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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード9 国の行く末を憂う老人
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帝国特務騎士 その3

 指示を受けるとリオーネは机まで行き、そこに置いてあった箱を持ってくる。


 それを受け取るとヴォルフは中に入っていた一枚のプレートをシャルルの前に置いた。


 見た目は認識票を思わせる感じで、ハンターのライセンスプレートに良く似ている。色は金色だが明らかに金のそれとは違うので、たぶん黄銅か何かだろう。


「これは?」


「さっきの話にも出てきた帝国特務騎士の身分証じゃ。これをおぬしにやろう」


 シャルルはヴォルフに視線を戻すと言う。


「私は誰に仕える気も無いと言ったはずだが?」


「もちろんこれをやったからといって、ワシの配下になれと言うわけではない。これは単におぬしに騎士相当の権利をやるために渡すものじゃ」


「と言うと?」


「これがあれば帝国内のどの都市にも自由に出入りできる。もちろん貴族居住区にもじゃ。確かに名目上、ワシの配下という事にはなってしまうが――それは形だけの事。主従関係を結ぶつもりは無い。これがあれば色々と融通が利くし、ステラのためにも持っておいた方が良いじゃろ。ワシらの友情の証と思って受け取ってはもらえぬか?」


「友情の証……ね。なるほど。これがあんたの言ってた『帝国で暮らすなら必ず大きな助けになるもの』というわけか」


「そういう事じゃ」


 騎士相当の権利。これがあれば帝国のどの都市でも暮らす事ができる。


 それは確かにステラのため、そろそろどこか安心して暮らせる場所に落ち着きたいと思っていたシャルルが欲しいと思っていたものだ。


「……あくまで友からのプレゼントとしてもらっておこう」


 そう言うと、シャルルは首から提げていた同じく友からのプレゼントであるチェーンにそのプレートを通す。


 その様子を見て満足そうに頷くとヴォルフは説明を始めた。


「都市に入るときは入場審査でそれを見せ、視察に来たとでも言っておくが良い。そうすれば入場料は取られんからの」


「そうか。まあ、使わせてもらおう。ところでステラとシルフィはどうなる?」


「ん? ステラは子供じゃし、家族と言っておけば問題ない。シルフィは……まあ、元々エレメンタルに審査や入場料など無いから問題ないじゃろう」


「そうか。まあ、この借りはいずれ何らかの形で返すとしよう」


 そう言ってシャルルが軽く笑うと、ヴォルフは声を上げ笑いながら言う。


「ふぉっふぉっふぉ。おぬしがワシに友情を感じてくれるだけで充分なんじゃがな」


 その後シャルルたちはヴィアントシティのときと同じように夕食をご馳走になった。


 そしてあのときと同様に部屋を用意していると言うので泊まって行く事にする。


 ちなみに夕食はかなり豪華なものだったが、ステラはお菓子をいっぱい食べたせいであまり食べられなかった。


 夕食後シャルルたちは今夜泊まる部屋に案内される。


 そこはさすが皇帝の居城の中といった感じで、今まで泊まった事がないような豪華な部屋だった。


 二十畳以上はあろうかという室内は装飾品で飾られ、大理石のテーブルやそれを囲むように革張りのソファがある。


 窓は透明度の高い大きなガラス張りで、外には魔法の光でライトアップされている見事な庭園が見えた。


 一人用の部屋らしくベッドは一つしかなかったが、天蓋つきのそれは大きく、シャルル、ステラ、シルフィの三人で寝てもまだまだ余裕がある。


 シャルルは部屋に備え付けの風呂に入ったあと、ベッドに横になりながらこれからの事を考えた。


 あくまで友情の証としてもらった騎士相当の権利。したがって、当然だが騎士としての給料はもらえない。


 ヴォルフは仕事を請け負うなら給料を払うと言っていたが、それだと名実共にヴォルフの配下という事になってしまうので断った。


 なのでどこかに落ち着くにしても、何か仕事をする必要がある。


 そして落ち着いたらステラを学校に通わせたい。それもなるべく高度な魔術を教えてくれる学校に。


 ステラには最高レベルの魔術的才能があり、それ故に彼女は今後も国家や何らかの組織に狙われる可能性がある。


 今はシャルルが一緒にいるので問題ないが、いずれ大人になればその庇護下を離れるときが来るだろう。


 そのとき自分の身程度は守れるよう、ある程度の魔術を習得させておきたい。


 そう考えると魔術を学べるだけでなく、頼れる仲間や友人もできる可能性が高い学校に通うというのは非常に良い事だと言える。


 ヴォルフはデクレシス魔導学院に通わせないかと言ったがシャルルはそれを断った。


 確かに大陸最高レベルの学府と聞くが、そこに通えば帝国にとって有用な人材に育てられてしまう。何しろそのためにある学校なのだから。


 だが、それだとやはり普通の人生を歩むのは難しくなる。


 となるとやはり、通わせるならなるべくしがらみの無い学校が良いだろう。


 そう考えたとき、シャルルは灯火の魔女ことスージーの言っていた事を思い出した。


 大陸にはいくつか魔術を教える優れた学校があり、その一つに大陸南部の離島、魔法都市ウルティマギアにある魔法学院がある。


 この学院はデクレシス魔導学院に比肩すると言われているので高度な魔術が学べるはず。


 しかもウルティマギアは国に属さない独立都市。そこにある学校なら何のしがらみも無いので理想の環境だ。


 まあ、そこまで行くかどうかは別として、大陸南部になら他にもそういう学校があるかもしれない。


 確かに身分証を手に入れた今、帝国で暮らして行く方がはるかに楽ではあるだろう。


 だが、それは保険として、大陸南部で学校を探してみるのも悪くない。


 シャルルはそう考えた。

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