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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード8 帝都までの道
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安住の地を求めて その2

 イグナスに到着したのは午前中だが作業が終わったのは昼過ぎ。ステラがお腹すいたと言い出したので、早々に別れて適当な店で昼食を取る事にした。


 倉庫街を出るとすぐ一軒の小さな店が目に入る。西部劇で良く見るような両開きのドア、いわゆるウェスタンドアとかスウィングドアと呼ばれるドアのある店だ。


 それを見てシャルルは、カウボーイがバーボンでも呑んでそうな店だな……と思う。そして、とりあえずあそこはないな、と考えたのだが――


「しゃるー、すてらおなかぺこぺこー」


「もう少しだけ我慢できないか?」


「えー、ごはんー! ごはんー!」


「んー。じゃあ、あそこで良いか……」


 まあ酒場だとしても子供でも食べられる軽食くらいあるだろう……そう思いシャルルはその店に入る事にした。


 両開きのドアは位置が結構高い。なのでシャルルはもちろん無理なのだが、ステラは開かず通れてしまう感じだ。


 ちなみに今は開いているが内側に普通の扉があるので、雨の日や閉店後はたぶんそれを閉めるのだろう。


 中は外見通りあまり広くなく、二人用のテーブルが二つと四人用のテーブルらしきものが二つ、そして数人が座れるカウンター席がある。


 四人用らしきテーブルは端に寄せられ、その周りに座ったがたいの良いゴロツキ風の男たちが昼間から酒を呑んでいた。


 カウンター席にも二人ほど客が居るが、やはり酒を呑みながらナッツのようなものをつまんでいる。


 店の雰囲気はどう考えても良いとは言えず、シャルルがミルクでも頼もうものなら「坊や、帰ってママのおっぱいを飲んだ方が良いんじゃないか?」と誰かが絡み、みんなが大笑いするというお約束が起きそうな雰囲気だ。


 うーむ……やはり子連れで来るような店ではないなぁ……とシャルルは思う。


 とはいえ今更出てほかの店というのも面倒だ。さっさと食べてさっさと出ようと考えステラを二人用の席に座らせる。


 子供用のイスは無いのでテーブルの位置は少し高いが、食事ができないほどでもない。すぐ出るつもりだしまあ良いか……と思ったシャルルはカウンターに行って食事を注文した。


「何か子供でも食べられるような軽食を頼みたいんだが……」


「スパゲッティ辺りで良いか?」


 シャルルの問いに筋肉質でがたいの良い店主が答える。


「ああ。じゃあ、それを二人分……いや、少し少なめの0.7人分くらいを二つ頼む」


「わかった。できたら持ってくから席で待ってな」


 そう言うと店主は乾燥スパゲッティをゆで始めた。


 そして席で待つ事十数分。一人分には少し少なめな程度盛られたスパゲッティナポリタンが二つ運ばれてくる。


「おおー!」


 ステラが感嘆の声を上げると店主は軽く笑って言う。


「ほらよ。熱いから気をつけな」


「はーい。いただきまーす!」


 相変わらず不器用にグーで持ったフォークで器用に食べるステラを見ながらシャルルは思う。


 これってどう見てもスパゲッティナポリタンだよなぁ。やっぱ起源は聖王がらみか?


 だが、そう思うたびに聞いても切りがないな……とも思い、今回は聞かず店主に言われた料金を払い食事をした。


 量が少なかった事もあってシャルルは早々に食べ終わり、まだ食べているステラを眺めつつ次はどうするか考える。


 現在の目的地は帝都ロットブルク。場所はこの町からだとほぼ南西だが、ストレートに繋がる街道は無い。


 無論、街道を通らず道なき道を進めばストレートに行けなくもないが、そんな事をすれば危険だし余計に時間がかかってしまう。


 なのでそれを選ぶ事は無い。


 街道を通る場合のルートは二つ。


 一つは南下して小都市エーアスタッドに行き、そこから西に向かうルート。


 もう一つは西にある中都市ブラウニンフェ方面に向かい、そこまでは行かず途中で南下するルートだ。


 ただ、都市であるエーアスタッドを経由する場合、身分証が無いシャルルたちは中に入れない。したがってそのルートを選んだ場合、ゼントルタッドのときのように門の前で帝都行きの馬車を探す事になる。


 そうなると、また門の前で何日か野宿になる可能性が高く、それは避けたいな……とシャルルは思う。


 ブラウニンフェ方面の場合、都市であるブラウニンフェまでは行かないのでその心配はない。恐らく途中にあるであろう宿場町まで行き、そこを経由する事になるはずだ。


 もちろん直接帝都まで連れて行ってくれる馬車が見つかれば一番だが、途中の宿場町までだとしても問題ない。その場合は帝都行きが見つかるまで宿に泊まれば良いのだから。


 やはり、行くならブラウニンフェ方面だな……考えがまとまりシャルルは軽く頷く。


 そしてステラの食事が終わったのを確認すると、懐からティッシュを取り出しケチャップで赤くなったステラの口を拭きながら言った。


「よし。じゃあ、行くぞ」


「わっかりました」


「はーい。ごちそーさまでしたっ」


「ああ、ごちそうさま」


 向かいの席に座っていたステラはシルフィにつかまりながら、イスからぴょんと飛び降りる。


 そしてシャルルのもとに向かっててくてくと駆け出すが――


「わっ」


 近くに立っていた男の足にぶつかり尻餅をついた。


「コラー!」


 ステラを立たせながらシルフィが抗議の声を上げる。


 だが、それに対し男はにらみつけながら威嚇した。


「あーん? そのガキがぶつかってきたんだろうが! ぶっ飛ばすぞ!」


「ひっ」


「むー!」


 しゃがみこんで頭を抱え怯えるステラの前に出て、シルフィは頬を膨らませながら男をにらみ返す。すると男は手を上げシルフィに向かってそれを振り下ろそうとした。


 だがその刹那――シャルルが男の手に何かを握らせる。


「うちの子が失礼した。これで酒でも呑んで水ならぬ酒で腹の中にでも流してくれないか?」


 シャルルが握らせたのは一枚の金貨。それを見て男は言う。


「フンッ。ガキの躾はちゃんとしとけよ」


 そして去り際、男はシャルルが持つ巾着を見て思った。


 まだ、ありそうだな。

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