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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード8 帝都までの道
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安住の地を求めて その3

 男が去るとシャルルは半べそで怯えていたステラを抱き上げる。


「ぐすっ……しゃる……」


「もう、大丈夫だ」


「うん……」


「あんな奴、やっつけちゃえば良いのに!」


 シルフィは頬を膨らませそう言うが、シャルルは穏やかな表情で言う。


「トラブルを起こさないに越した事はない。お前も良く我慢したな」


「できるだけ人を傷つけないようにって、ごしゅじんさまが言ってたから……」


「ああ、言いつけを守って偉いぞ」


 そう言うとシャルルは微笑み、そしてステラを抱きかかえたまま店を出る。


 一方、ステラがぶつかった男は騒動のあと、元々居た席である数人の男が酒を呑んでいる席に戻った。


 男が席に着くとリーダー格だと思われる男が彼に話しかける。


「どうした、トラブルか?」


「いや、トラブルってほどの事でもない。ところで――今、出てったローブの男がいただろ?」


「お前がさっき怒鳴りつけてた奴か」


「ああ。奴の連れてたガキがぶつかってきて、侘びとしてこれを渡してきたんだが――まだ、持ってそうだと思ってな」


 そう言うと男は金貨を見せながらニヤリと笑う。


「なるほど」


「くっくっく。つまり、みんなで集金に行こうって事か」


 他の男が笑いながらそう言うと、そこに居た全員がニヤリと笑いながら立ち上がる。


「まあ、そういう事だ」




 店を出たシャルルは、とりあえずこの町の地形を把握するため適当に歩いていた。


 乗せてくれる馬車を探すとなると、やはり行商人、隊商、運送業などに頼む事になる。


 なので行商人や隊商と取引のある商店がある商店街で聞くか、行商人や運送業者に直接会える倉庫街などで探すのだが――それらを効率よく回るには、まずは地形を把握する必要があるからだ。


 そしてしばらく歩いていると、急にシルフィがシャルルの頭に乗っかってくる。


 よくある……と言うほどでもないが、多々ある事なので気にせず歩き続けると、シルフィは小声でシャルルに耳打ちした。


「ごしゅじんさま。つけられてるみたい……」


「ああ、6人かな?」


 その返事にシルフィは『さすがごしゅじんさま』と尊敬の念を抱きつつ頷く。


「うん……」


 一方シャルルは、ああ、あれはつけられてたのか……さすがだな……とシルフィに感心していた。


 確かにシャルルもそういう気配を感じてなかったわけではない。だからこそ『6人かな?』と即答できたのだが、まったく確信は持てていなかった。


 それはつけていた奴らがシャルルから見ると弱すぎるため、気配を察知しづらいという理由もある。逆になんとなくでも気配を感じられたのは、彼らに気配を消す能力が無いからだ。


 少しずつ人通りの少ない方へ進んで行くと、気配もついてくるのがわかる。


 そしてそろそろかな……と思ったところでシャルルはシルフィに言った。


「ステラを頼む」


「わかりました」


 頷くとシルフィはステラのもとへ行く。


 小声で話していたため二人の会話が聞こえてなかったステラは、急に自分のところに来たシルフィを見て首をかしげた。


「だっこしてほしーの?」


「そういうわけじゃないけど……」


 そう言うシルフィにステラは首をかしげつつも、とりあえずといった感じで両腕で包み込むようにシルフィを抱える。


 そしてしばらく進みシャルルたちが人通りの無い路地裏に入ると――進行方向から二人、後ろから四人の男が現れた。


 そのうち一人はさっき店でステラがぶつかった男だ。


 シャルルは建物の壁に背を向けると、ステラたちを庇いつつ男たちに言う。


「さっきの事なら謝罪したはずだが?」


 するとステラとぶつかった男が一歩前に出て、ニヤニヤ笑いながら言った。


「あれっぽっちじゃあ、たんねーな。有り金全部置いてきな」


 男の発言を皮切りに、他の男たちも笑いながら言う。


「へっへっへ」


「痛い目見ない内に出しちまった方がいいんじゃねーの?」


 ステラはシャルルのローブをつかみ怯え、シルフィは男たちをにらむ。


 だが、シャルルは涼しい顔で言い返す。


「じゅうぶん以上の侘びはしたと思うが……『施し』が欲しいのか?」


「あ!?」


『施し』という言葉に男たちは顔をしかめ怒りをあらわにする。


「施しじゃねえ。俺たちに献上するんだよ」


「どうやら痛い目を見なきゃわかんねえらしいな……」


「軽くもんでやろうぜ」


 拳を鳴らしながらじりじりと近寄ってくる男たち。帯剣している者もいたが、さすがにそれを抜く気は無いらしい。


「やっちまえ!」


 それを合図に男たちが駆け出すが――振り上げた拳も、放たれた蹴りも、シャルルに届く事は無かった。


 地面に伏し男たちは唸る。


「ぐっ……」


「な、なんなんだこいつ……」


「強ええ……強すぎる」


 男たちは鼻血を出したり口の中を切ったりして血がたれたりはしているが、大きな怪我をしている様子は無い。もちろんそれはシャルルが加減したからだ。


「くっくそっ」


 帯剣していた男は立ち上がると柄に手をかける。


 だが、それが抜き放たれる事は無かった。


 シャルルは柄を押さえつつ男に言う。


「やめておけ。抜けば命のやり取りになるぞ」


 それを聞き青くなった男は柄から手を離すと平伏した。


 それを見て、他の男たちも平伏し許しを請う。


「ほ、ほんの出来心だったんだ」


「金は取ろうとしたが、本当にそれ以上するつもりは無かった。許してくれ」


 だが、それを見下ろしつつシルフィは言った。


「ごしゅじんさま。許してくれなかったんだし、さっきのお金返してもらおうよ」


 シルフィの言葉を聞き酒場でステラにぶつかった男は青くなり、平伏しながら自分の財布を差し出す。


「申し訳なかった。ほかの奴は俺が誘ったんだ。これで何とか収めてくれ」


 シルフィはその財布を取ろうとするが、シャルルはそれを制しつつ言った。


「一度した施しを取り上げるのは無粋だろ? 治療費の足しにでもするんだな。一応言っておくが――次は無いぞ」


 そう言うとシャルルはステラの手を取りその場を去る。


 そしてそのあとは、商店街などを回ってブラウニンフェ方面に乗せていってくれる馬車を探した。




 これまでも何度もやってきた事なので既にだいぶ慣れている。おかげで初めての町の初日でもそれなりの件数を回る事ができた。


 だが、いつも通りと言うかなんと言うか……やはり簡単には見つからない。そしていつの間にか空が茜色に染まっていたので、今日は諦め宿に向かう事にした。

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