プレイヤー その2
城に着いたシャルルは馬車を降り、騎士に案内され城に入ると部屋に通された。
そこは絵画や彫刻が飾られた小規模な応接室といった感じの部屋。
透明度の高いガラス窓の外にはきれいな花が見え、中央には大理石のテーブルを囲むように革張りのソファーが置いてある。
「この部屋でおかけになってお待ちください」
「ああ」
騎士に勧められるままソファーに腰掛けると、控えていたメイドが一度礼をしてからシャルルに茶を出してきた。
「どうぞ」
「どうも……」
色、香りからハーブティといった感じのものだとわかる。
「では、準備が整い次第お迎えに上がります」
「わかった」
そして騎士は一礼して部屋を出て行く。
横に控えるメイドは軽く視線をこちらに向けてはいるものの微動だにしない。
さすがプロという事なのだろうか? しかしこの紅茶、毒とか入ってないだろうな……そんな事を考えつつもシャルルはさすがに一度も会いもせず、いきなり毒殺はあるまいと思いそれを口にした。
抜けるようなさわやかな風味。特に紅茶に詳しくはないシャルルだが、それでもこれが上等なものである事はわかる。
「うまい」
シャルルが思わず口にした言葉にメイドの顔が少しほころぶ。
それを見てシャルルの顔も少しほころんだとき、扉がノックされ、早くも騎士が迎えに来た。
つまり、部屋で一旦待たせるというのはいわゆる謁見の『形式』という事なのだろう。
シャルルが騎士の案内で部屋を出ると、メイドが部屋の前でシャルルたちに一礼する。シャルルはそれに軽く手を挙げ応え、騎士と共に謁見の間に向かった。
巨人でも来るのか? と聞きたくなる大きな縦長の扉を番兵が開けると、その先はパーティーくらいは余裕で開けそうな広間。左右には等間隔に騎士が並び、中央には奥の一段上がった場所にある玉座まで続くじゅうたんが敷いてある。
玉座の横にはヒイロ騎士団副団長のスコットが控え、玉座には若い男が座っていた。
あの男がラーサーか。しかし絵に描いたような謁見の間だな。
そんな事を考えつつ、シャルルは案内の騎士に続いてじゅうたんの上を歩いて行く。
そして騎士は玉座から数メートルといったところで止まり、片ひざを突いて礼をした。
「マギナベルク大公爵閣下。ハンター、シャルル様をお連れ致しました」
「ご苦労。持ち場に戻れ」
「はっ」
騎士は立ち上がると並んでいた騎士の列の端に加わる。
シャルルはこういうときの立ち居振る舞いを知らないが、とりあえず騎士がやっていたように片ひざを突き、そういえば前に兜を取れとブルーノにいわれた事があったな……と思い兜を取り、ラーサーに向って礼をした。
「マギナベルク大公爵閣下の召喚に応じ参じました。レベル2ハンターのシャルルと申します」
「よく来てくれた。私が鉱山都市マギナベルク領主、ラーサー・ヒイロ・マギナベルクだ。貴殿がドラゴンを倒しこの都市の危機を救ってくれた事に感謝する」
「もったいなきお言葉……」
このときすでに互いに対し『アナライズ』を使っていた二人は、こんな形式ばった会話をしながらまったく別の事を考えていた。
部屋の奥の玉座に座る人物。彼がラーサーなのだろうと思い、ある程度近づいた時点でシャルルはアナライズを使う。
だが、それでわかったのは『ロード』というクラスだけだった。
ロード? 知らないクラスだな……シャルルは考える。
シャルルの知るラーサーはクラス5のグランドナイト。だが、レベル100のシャルルにレベルが見えないという事は、ラーサーのレベルは100を超えているという事だ。
アナザーワールド2のシステムはクラスが1上がるたびにレベルの上限が20上がるので、恐らくラーサーのクラスはシャルルより上のクラス6以上。
だが、クラスがいくつも上がるとは思えないのでクラス6であると考えるのが妥当だろう。
戦士系クラス5が『グランドナイト(大騎士)』である事を考えると、クラス6が『ロード(君主)』というのも納得できなくはない。
