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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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紅蓮の竜騎士 その2

 日が傾きかけ夕刻までもう少しという時間。マギナベルクのほぼ全戦力が、北上してくるドラゴンを迎え撃つべく南門に集結していた。


 門の前には兵士、騎士、戦士系ハンターが扇型に陣を張り、ハンターを含む魔術師は門の上に配置されている。


 単騎でドラゴンを倒せる英雄公が不在である今回は、多くの都市が採用する城壁で待ち構えドラゴンを撃退するという作戦が採用された。


 ドラゴンはある程度のダメージを受けると撤退行動を取る。


 そこで地上部隊が注意を引き、門の上から高火力の遠距離攻撃である魔術でドラゴンにダメージを与え撤退させるという作戦だ。


 撤退したドラゴンは早ければ数日でまた同じ都市を襲う事があるが、これを2~3回繰り返すと数年から十数年は来なくなると言われている。(当然その間も別のドラゴンが来る可能性はあるので、倒せるなら倒した方が良い)


 今回はドラゴンを倒せる英雄公が数日で戻って来るので、数日後ならまた来ても対処可能。問題は一般的な中小都市よりも遥かに戦力が少ない現状で、ドラゴンを撤退させる事ができるかどうかだ。


 南方に広がる草原。かつて街道があった名残でうっすらと道のようなものが見えるその先から、地響きとともにドラゴンは近づいて来る。


 その巨大な姿、音、振動は見る者に恐怖を与え、それは次第に伝染して行く。


 その様子を見て今作戦の総指揮官、ヒイロ騎士団副団長のスコット・トレインは心の中で舌打ちをした。


 まずいな……。


 現在の戦力はドラゴンに対抗できるほどのものではない。


 彼の見立てでは実力を十二分に発揮しても撃退できるかどうかは五分五分と言ったところ。動揺が広がり浮き足立った状態ではとても無理だ。


 その実力からヒイロ騎士団では副団長を任されている彼だが、ラーサーという絶対的なカリスマと共にいたせいもあり、こういう状態を収めるすべを知らない。


 ほかの者とは違う意味で動揺していた彼だったが、その心配は一人の男によって解消された。


「恐れるな、集いし勇者たちよ。共にこの地を守るのだ!」


 地響きにも負けない力強い声に皆が注目する。


 声の主は『金獅子』の二つ名で知られ、この都市で唯一ゴールドプレートを持つハンター、ヨシュア。黄金に輝く鎧を纏いしその戦士は、剣を掲げはっきりと見えるような濃いオーラを発した。


『おー!』


 彼に呼応するようにハンターたちがそれぞれ武器を掲げときの声を上げると、それは騎士や兵士たちにも広がり各所で声が上がる。


「やるぞ!」


「俺たちがマギナベルクを守るんだ!」


『おー!』


 あれがこの都市で最強のハンターといわれる金獅子か……さすがだな。


 そんな事を思いつつ、スコットもそれにならいオーラを張り剣を掲げた。その濃さはヨシュアにも引けを取らない。


「我らの力、見せてやれ」


『おー!』


 ヒイロ騎士団の騎士たちも、それぞれにオーラを張り剣を掲げる。そのオーラはスコットやヨシュアほどではないものの、かなりの濃さだ。


 それを見て兵たちに『いけるかもしれない』という意識が芽生え始める。


 だが、興奮が最高潮に達し交戦まで後もう少しというところまで近づいていたドラゴンは、停止すると高く持ち上げた頭の前に黒い塊を作り出す。


 ドラゴンがまれに使う遠距離攻撃『魔力弾』だ。


 あまり使われないといわれているその攻撃は高位魔術に匹敵する破壊力を持ち、食らえばオーラを纏える者でさえ相当の実力者でもなければ跡形もなく消し飛ばされてしまう。


 その魔力弾が、作戦の要である魔術師たちのいる門の上部に向って放たれる。


 まずい――地上でそれを見ていた者たちは誰もがそう思ったが、どうする事もできずにいた。





 マギナベルク南門。その上に配置された魔術師たちは、地響きと共にゆっくりと近づいて来る黒い物体を凝視していた。


 魔術師として参加しているシャルルもそれを見ながら隣にいるブルーノに聞く。


「あれがドラゴンか?」


「ああ……」


 想像していたドラゴンと少し違うなとシャルルは思う。


 形こそシャルルの良く知るドラゴンなのだが、全身は鱗ではなくゴツゴツとした岩のようなもので覆われている。ロックドラゴンと言ったところだろうか。


 確かに今まで狩ってきたほかのモンスターとは一線を画すような強い力と異質な気配を感じるが、脅威となるほどとは思えない。


 距離があるせいでアナライズが使えず正確なレベルはわからないが、多少苦戦する事があったとしても倒せないレベルではないだろう。


 仮にそれが見誤りだったとしてもシャルルには奥の手がある。


 問題はそれをやるほどの価値があるかどうかだが――


「なあ、マスター」


「なんだ?」


「あれって指定害獣の表に載ってないが……倒したらいくらもらえるんだ?」


『倒したらいくらもらえるんだ?』という問いにブルーノは今作戦の報酬の話をしているのだろうと思った。


 都市防衛法の協力要請。物理的に不可能など、規定の理由以外で参加を拒めばライセンスを剥奪されるという半ば強制的なものではあるが、活躍すればレベル昇格の評価にもなり活躍に応じた報奨金も出る。


