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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード7 伝説と生きた男
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魔導師と大陸北部の歴史 その3

 聖銀の勇者を有する聖王連合の攻勢は凄まじく、帝国に占拠された都市は次々と開放されて行く。それに伴い帝国幹部は次々に聖銀の勇者に討たれていった。


 そんな状況を打破すべく、皇帝ロットベルンは自ら出陣し聖銀の勇者を討つ事を決める。


 軍にも匹敵する力を持つ二人の戦いは凄まじく、それはかつての黒竜王と白竜王の戦いを髣髴とさせるほどのものとなった。


 二人の力は拮抗していたが、聖銀の勇者の方がやや優位に立つ。


 そして決着はそのまま聖銀の勇者の勝利に終わり、ロットベルンは志半ばで果てる事となった。


 だが、勝利した聖銀の勇者も消耗が激しくその戦いで命を落とす。


 こうしてこの戦いは魔王、勇者、共に討ち死にという形で幕を閉じた。


 二人の戦いは終わったが国は残る。


 強引な拡張を進めてきた魔導帝国には元々不満がくすぶっており、皇帝崩御を受け各地で反乱が起きた。


 その期に乗じて大陸北東部の国はまとまって、国号リベランドを名乗り独立を宣言。他にもいくつかの都市が独立を宣言したが鎮圧され、帝国はほぼ現在の形となる。


 そして聖王連合は魔王亡きあともその形を維持。聖銀の勇者と共に戦った聖女を中心に、聖王を神の分身とする聖王教を立ち上げ連合すべての国教とした。


 それ以来、大陸北部はリベランド、魔導帝国、聖王連合の三大国が支配する現在の形が維持されている。




「と、まあ、こんな感じじゃな。結局大陸はわが師の理想とする形にはならず、予想通りドラゴンは再び現れた。じゃが、ドラゴンの襲来が多い北部も三大国という形ができたおかげでなんとかドラゴンに対処できておる。じゃから師のした事は無駄ではなかったと言えるじゃろうよ」


「なるほどねぇ。あ、お疲れさん。面白い話だったよ、ありがとう」


「ふむ、そう言ってもらえると、話したかいがあったというもんじゃ」


 そう言うとヴォルフは満足げにあご髭をなでた。


 オレンジ色に輝く魔術の光が照らす応接室。シャルルは彼に体重を預け眠るステラをなでながら思う。


 しかし年寄りの話は長いと言うが……ここまで時間がかかるとは予想外だ。しかも内容は本で読んだのと大差なかったし。


 夜も遅いしそろそろお暇したいところだが……宿はどうするかな。


 話はステラが起きるまでのはずだった。


 だが、そうはなっていない。


 なぜか? それはステラが目を覚ましたのが丁度夕食の時間だったからだ。


「おなかすいた」


 目を覚ますとステラはそう言い、それに対しメイドはこう言った。


「お食事の準備は整ってございます」


 それを聞いたステラは食べる気満々。シャルルも用意ができているのに断るのもなんだな……と思いご馳走になる事にする。


 そして夕食後、極自然に話の続きが始まった。


 そのときに時間も遅いのでもう結構と断ればよかったのだが――ステラが珍しく興味深げに聞いていたのでシャルルは聞く事にしてしまう。


 そして場所を応接室に戻し結局最後まで聞く事になった。


 ステラは応接室に行ってからすぐ寝てしまったのだが、シャルルはここまで聞いたのだから……と最後まで聞き現在に至る。


 まあ、宿はなんとかなるだろう。そう思いシャルルはステラを抱え立ち上がった。


「もう遅いし宿も探さなければならないから、そろそろお暇するとしよう」


 するとヴォルフは軽くメイド――リオーネに視線を向け、彼女は軽く頷き言う。


「シャルル様。お部屋の準備が整ってございます」


「まあ、そういう事じゃ。もう遅いし今日は泊まっていくと良いじゃろう」


「まあ、そういう事なら……」


 シャルルは若干ではあるが貧乏性だ。


 なのでこういうふうに『準備ができている』というのに弱い。


 無料なんだから使っておかないと勿体ない! という事ではなく――準備ができているのに使わないで無駄になるのは申し訳ない……という方向で。


 リオーネの案内で部屋に通されると、シャルルはそっとステラをベッドに寝かせる。


「では、ごゆっくりお休みくださいませ……」


「ああ、おやすみ……」


「おやすみなさーい……」


 ステラを起こさぬよう小声で挨拶を交わすとリオーネは静かに部屋を出て行く。


 それを見送ったシャルルは部屋に二つあるベッドの空いている方に腰掛け眠るステラを見て思う。


 デクレシスがロットベルンではなくステラを見つけていたら、この子が竜狩りの魔導師になっていたのかもしれないな……。


 ステラと始めて会ったとき、「どらごんをいっぱいやっつけると、みんながしあわせになって、おとーさんとおかーさんにあえるようになるの」と言っていた。なのでロットベルンもたぶん同じような事を言っていたのだろう。


 ヴォルフの話から察するに、彼は師父であるデクレシスを敬愛しているようだった。だが、デクレシスはどうだったのだろうか?


 愛情を持って育てたのかもしれないが――結果としては、やはりロットベルンを戦いの道具にしてしまっているように思える。


 まあ、想像でしかないし、そうだったとしても時代背景を考えればそれを責める事はできないが。


 ヴォルフはロットベルンと共にマギナベルクの遺跡に行った事があると言っていた。


 もしそのときにステラを発見していたら、時代背景も考えるとエトワール・ドゥズィエムの希望通り普通の人生を送らせるというのは無理だっただろう。


 だがその場合、魔導帝国は大陸を統一し、大陸は今よりもっとドラゴンの被害を減らせた可能性がある。


 しかしそうはなっていない。


 そしてステラは今、私が保護している。


 私はこの子に普通の人生を送らせてやりたい。


 まあ、既に普通の人生ではない気もしなくもないが……できるだけそうしたいと思う。


「さて、そろそろ私たちも寝るか」


「はい。おやすみなさい……ごしゅじんさま」


「ああ、おやすみシルフィ」


 シャルルはシルフィと挨拶を交わすと、ステラの前髪を上げておでこに軽くキスをする。


「おやすみ……ステラ」


 そして、シルフィをステラの隣に寝かせると、自分は隣のベッドに横になった。

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