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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード10 手の届く範囲
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伯爵令嬢と小さな魔女 その3

 馬車が走り出して数十分。いつも通り乗った直後ははしゃいでいたステラだったが、今は旅の疲れからかシルフィを抱えたままシャルルに体重を預け静かに寝息を立てていた。


 そんなステラを起こさぬよう、シルフィはもちろんの事、最初はシャルルに街の説明をしていた伯爵も今は静かにしている。


 なので今聞こえるのは馬の蹄が地を蹴る音と馬車が揺れる音だけだ。


 そんな中シャルルはぼんやりと窓から外を眺めつつ考える。


 さて……これからどうしたものか。


 本来であれば到着したらすぐ交易ギルドに向かい、次の目的地である小都市ケルブリッツ行きの乗合馬車を予約するつもりだった。


 それから宿を取り、路銀も心許なくなってきたので滞在費の足しにするため出発するまでの間にできる仕事を探す。


 ざっくりとではあるがそんな感じの予定を立てていたのだが、その通りには進んでいない。


 伯爵と引き合わされた事で予定が完全に狂ってしまった。もはやこの状況で予定通りに行動するのは無理だろう。


 もちろん、実は特務騎士というのは方便で、ヴォルフに友情の証として騎士相当の権限をもらったのだと打ち明けてしまうという方法もある。そうすれば視察などせず予定通り行動する事も可能だ。


 しかしそれを他人に教えても問題ないのかどうかは良くわからない。シャルルとしては問題なさそうにも思えるのだが、絶対ではない以上、可能な限り隠しておいた方が良いだろう。


 それに今の状況も悪い事ばかりではない。


 恐らく滞在場所は伯爵からの提供があるだろうし、そうなれば滞在費が浮くので仕事をする必要もなくなる。


 その場合、乗合馬車の出発までに視察を終わらせてしまえば、過程は違えど結果的には予定とほぼ同じ。ならば流れに身を任せるのも一興というものだ。


 考えがまとまったシャルルはそのままぼんやりと外を眺め続ける。


 馬車の中は重苦しい雰囲気というわけではないが、特に会話もなく伯爵の屋敷に着くまで静かなままだった。




 貴族居住区の中でも特に豪邸が立ち並ぶ地域。その中でも一際目立つ屋敷の敷地に馬車は入って行く。


 そこには大きさの違う三つの建物があり、庭園や池、そして木々が茂る森のような場所もあった。


 恐らく中央にある一番大きな屋敷が本邸で庭園と池のそばにあるのが別邸、シンプルでこじんまりとしている建物は使用人の住居といったところだろう。


 本邸の前には使用人らしき者たちがずらりと並び、主人を出迎える準備をしているのが見えた。


 馬車が本邸の前に停車すると執事らしき初老の男が進み出て馬車の扉を開く。


 そして中から伯爵が降りてくると使用人たちは皆、一斉に頭を下げた。


『お帰りなさいませ旦那様』


「ああ、ただいま」


 伯爵が軽く手を挙げ答えると執事らしき初老の男が言う。


「お帰りなさいませ。準備は整ってございます」


「うむ。では、参りましょう」


 そう言うと伯爵は歩き出し、シャルルは寝ぼけ眼でふらつくステラを抱えそれについて行く。


 そしてしばらく歩くとステラを降ろし自分で歩かせた。


 城ほどではないが領主の屋敷だけあってかなり広い。


 最初は黙って歩いていたステラだったが、飽きたのか前を歩く伯爵のマントを軽くつまんで言う。


「ねーねー、まだー?」


 彼女にしてみれば伯爵もその辺のおじさんも同じだ。


 シャルルとて本来はそうなのだが――今は帝国特務騎士としてここにいる。さすがに連れが伯爵にそんな態度を取るのはまずい。


 シャルルはステラに軽く注意すると伯爵に頭を下げる。


「こらっ。すみません」


「ふふ、もう少しですよ」


 シャルルたちの様子に伯爵は気にしていないといった感じで微笑む。


 それからもう少しだけ歩くと伯爵は扉の前で立ち止まった。

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