 ハンターになってから今日までの活躍を考えれば、シャルルはここでもそれなりの成果を上げるかもしれない。


「撃退に直接繋がるような活躍を見せれば、金貨を100枚以上もらえるかも知れんな」


「一人で倒してもその程度なのか?」


 だとしたら無理にやるほどでもないな。そう考えたシャルルだが、それを聞いたブルーノは笑いながら言った。


「そんな事ができるなら金貨1000枚は下るまいよ」


 シャルルの強さは認めているし只者ではないとも思っている。


 だがこのときのブルーノは、それでもシャルルの実力はレベル7ハンターで『金獅子』の二つ名を持つヨシュアには劣るだろうと考えていた。


 ドラゴンが近づき門の下からときの声が上がる。交戦は間近だ。


 ブルーノは魔術師たちに指示を出す。


「各々使える最強の魔術の準備をしろ」


 目を閉じ意識を集中する者、呪文のようなものを唱える者。それぞれのやり方でその者が放てる最強の魔術を準備する。


 使える最強の魔術……か。


 シャルルも言われた通り、右手を掲げ現在使える最強の魔術の準備を始める。


 皆がドラゴンを注視しながらブルーノの号令を待ったが、ドラゴンはそこにいるほぼすべての魔術師が使う魔術の射程範囲外で停止し、高く持ち上げた頭の前に黒い塊『魔力弾』を生み出しそれを放ってきた。


「打ち落とせ!」


 あせりでブルーノは指示を間違える。


 高位魔術に匹敵する魔力弾は並みの魔術で打ち消せるものではない。すべきは退避行動だ。


 だが、指示に従い魔術師たちは準備していた魔術を魔力弾に打ち込んで行く。


 そしてそれらは魔力弾の威力をほとんど削ぐ事もできず消滅していった。


 もう駄目だ――皆、迫り来る魔力弾を見つめながらそう思ったとき、炎の塊がそれを打ち消しそのままドラゴンを紅蓮の炎で染める。


 門の下では歓声が上がり、門の上の魔術師たちはあっけに取られた顔でそれが放たれた方――シャルルを見た。


「まあ、いけるだろう……」


 シャルルはそうつぶやくと、ブルーノを見て言う。


「金貨1000枚だったな。ちょっと行ってくる」


 そして、体にオーラ、足にフォースを纏い、シャルルは門の下へ飛び降りた。




 門の前には炎に包まれるドラゴンを見る者と、その炎を放った者がいると思われる門の上を見る者が半々という感じでいる。


 そして門の上を見ていた者たちは、そこから降って来る一人の男を目撃した。


 かなりの高さだ。フォースを使ったとしても並の者ならただでは済まないだろう。


 反重力の魔術などで降下速度や衝撃を和らげるという方法もあるが、そういうものを使っているようにも見えない。


 だが、その赤い竜を模したような装備を身に着けたその男は平然とそこに立っていた。


『シャルル!』


 アルフレッドとローザの声がハモり、シャルルは声に反応し軽く手を挙げる。


「よう」


「あれは……お前が?」


 アルフレッドはいまだ炎に焼かれているドラゴンを指す。


「まあな」


 それを聞き周りにいた者たちがざわめく。


 そして群衆の中から進み出て来たヨシュアが言う。


「あれをお前が? ならば協力してドラゴンを――」


 だがその言葉が終わる前にシャルルが片手で制し言った。


「それだと報酬が減るだろ? 悪いがあの『獲物』は独り占めさせてもらう」


「それって、どういう――」


 アルフレッドの言葉が終わる前にシャルルは片手を軽く挙げ、「じゃ、行ってくる」と言い残し駆け出す。


 誰かが何かを言っていたが、フォースを使って走るシャルルの速度は凄まじく、すべてを置き去りにしてドラゴンのもとに向う。


 そしてそこにいた者たちは目撃した。


 ドラゴンという『獲物』を『狩る』シャルルというハンターの姿を。




 沈黙したドラゴンを背に、ゆったりとした足取りで戻って来るシャルルを大歓声が迎える。


「マギナベルクは救われた!」


「マギナベルクを救った英雄シャルル!」


「新しい英雄の誕生だ!」


 皆、一様にシャルルを英雄と称え、シャルルは軽く手を挙げ歓声に応えた。



 英雄。この大陸には五英雄と呼ばれる伝説の英雄たちがいた。


 人類で初めてドラゴンを倒したと言われ、のちに世界征服をたくらみ魔王と恐れられた魔導帝国初代皇帝でもある『竜狩りの魔導師』


 竜狩りの魔導師と共に最強のドラゴン、白竜王を倒した神の分身。のちに聖王とも呼ばれた『白銀の聖騎士』


 神である聖王に遣わされ、魔王を倒しその野望を阻止した『聖銀の勇者』


 鉱山都市ボルカナを数度のドラゴン襲来から守り抜いた『活火山の超戦士』


 数度のドラゴン討伐に成功し、有史以来唯一のレベル9ハンター『魔剣美姫』


 そして、最後の英雄から約300年。大陸北東部の大国リベランドに単騎でドラゴンを討伐する者が現れる。


 英雄大公(英雄公)と呼ばれた彼は、五英雄のほとんどがドラゴンとの戦いでその名を残している事から当初は六人目の英雄とも呼ばれた。


 だが数年後、再びドラゴンを単騎で討伐する者が大陸に現れる。


 大陸北西部の聖王教を信仰する国家群、聖王連合に現れたその男は、聖王こと白銀の聖騎士の再臨、再臨の聖騎士と呼ばれた。


 二人目の英雄が現れた事で人々は英雄公と再臨の聖騎士という二人の英雄を新英雄と呼ぶようになる。



 そして今日、三人目の新英雄が誕生した。


 紅蓮の炎を操り、竜を模した装備を身に着け、単騎でドラゴンを討伐する男。人々は彼を『紅蓮の竜騎士』と呼んだ。

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