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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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小都市グリュンバルトの視察 その4

 星の魔女。それは今でも多くの著者により新作が作られ続けている主に子供向けのお話。原典は不明だが、少なくとも数百年以上前から存在していると言われている。


 古ければ古いほど竜狩りの魔導師の足跡を記したとされる記録に似た話が多く、そのため星の魔女とは竜狩りの魔導師の話を子供にも親しみやすく書いたものだという解釈が一般的だ。


 そういう理由から星の魔女の話を書く著者は、話の内容に係わらずドラゴンを倒すシーンを入れたがる傾向にある。


 もちろんドラゴンが出ない話もたくさんあるが、劇の場合はドラゴンが出ないと怒る客も少なくないんだとか。


 まあ、子供向けの話で子供が喜んでいるんだから、大人の自分がいまいちだと思ったところでそっちが正しいのだろう。


 昼食時に伯爵とナスターシャから星の魔女について教わったシャルルは、そんなふうになんとなく納得する。


 そしてそのあとは商店などを見て回り、特に問題なく貴族居住区にある商業施設の視察は終わった。


 帰りの馬車に揺られながらシャルルは思う。


 なんか今日って休日に上司一家と一緒に出かけたみたいな感じだったな。





 視察三日目からは貴族居住区の外、一般区の視察。


 一般区はざっくりと――


 商店や倉庫などが集まる商業地区。


 工場や製造業を生業とする者が集まる工業地区。


 田畑や農園、農業関係者が集まる農業地区。


 この都市の基幹産業である林業に従事する者が集まる林業地区。


 主に住居が立ち並ぶ居住地区。


 ――などに分かれている。


 正確には都市直轄の産業を行っている農業地区と林業地区は直轄区と言うのだが、貴族居住区と分けるときは直轄区も一般区と呼ぶ。


 シャルルたちは途中休日を挟みつつ、数日にわたってそれらの地区を回り各種役所や防衛関係の施設なども視察した。


 この都市は広大な森に囲まれているため林業が盛んだ。


 そのため工業地区では木工製品を作る工場や職人が多く、商業地区でも木製の製品を取り扱う店が多かった。


 この都市は他国に接していないため、対人の戦争を想定した軍事力は少ない。


 なのでこの都市にいる兵の役割は、主に治安維持や犯罪の取り締まりといった警察的仕事、それと魔獣、野獣とといった害獣やドラゴンなどから都市を守る事となっている。


 シャルルの見立てではハンターギルドの協力がなければ苦戦するかもしれないものの、軍だけでもドラゴンに対抗できる程度の力はある感じだった。


 ほかにも農業地区や林業地区、居住地区や各種役所なども視察して回りシャルルの視察は終わる。


 今回の事でシャルルは多くの知らなかった事を学んだ。


 したがって視察はまったくの無駄だったというわけではない。


 とはいえもう一度やった場合、労力に見合った知識が身に付く事はないであろう事を考えると、もう二度とやらなくて良いな……とシャルルは思った。





 月明かりが差し込む薄暗い部屋。今宵開かれたささやかな送別会で久しぶりにアルコールを口にしたシャルルは、ローブをハンガーにかけるとほろ酔い気分でベッドに横になる。


 そして一足先にベッドに入り、既に寝息を立てるステラを見て思った。


 また、泣くのだろうか……。


 視察の全日程を終え、明日シャルルたちはこの地を発つ。


 視察にはステラを連れて行けないので、その間、彼女の事はナスターシャのお付きメイド、カロリーネに任せていた。


 ステラとは既に顔見知りであったし、ナスターシャとも仲良くなったようなので丁度良いだろうという伯爵の提案だ。


 そして滞在中ステラはナスターシャと共に過ごし、共に学び、共に遊び友情を深めていった。


 シャルルは毎日、その日、何を学んだとか何をして遊んだとか、夕食時や風呂、そして寝る前にステラから聞かされ思う。なんだかスバルクでネリーの話を聞かされたときに似てるな……と。


 そんなナスターシャとも明日でお別れだ。


 旅の中ではいくつもの出会いや別れがあった。


 だが、ステラとここまで深い関係になったのはネリー以来だろう。


 まあ、泣いて行きたくないと言われたところで留まる気はないが……できれば悲しい別れではなく、良い出会いだったと思えると良いな。とシャルルは思った。

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