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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード9 国の行く末を憂う老人
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帝国特務騎士 その1

 ワシの後を継いで皇帝になってくれんか?


 帝都ロットブルクの城で再会したヴォルフに突然そう言われたシャルルは、刹那の考えるそぶりすら見せず言い放つ。


「え? やだよ」


「いや、ちょっとくらい考えてくれても良いのではないか?」


 即答に苦笑するヴォルフにシャルルは言う。


「考えるまでもない。だいたいなんでよそ者の、それも良く知りもしない私なんだ?」


 シャルルの言い分はもっともだ。


 ヴォルフも軽く頷く。


「ふむ。確かにワシはおぬしと知り合って日も浅い。 おぬしがそう言うのも無理はないじゃろう。 じゃが――ワシとて伊達に歳を取っているわけではない。 長い人生の中でたくさんの人と出会い、色々な人を見てきた。 その経験から、わずかな交流でも相手の人となりがわかるんじゃ。 おぬしは責任感が強く義理堅い。 一度引き受ければ途中で放り出したりはせん。 それはおぬしがステラを連れているのを見ればわかる」


 ヴォルフはヴィアントシティでシャルルと出会ったとき、彼がステラを連れているのを見て思った。


 ステラにはクラス5の魔術的才能があるが、現状では普通の子供と大差無い。そんな彼女は高い能力を持つシャルルにとって有用な存在ではなく、むしろ邪魔ですらあるだろう。


 それでも彼がステラの面倒を見ているのは、恐らく責任感からだ。


 そんな彼に国を任せれば、やはり責任を持って国と民を導いてくれるはず。


 ヴォルフの言い分にシャルルは思う。


 確かに自分は『どちらかと言えば』ではあるが、責任感は強い方かもしれない。だからこそ、背負わずに済むなら責任など背負いたくないと思っている。


 ステラのときは自分が遺跡に入ったのがきっかけだから仕方ないが、ここでヴォルフの頼みを聞いて国を背負わなければならない理由など無い。


 ステラのためにもならないだろうし、避けられるなら避けるべきだ。


「そもそも、この国には皇子とか皇女といった後継者はいないのか?」


「ワシは独身じゃ。子はおらん」


「だとしても、帝国に貢献をしてきた者や有力貴族がいるだろ? そういう者たちを押しのけて、よそ者が皇帝になったりしたら不満が募るはずだ。そうなればすぐにではないかもしれないが、いずれ大きな問題になる」


「貢献者に有力貴族……か。無論、いないというわけではないし、有能な者も少なくはないが――残念ながらこの国をまとめ上げられるほどの者はおらぬ」


「私にはできるとでも?」


「ふむ。なぜおぬしか。それはまず、この国の現状を理解してもらう必要があるのう」


 そしてヴォルフは帝国の現状について語る。


 この国はヴォルフの師である英雄、竜狩りの魔導師ことロットベルンが、その実力とカリスマで人々を導きまとめ上げて作られたものだ。


 なので皇帝である彼を失ったとき、帝国は崩壊の危機に陥っている。


 ヴォルフが二代目皇帝として帝国の崩壊を防げたのは、ロットベルンの弟子という事やその実力、そして何より聖銀の勇者を討った者であるというところが大きい。


 皇帝の仇を討った者という事実がその地位に正当性を持たせ、多くの有力貴族が彼が皇帝になる事を認めた。


 そのおかげで帝国はまとまり、リベランドの独立こそ阻止できなかったものの崩壊は免れている。


 それから既に1000年以上という月日が流れた。


 帝国の最高位貴族である大都市の領主たちは、魔族であっても世代交代が進んでいる。


 かつては広く影響力を持つ者もいたが今では小粒な者ばかり。その影響力も領有する大都市と付随する中小都市に留まる程度でしかない。


 そのため国全体に貢献してきたと言えるような者はおらず、誰に帝位を譲っても他の有力貴族から反発が起きかねない状態だ。


 これはヴォルフが後継者を育ててこなかったせいもある。


 とはいえこの1000年間、これという人物に出会う事がなかったのも事実。


 しかし長寿の魔族とはいえ、齢1000を越えるヴォルフの先はもう長くない。


 もちろんヴォルフ亡きあとの事もある程度決まってはいるのだが――彼は自分がこの世を去ったあと、強力に帝国をまとめられるようなカリスマがいなければ、いずれ国が分裂するのではないかと危惧している。


 そうなれば大陸北部の三大国があるからこそ可能なドラゴンへの対処ができなくなり、大陸は再びドラゴンに蹂躙されてしまうだろう。


「誰か帝国をまとめられるような、そんな師のような実力とカリスマを兼ね備えた者がいれば……そう思っていたワシの前に現れたのがおぬしじゃ。ワシは思った。これは運命じゃと。おぬしのような英雄クラスの者ならば、実力、カリスマ共に師にも劣らぬ。おぬしにこの国を任せる事ができれば安心できるというものよ」


 腕を組み黙って話を聞いていたシャルルは、その腕を解くとあごに手をあて考えるような仕草をしてから言う。


「ところで……聖銀の勇者ってあんたが倒したのか?」


「ん? この前、話さなかったかの?」


 あれ? 聞いたか?


 そう思ったシャルルは少し考えるが――


「たぶん聞いてないな」


「そうか……まあ倒したと言っても、師と相打ちに近い状況のところで止めを刺しただけじゃがな。無論そんな状況でも並みの者なら返り討ちにあったであろうがの」


「なるほど」


 シャルルは頷くと、このタイミングだとばかりにヴォルフは聞く。頷いたあとには思わず頷きやすくなるという、心理的な効果を狙ったものだ。


「で、やってくれぬか?」


「ん? あ――いや、嫌だよ」


 一瞬、ああ、と言いかけ慌てて否定するとシャルルは続ける。


「だいたい、実力やカリスマがあろうが、いきなり現れた奴が皇帝になったらそれこそ国が割れるんじゃないか?」


「その事ならちゃんと考えておるぞ。まずは――」


 言いかけてヴォルフはずっと皆立ったままである事に気づく。


「ふむ。まあ立ち話もなんじゃし、とりあえず座って茶でも飲みながらにしようかの」


 そう言うとヴォルフはシャルルたちにソファを勧め、リオーネに茶の準備を命じた。

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