくハンカチを出してそれを押さえた。


「お嬢様……」


「ええ」


 カロリーネが横に置いたかばんから何かを取りだすと、ナスターシャはそれを受け取り振り返る。


 彼女が手に持つもの。それはステラの服と同じで一見、黒に見えるほど濃い紫の大きな魔法帽。先端に黄色い星がついている星の魔女の帽子だ。


「ありがとう。私からはこれをプレゼントするわ」


「わぁ、ありがと。すてら、たいせつにする」


 それからナスターシャやステラは、交流のあったカロリーネと今度はケーキを作りたいだとか、シルフィとまた一緒にボール遊びしようといった感じのある種の社交辞令的な挨拶を交わす。


 こうしてしばらくの間、別れを惜しんだが――


「申し訳ありません。そろそろお時間です」


 と言う御者の言葉で別れの挨拶を切り上げ、伯爵が用意してくれた箱馬車に乗って乗合馬車の乗り場に向け出発した。


 しばらくステラはいつも通り馬車の窓からナスターシャたちが見えなくなるまで手を振る。


 そして見送りの人たちが見えなくなってからしばらくすると、帽子で顔を隠しながらスバルクのときと同じように静かに泣いた。





 小都市グリュンバルトを出発して五日目。シャルルたちを乗せた乗合馬車は昼前に宿場町ランジュルングに到着する。


 そして町の門から程近い停車場に停まり、御者から出発は明日の午前10時だと告げられた。


 乗合馬車はあくまで隊商の一部。そして隊商はこの町でも取引がある。


 最も重要な取引先は目的地である小都市ケルブリッツなので長くは留まらないが、一日程度足止めを食らうのは仕方のない事だろう。


 それにこの足止めは必ずしも無駄な時間とはならない。


 乗客たちはこの機会を利用して飲食店で栄養のあるものを食べたり、川や池といった水源や井戸を借りて体を拭くなど旅の最中にはできない事をしておく。


 ほかにも消費した食料や日用品の補充をしたり、中には宿に泊まって旅の疲れを癒す者もいる。


 宿に関しては金銭的な問題から馬車に泊まり我慢する人がほとんどだが、シャルルはステラもいるので休めるときは休んでおこうと宿に泊まる事にした。


 とはいえまだ明るい時間。それに到着が昼前だったのでまだ昼食を取ってない。


 そこでシャルルはとりあえず昼食を取りに飲食店があるであろう商店街に向かった。


 ランジュルングは子爵領だが同じ子爵領の宿場町イグナスと比べるとそこまでの賑わいは無い。そのおかげか入場料は無料だが、それでも普通の町より栄えてはいる。


 宿場町と呼ばれているが、基幹産業は土木業で街道整備の拠点らしい。そのためか道路整備に使うのであろう機材などが積まれた荷車や、その仕事に従事しているであろう屈強な男を良く見かける。


 シャルルたちが入った食堂もそんな感じの『現場の男』みたいなのが多く熱気に満ちていた。


「なんだか熱いわね……」


「おっきなひといっぱい」


「そうだな」


 席に着きメニューを見ると、『大盛りできます』ではなく『小盛りできます』と書いてある。周りの人たちは特に何も言わず注文しているので、小盛りを頼まなければ他のテーブルに並ぶ大盛りにしか見えないそれが来るのだろう。


 シャルルはとりあえず定食の小盛りを二つ頼んだ。


 他のテーブルのを通常の1.5倍とした場合の0.7倍程度を期待して小盛りを頼んだのだが、出てきたのはその換算で1.2倍。これなら普通盛りに取り皿を借りて一つをステラと二人で分ければよかったかな……とシャルルは思う。


 とはいえ後悔先に立たず。頼んでしまったものは仕方ない……と、もくもくと食べていると、ふと『グリュンバルト』というワードが聞こえてきた。


 話しているのはドワーフらしき人物で、なんとなく親方と呼びたくなるような風貌の男。聞いているのはスキンヘッドで筋骨隆々の人間らしき男だ。


 普段なら他人の話などあまり興味を持たないシャルルだが、つい最近まで居た都市の名が出ればやはり気になる。そこですこし聞き耳を立ててみると――


 どうやら親方は、グリュンバルトの都市内から街道にかけて敷き詰められている石畳の補修工事を請け負ったらしい事がわかった。


 だがその仕事、どうやら着工の日取りが都市の都合で延期になったらしい。


 そういえば、あそこは門から先もしばらくは石畳だったな。所々石が抜けているところもあった気がするし、それを直す作業なのだろう。そんな事を考えつつシャルルはもう少しだけ耳を傾ける事にした。


「で、なんで延期になったんだ?」


 スキンヘッドがそう聞くと、親方は口元に手をあてこっそりという感じで言う。


「それがな。まだおおっぴらにはなってないから大きな声じゃ言えないんだが……出たらしいんだよ。グリュンバルトにドラゴンが」

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