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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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プレイヤー その1

 マギナベルク城にあるラーサーの執務室。そこで部屋の主である濃い茶髪の青年ラーサーは、ヒイロ騎士団副団長スコットの報告を聞いていた。


 報告によるとラーサー不在中に出現したドラゴンは、シャルルというハンターレベル2の男に倒されたらしい。


 その男は赤い竜を模したような装備を身に着け、高位魔術を使い、フォースの達人でもあり、ドラゴンを圧倒し文字通り狩ったのだという。


 スコットいわく「その圧倒的な強さは、大公閣下に引けを取らないように見えました」との事。


 ハンターになったのは約三ヶ月前でそれ以前の事は不明。ハンターの過去が不明な事は良くある事で、それを詮索してはいけないという不文律もある。


 元ハンターが仕官した場合も基本的にその不文律は守られるため、ラーサーもそれでずいぶん助かった。


 確かにこの世界の住人にも五英雄をはじめ、単騎でドラゴンと渡り合える者は存在する。噂では南部の国で軍と共にではあるが、ドラゴンを討伐した者もいると聞く。


 元々強い者がなんらかの理由でハンターを始めたと考えれば辻褄は合うが――そういうわけありの者が単騎でドラゴンを倒すという目立つ行動を取るだろうか?


 ドラゴンを倒し聖王の再臨と言われた聖王連合の再臨の聖騎士といい、このハンターといい、急に力を手に入れた者がたまたま現場に居合わせたため、思わずその力を使い目立ってしまったというようにしか見えない。


 そう、昔のラーサーのように……。


 当時を思い出しラーサーはフッと笑う。


「どうかされましたか?」


 スコットの問いにラーサーは軽く笑いながら答えた。


「いや、その男。なかなか面白そうだと思ってな。ところで報告はそれで全部か?」


「はい、以上です」


「ご苦労だった。下がって良い」


「はっ! では失礼します」


 スコットは敬礼すると、扉の前でもう一度礼をして執務室を出て行った。


 誰もいなくなった部屋でラーサーは考える。


 情報を整理すると、やはりその男はアナザーワールド2のプレイヤーである可能性が高い。


 ドラゴンを模した装備というのは恐らくドラゴン系に対して絶対的な性能を持つドラゴン装備。ラーサーの知る物と色が違うが課金染色を使えばどうとでもなる。


 ラーサーと同じように次元の扉の先でドラゴンロードを倒しこの世界に来たとすれば、その装備であるのは極めて自然な事だ。


 もっとも、ラーサーは対ドラゴンでも今の装備の方が強かったのでその装備は使わなかったが。


 ラーサー以外のプレイヤーがこっちに来ている可能性。再臨の聖騎士の噂を聞いたときはもしやと思ったが、二人目が現れた事でほぼ確定と言って良いだろう。


 少し引っかかるのはそのシャルルという男が魔族らしいという事だが――まあ、異世界に転移した事で何かが起きたとか、ドラゴンロードを倒しクラスアップした事による変化かもしれない。


 ラーサーがこっちに来たのが10年くらい前で、再臨の聖騎士が最初に確認されたのは大体5年ほど前。そして今回の男……。


 彼らがプレイヤーだとした場合、攻略者が10年で三人しかいないという事だろうか?


 もしかしたら誰かがクリアしたら次の人が挑戦できるのは5年後というシステムなのかもしれないが――しかし、それ以上に気になるのは末期的だったあのゲームがその後10年も続いているという事だ。


 まあ……なんやかんやでだらだら続くゲームも少なくはないが。


 とにかく、もしその男がプレイヤーなら敵に回せば脅威となり、味方につければ頼もしい存在となる。


 報告から考えればよほどの下手を打たない限り、少なくとも敵にはならないだろう。


 地位でも与えて飼いならす事ができれば――そう考え、それで飼いならされたのが俺か……と、ラーサーはまたフッと笑った。





 ラーサー帰還から数日。ハンターギルドにシャルル宛の召喚状が届く。


 内容は報奨授与のため、『祭り』の日の朝に迎えを遣すので城に来るようにとの事。


 祭りとはラーサーがドラゴンを倒した後にいつもおこなっているもので、特に名称は無いが英雄公にちなんで人々は『英雄祭』と呼ぶ。


 祭りの目的は都市の危機が去り人々の不安が払拭された事を記念するとされているが、それは表向きの理由で真の目的はこの都市がラーサーに守られているという事を市民に強く認識させ、その権威を高める事。


