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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード9 国の行く末を憂う老人
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帝国特務騎士 その2

 ヴォルフは最初にいた上座ではなく対面になっている三人掛けの方に腰掛け、シャルルたちはその向かいに腰掛ける。


 ステラはヴォルフの屋敷でそうしたように今回もシャルルのひざに座るが、前回同様シャルルに持ち上げられ横に座らされた。


 そしてリオーネがお茶の準備を進めているとステラは言う。


「おかしは?」


「もちろんあるぞ」


「やったー」


 ヴォルフの返事に両手を上げ喜ぶステラ。だが――


「いや、もう時間も時間だし、夕食が食べられなくなるからお菓子は駄目だ」


「えー」


 シャルルの言葉に口を尖らす。


「今日はもういっぱい食べただろ?」


「でもぉ……」


「ちょっとだけなら良いのではないか?」


 ヴォルフが助け舟を出すと、それに乗ってステラは上目遣いでかわいくおねだりする。


「しゃるぅ……ちょっとだけでもだめぇ?」


「……本当にちょっとだけだぞ」


 軽くため息をつくシャルルにステラは抱きつく。


「しゃるー、だいすき!」


 こうしてお茶と少しだけお菓子が用意された。


 ちなみに今回ステラはジュースと言わず紅茶を飲む。


 シャルルをちらちら見ながら「においが~」などと言っているので、城の応接室でほめられたのがよほど嬉しかったのだろう。


 そして何も言わずともシルフィには魔油が出された。


 それを見て、城壁の応接室では魔油がすぐ用意できなかった事を思い出したシャルルはヴォルフに聞く。


「そういえば、魔油って珍しいのか?」


「ん? まあ大陸北部ではあまり使わんから、珍しいと言うほどでもないとは思うが……多くはないのう」


「じゃあ、高いのか?」


「いや、使い道は魔石と同じじゃし、この辺だと供給量は少ないが高くはないじゃろ。自分で買いに行くわけじゃないから良く知らんがな」


 そう言うとヴォルフはちらりとリオーネを見る。


 すると意図を察しリオーネは言った。


「マナの含有量で考えた場合、価格は魔石より若干安いです」


「へー、そうなのか」


 シャルルが納得していると、ヴォルフは再び口を開く。


「で、話を戻すが――いきなりおぬしを皇帝にすれば反発が起き国が割れるかも知れぬという話じゃったな」


「ああ、当然起きうる問題だろう」


「その解決策ならすでに考えておる。それは――」


 ヴォルフの考えた解決策はこうだ。


 まずシャルルを皇帝直属の騎士、帝国特務騎士に任命する。


 帝国特務騎士とは勅命でのみ動く皇帝の私兵に近い存在。だが騎士と名がつくのは伊達ではなく、騎士相当の身分と権限を持つ。


 次にシャルルを特務騎士として有力貴族のもとに派遣し、抱える何かしらの問題を解決させ恩を売る。


 具体的には武力、魔術などで解決できる問題はシャルルが直接動き、金や権力で解決できる問題ならヴォルフが裏で動く。


 こうして有力貴族に貸しを作ってからシャルルの功績を称え叙爵。その後、帝国貴族としてドラゴン討伐をさせ帝国の英雄として祭り上げる。


 有力貴族に貸しがあり、爵位を持つ貴族で英雄。この状態なら子を持たぬヴォルフがシャルルを養子に迎え皇太子としても反対意見は出ないだろう。


 その後シャルルに後継者として学ぶべき事を学ばせてから帝位を譲る。


「どうじゃ? これなら万事うまく行くはずじゃ」


「なるほど……確かにそれなら反発は起きないかもしれないな。無論、うまく行けばの話だが」


「そこはまあ、うまく行くようにやるだけの事よ。多少調整は必要じゃろうが、なんとでもなるじゃろ。どうじゃ? 引き受けてはくれぬか?」


 微笑みながらそう言うヴォルフにシャルルも微笑み返しながら言う。


「絶対、お断りだ」


「ふむ。ワシも立場上、この手は使いたくなかったが……こうなっては仕方あるまい」


 そう言うとヴォルフはテーブルに両手を着くと頭を下げて言った。


「頼む! 大陸に暮らす人類の平和と安定のため、老い先短いこの老人の願いどうか聞き届けてくれ」


「私からもお願いします。どうかヴォルフ様の思いをかなえてあげて下さい」


 拝むように頼み込むヴォルフ。それに追随するようにリオーネも頭を下げる。


 そんな二人に同情し、ステラは上目遣いにシャルルに言う。


「しゃるー……おじーちゃんかわいそう」


 断り続けるとシャルルが悪者みたいになるような、そんな空気が流れ始める。


 だが、そんな中シルフィはシャルルの前に飛んで行くと庇うように立ちはだかり言った。


「わ、わたしはごしゅじんさまのみかたです!」


「あ、ずるい! じゃー、すてらもしゃるーのみかた!」


 シルフィがそう言うと、あっさりとステラもシャルルの側に立つ。


 そんなステラたちにシャルルは微笑む。


「三対二という事で、やはり却下だな」


 するとヴォルフは苦笑しつつ言った。


「まあ、この提案は駄目で元々、断られるのは覚悟の上よ。ワシがおぬしに本当に渡したかったもの、それは――」


 そこまで言うと懐に手を入れるヴォルフ。


 だが、そこに思っていたものは無かったらしく、着ているローブをめくり内ポケットを見たりする。


 それからきょろきょろとあたりを見渡すと、彼は探していたものが机の上にある事に気づきゴホンと咳払いを一つしてから言う。


「リオーネ、例のものをここへ」


「はい」

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