魔導帝国の皇帝 その2
区画もそうだが、この部屋は城壁の中という事もありあまり広くはないものの、貴族の屋敷を思わせるような豪華な作り。品の良い装飾品なども飾られていて小規模な応接室といった感じだ。
恐らくさっきの部屋は一般人を待たせたり取調べをしたりするような部屋で、こっちは貴族などの重要人物を待たせる部屋なのだろう。
シャルルが勧められるままにソファに腰掛けそんな事を考えていると、ノックのあとにメイドが紅茶とお菓子の載ったワゴンを押して入ってきた。
コンラートはメイドを見て軽く頷くと言う。
「準備を致しますのでこちらでおくつろぎになってお待ち下さい。何かありましたら彼女にお申し付けいただければ、可能な限り対応させていただきます」
そしてメイドがお辞儀をするのを見届けると、扉の前で礼をしてから部屋を出て行った。
コンラートが去るとメイドはお茶の準備を始めるが、それを見てステラは言う。
「すてら、おちゃよりじゅーすがいーなぁ」
「では、ご用意致します」
そう言うとメイドはお辞儀をして部屋を出ようとする。そこにステラは追加で言った。
「あ、しるふぃにまゆ? ってゆーのも」
「まゆとはなんでございましょう?」
振り返ったメイドは首をかしげ聞く。
するとステラはなんとか説明しようとするが――
「えっとね、えっと……しるふぃがおいしいって、ゆってたの」
「はぁ……」
うまく説明できず、メイドは困惑の表情を浮かべる。
ステラは助けを求めるようにシルフィを見るが、彼女もどう説明したものかと戸惑っている感じだ。
それを見てシャルルはくすりと笑うと代わりに説明する。
「魔法燃料の魔油だ。エレメンタルは魔法燃料を摂取するのでな」
「ああ、それでしたか」
メイドは納得して頷くが、次に頭を下げつつ言う。
「申し訳ございません。あいにく魔油はすぐにはご用意できませんので少々お時間をいただく事になるかと思います。よろしいでしょうか?」
それを聞きシャルルは考える。
そういえば、魔油を見たのはヴォルフの屋敷だけで売っているのを見た事が無いな。
という事は、貴族などでないと簡単に手に入れられないものという可能性がある。だとしたら、それを用意しろと言うのも無理難題を押し付けるようで良くないのではないだろうか?
そもそも魔法燃料であれば良いのだから魔油である必要も無い。
「魔石でも良いのだが……」
「それでしたらすぐにご用意できます」
そしてしばらくの間、シャルルたちがメイドの用意した紅茶や菓子、ジュースや魔石などを楽しんでいると、コンラートが戻ってきた。
「準備が整いました。こちらへどうぞ」
先行するコンラートに、シャルルはシルフィが魔石を持ったままなのを見たステラが菓子を持って行こうとするのを注意したり、いつまでもメイドに手を振るステラの手を引っ張ったりしながらついて行く。
するとそこには馬こそユニコーンではなく単なる白馬の二頭立てだが、マギナベルクでラーサーに召喚されたときに匹敵するような豪華な箱馬車が停まっていた。
「おおー、しゃるー。おうまさんしろいね」
「そうだな」
「なかなかすてきな馬車じゃない」
三人の感想を聞きコンラートは満足そうな表情を浮かべると、箱馬車の扉を開け乗車を促す。
「では、どうぞ」
「どうも」
シャルルはステラを抱き上げると、シルフィを伴い勧められるままに乗車する。
それを確認したコンラートは、御者に出発の指示をしてから自身も馬車に乗り込んだ。
馬車は外見に劣らず中も豪華で、ヴィアントシティで乗ったヴォルフの馬車を広くしたような感じになっている。
そして、道が舗装されているおかげもあるだろうが振動も少なかった。
透明度の高いガラス張りの窓からは町の景色が見え、様々な店がある商店街を抜けて行く。
窓から見える街並みに興奮するステラたちを見ながら、たぶんこのまま貴族居住区にあるヴォルフの屋敷に行くんだろうな……とシャルルは思った。