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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード9 国の行く末を憂う老人
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帝国特務騎士 その4

 帝都に来て二日目。城を出ようとするシャルルたちをヴォルフは引きとめようとする。


 彼はここに何日泊まっても良いし、なんならここで暮らしても良いと言う。


 それを断ると今度は屋敷を用意すると言うが、シャルルはそれも断り城を出る。


 そして、いつも通りステラはいつまでもヴォルフたちに手を振り、彼らもシャルルたちが見えなくなるまで手を振っていた。


 シャルルたちは城を出ると貴族居住区も出て街に行く。それからそこで宿を取り、しばらく大陸南部に行く方法を調べた。


 南部に行くには大陸を南北に分断する大河を超える必要がある。


 帝国領から大河を越えるなら、帝都から見て南東方向にある港町、中都市ザルツァーフェンから行くのが一般的だ。


 ザルツァーフェンには大河を挟んで南部にある魔導帝国属国ジルヴァート王国の王都と行き来する船があり、それに乗れば南部に行く事ができる。


 なのでシャルルはとりあえずザルツァーフェンに向かう事にした。


 都市間を移動する手段の一つに乗合馬車というものがある。


 これは都市間を定期的に行き来している交易ギルドの隊商が、そのついでに人も運ぶというものだ。


 ほかの都市に入るので、当然だが乗るには目的地である都市への入場許可証が必要となる。そのため今までシャルルには縁の無いものだった。


 だが今は帝国内のどの都市でも入場許可証になる特務騎士の身分証がある。


 なので今回シャルルはそれで移動する事にした。


 乗合馬車は隊商の出発に合わせるため、乗車を申請してから少し待たされる。


 そこは多少面倒ではあるが、今までと違い名実共に完全に客なので、運送屋や行商人の荷馬車に同乗するより気楽だろう。


 目的地であるザルツァーフェンに行くには、とりあえず小都市エーアスタッドか小都市グリュンバルトのどちらかに行く必要がある。


 そのどちらを選んでも次に行くのは小都市ケルブリッツで、その次が目的地のザルツァーフェンだ。


 どちらから行っても距離的にはほぼ同じ。強いて言うならエーアスタッドの方が若干近い。


 だが、エーアスタッドは中に入っていないとはいえ帝都に来る前に寄った都市。せっかくなら違う都市が良いと思ったシャルルはグリュンバルトに向かう事にした。





 出発の日の朝。準備を終えたシャルルたちは、予約しておいた乗合馬車が停まっているはずの門の前に行く。


 するとそこでは交易ギルドの隊商らしき一団が出発のための審査を受けていた。


 馬車はいくつかあるものの見た目はほとんど同じ幌馬車なので、シャルルにはどれが乗合馬車なのかわからない。


 そこで彼はなるべくいそがしくなさそうな隊商の一員らしき若者に聞いてみた。


「すみません、乗合馬車の予約をした者なのですが……」


「ああ、あっちの方のどれかだよ」


 そう言うと若者は馬車が数台並ぶ場所を指す。


「はぁ……どうも」


 そう言うのだからたぶんそのどれかがそれなのだろう。


 それの中のどれなのかを知りたかったんだがな……そう思ったシャルルだったが彼に再び質問しても無駄だろうと考え、軽く頭を下げつつ馬車の方に行ってみる。


 そして迷子にならないようステラと手を繋ぎ、しばらく馬車を見て回った。


「しゃるー、おうまさんいっぱいだね」


「そうだな」


「ごしゅじんさま、あれじゃない?」


 シルフィの指す馬車はほかの馬車と同じだが、隊商とは思えない格好の若者や老人が乗り込もうとしているのが見える。


「かもしれん。行ってみよう」


 そして馬車に近づくと、シャルルは御者に聞いてみた。


「すみません、予約している乗合馬車を探しているんですが……」


「ああ、チケットを見せてくれるかい?」


「はい」


 シャルルは言われるままに二人分のチケットを御者に見せる。


「名前は?」


「シャルルとステラだ」


 それを聞くと御者は帳簿のようなものをめくり頷きつつ言った。


「確認できた。乗ってくれ」


「わかった」


 御者に促されシャルルはステラを抱えて馬車に乗り込む。


 すると中には荷物が積まれていて、座席のように並べられた箱には数人の人が座っていた。


 シャルルは適当な箱に座ると、もう一度、馬車の中を見渡す。


 乗客はシャルルとステラを含めて8人。さすがに貴族みたいのはいないが、そこそこ仕立ての良い服を着た若者からみすぼらしい老人まで様々な人が乗っている。


 空いている座席の感じから、あと2~3人くらいは来そうな感じだ。


 その後、シャルルの予想通り2人ほど乗り込んでから馬車は出発した。


 最初はわりと静かにしていたステラだったが、ある程度時間が経つと暇そうに足をぶらぶらさせる。


 すると隣に座っていた老婆がステラに声をかけてきた。


「お嬢ちゃん。飴、食べるかい?」


 そう言うと老婆は巾着のような袋から、恐らく砂糖を溶かして型に入れて固めただけであろう黄色くて丸い飴を取り出す。


「うん。あー」


 返事をするとステラは口を大きく開け、老婆は微笑みながらそこに飴を入れる。


 するとステラは体を左右に揺らしつつ、嬉しそうに歌いだした。


「あめ~♪ あめ~♪ あまくておいしい~♪ あまくてうれしい~♪」


 ステラの歌に合わせてシルフィが踊り、老婆も、ほかの乗客たちも笑顔になる。


 が――


「うるせえ! 静かにしろ!」


 若い男が怒鳴ると水を打ったように静まり返る。


 そして――


「う、うぇ……うあーん、しゃるー」


「むー! なによ!」


 ステラは声を上げて泣き出し、シルフィは頬を膨らませ怒りだす。だが、シャルルはシルフィを片手で制してから、ステラを抱きしめあやしつつ頭を下げた。


「すみません、すぐ静かにさせますんで……」


 怒鳴った男は不機嫌そうにしていたがそれ以上何か言う事もなく、他の客は少し困惑した表情を見せる。


 しばらくするとステラは寝息を立て始め、ガタガタと馬車が揺れる音だけが響いた。


 シャルルは眠るステラをなでながら思う。


 確かに完全に客という立場なのでそういう意味では気楽だが――色々な同乗者がいる事を考えると、乗合馬車より行商人の荷馬車の方が気楽かもしれないなぁ。

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