 そのため祭りの日に中央広場の特設ステージでは、初代王を称えるリベランド建国の物語『真王リベリアス』や、ラーサーが大公爵になるまでの半生『英雄大公』など、国やラーサーの権威を示す劇が上演され、楽団による演奏は国やラーサーを称えるものとなっている。


 しかし演劇や楽団の演奏などは一般市民にはなかなか見られないものであり、人々はそれを楽しみにしていた。




 英雄祭当日の朝。ハンターギルドで待っていたシャルルのもとに迎えの騎士がやって来る。


 騎士はシャルルの前で片ひざを突き、まるで貴族を前にしたように丁寧な礼をして迎えに来た事を伝えた。


「ハンターシャルル様。マギナベルク大公爵閣下の命により、お迎えに上がりました」


「わかった」


 騎士に続きシャルルもギルドを出ると、そこに停まっていたのは角の生えた白馬が引く豪華な馬車。そして馬車に付き添う二頭の馬の前にいた二人の騎士が、さっきの騎士同様に片ひざを突き礼をした。


 シャルルは見送りをしている人たちに「じゃ、行ってくる」と言って軽く手を挙げ、騎士に促され馬車に乗り込む。


 片ひざを突いていた騎士たちも立ち上がると見送りに軽く礼をしたあと、馬に乗りゆっくりと進みだした馬車の左右について行った。


 その様子を見ながらローザがつぶやく。


「なんか……すごいね」


「そうだな……」


 アルフレッドもその光景を呆然と見ていた。




 シャルルがいなくなった後のギルドはシャルルと迎えに来た騎士たちの話で盛り上がる。


「見たかあの馬車。ユニコーンだったぞ」


「あの騎士たちってヒイロ騎士団だろ?」


「まるで貴族を迎えるような……」


 ユニコーンは希少種であるため高位貴族しか使わない。それを迎えに遣すとなると、相手に相応の格がある事を認めているという意味になる。


 また、ヒイロ騎士団はマギナベルク騎士団の中でもエリートで、ラーサーが大公爵になる前から共に戦ってきた腹心だ。


 これらの事からラーサーは、シャルルを最大限の敬意を持って城に招いたという事がわかる。


 テーブル席で酒を呑んでいたヨシュアは立ち上がり、話の輪に入ると言った。


「もうあいつは、ここには戻ってこないかも知れんぞ」


「え?」


「それってどういう……」


 ヨシュアの言葉にアルフレッドとローザが聞き返す。


「俺もヒイロ騎士団の副団長殿に勧誘されたんだよ」


 ヨシュアの話によると場のまとめ方やカリスマ性を買われ、ふさわしい地位を用意するように英雄公に進言するから騎士団に入団しないか? と誘われたらしい。


 ヨシュアはその気はないと断ったらしいが――


「俺を誘ったんだ。あいつを誘わない方が不自然だろ? それに今日のこの待遇。かなり本腰を入れて勧誘しにきてるようにしか見えんがな」


「そうかな? でも、シャルルはあまり出世とかに興味なさそうな気がするけど……」


「俺はハンターに誇りを持ってるしハンターとしての地位もある。今更堅苦しい騎士なんぞやってられんが――あいつはどうかな? それにあいつなら騎士より上を目指せるんじゃないか?」


 騎士より上、つまり貴族になるという事。


 それは一般人にはほぼ不可能な事だが大公爵にまでなったラーサーという実例があり、そしてシャルルはラーサー同様にドラゴンを倒せる力を持っている。


 確かにラーサーの場合はマギナベルクというドラゴンに占領されていた都市の開放や、第三王女との結婚という機会に恵まれた。


 それが無ければ大公爵にはなっていないだろう。


 では、シャルルはどうか?


 マギナベルクには普通の大都市にはある付随する中小都市が一つも無い。だがそれはマギナベルクが滅ばない限り、近い将来必ず建設されるはずだ。


 そのときマギナベルクでそれなりの地位があれば、新しくできた中小都市の領主に抜擢される可能性――つまり機会が存在する。


 確かにシャルルなら将来的に五英雄、魔剣美姫以来のミスリルプレートを持つハンターになるかもしれない。


 だが今の彼はレベル2のスチールプレート。ドラゴンを倒した英雄とはいえその地位はかなり低い。


 その事を考えれば、与えられる地位によっては仕官するという事もありうる……いや、常識的に考えれば普通は仕官するだろう。


「うーん」


 そこにいた者たちは思った。シャルルはもうここには帰ってこないかもしれないなぁ……と。

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