シャルルは自分の経験から次元竜を倒すとその力が手に入る事を知っている。恐らくラーサーも何らかの力を手に入れているはずだ。
ラーサーが倒したドラゴンロードは彼自らが記した攻略日記を読んだ感じでは、ゴールドドラゴンやレッドドラゴンのように特殊なスキルを使うわけではなく、単に地力が強いという感じに思えた。
ドラゴンロードもレベル100のキャラではレベルが見えない事からレベル100を超えている事がわかっている。
これをゲームのシステムにあてはめるとドラゴンロードも『クラス6』だと考える事ができ、彼がその力を手に入れ『クラス6』になったと考えると辻褄が合う。
色々と不明な点はあるが、中央広場で見た銅像の装備やこの世界に普通に存在するとは思えないレベル100以上である事などを考えると、さすがにこのラーサーがアナザーワールド2のプレイヤーと別人とは思えない。
この事を前提に考えると、ラーサーはシャルルより1ランク上のクラス6でレベルは101~120。
今は身に着けていないが装備は最強クラスで、ここだと戦闘技術に変換されるプレイヤースキルはトップクラス。
この世界に来てからの経験も豊富でそれなりの強さを持つ部下もたくさんいる。
対してシャルルはクラス5のレベル100。
装備は対ドラゴン以外にはさほど強くもないドラゴン装備。
プレイヤースキルは上の下から中程度。
この世界の事はまだ良くわからず特に強い仲間もいない。
レッドドラゴンを倒して手に入れた力を使えば十分勝ち目はあるだろうが、色々とかなりの差があるため絶対とも言い切れない。
シャルルは思った。こいつとは敵対しないようにしよう。
ラーサーも扉から入って来るシャルルが効果範囲に入った瞬間にアナライズを使った。
それでわかったのは彼が『ダークナイト 100/100』であるという事。
スコットの報告とあわせて考えれば、さすがに元々この大陸にいた人物とは考えられない。
だが、いくつか気になる点もある。
一つはクラス。彼はなぜクラス6ではないのだろうか? ラーサーはシャルルのクラスを見るまで次元の扉はクラスアップクエストだと思っていた。
実際、ラーサーはドラゴンロードを倒したときにクラス6になっている。
普通のクラスアップとは違い、なぜかクラスアップと同時にレベルが上限の120まで一気に上がったが。
クラスアップは初クリアのボーナスだったり、レアドロップのようにランダムでなるのだろうか? まあ、そんなところなのだろうと、とりあえずこの事に関しては考えるのをやめる。
しかし本当に赤いな……ラーサーはシャルルを見ながらそう思い、そして一人の人物を思い出す。
それはゲームで所属していたギルド、雀卓の騎士メンバー、レッドモード。彼はその名の通り赤を好み装備品を赤く染色していた。
レッドモードの装備も似たような色をしていた事を考えると、やはりシャルルの装備はドラゴン装備を課金染色剤で染めたものだろう。
そういえばあいつもダークナイトだったな……そう思った瞬間に、彼がダークナイトになったクラスアップクエスト『闇の転生』で起きたキャラクター変色事件を思い出す。
闇の力を取り込み転生しダークナイトになるという設定のクエストで、演出としてキャラクターの色を黒系に強制的に変更してしまった事件だ。
そのときレッドモードも黒系の色になり、ちょうどシャルルのようになっていた。
闇の転生とは人間が魔族に転生するという事なのだろうか? もしそうだとしたら、彼が魔族なのも納得できなくもない。
とりあえず今わかっている事はシャルルはレベル100のダークナイトだという事と、少なくとも見た目は魔族であるという事。
このレベルなら想像していたほどの脅威とはならないが、敵に回せば厄介で、味方にすれば頼もしいのは間違いない。とにかく友好的な関係を築くべきだろう。