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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード7 伝説と生きた男
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エトランゼ(よそ者) その2

 シャルルはもちろん『エトランゼ』がフランス語でよそ者を意味する言葉なのは知っている。だが、こっちに来てから聞くのはたぶん初めてだ。


 シャルルの様子にヴォルフも『あれ?』といった感じの表情をする。


「他の世界から来た者の事を『エトランゼ』と言うのではないのか? ミルフィーユは自らの事をそう言っていたんじゃが……」


「まあ、よそ者という意味の言葉だから間違ってないが……それよりなぜいきなりケーキの話に?」


「けーき!? すてらけーきすき!」


 ケーキと聞いて宿場町アンシュルツで食べたときの事を思い出し、ステラは興奮したように言う。


「ふむ、ならケーキを用意させよう」


「やったー」


「リオーネ」


「かしこまりました」


 シャルルとヴォルフが話している間に黙々と茶の準備をしていたリオーネは、それを終えると礼をして、ワゴンを押しながら部屋を出て行く。


 ケーキを用意しに行ったのであろう。


 それを見送ってからステラはシャルルを見て言った。


「たべていーい?」


「ああ、いただこう」


 シャルルとヴォルフの前には白に金の縁取りがある見事な磁器のティーカップ。ステラの前にはオレンジジュースが入ったストローつきのガラスのコップ。その右隣には薄紫の液体が入ったストローつきのガラスのコップが置かれている。


 そして、シャルル、ヴォルフ、ステラの中間よりややステラよりの場所に、ティーカップと同じ柄の皿に載ったクッキーが置かれていた。


「いただきまーす!」


 ステラはジュースを少し飲んだあと、クッキーに手を伸ばし頬張る。


 シルフィは自分の席であろう場所に置かれたものを見てからシャルルを見て聞いた。


「ごしゅじんさま。わたしも食べていい?」


「ん? ああ、かまわんが……」


「やった。いただきまーす」


 そう言うと、シルフィはおいしそうに紫色の液体を飲み始める。


 エレメンタルは飲食をしないはずだが……こいつはやっぱりエレメンタルとは違うのか?


 首をかしげるシャルルだったが、その答えはすぐにヴォルフの発言でわかった。


「しるふぃのもおいしそー。すてらのとちょっとこうかんしよ」


 ステラの言葉にヴォルフはあわてて言う。


「そっちのコップに入っとるのは『魔油』じゃ。人が飲むと腹を壊すぞ」



 魔油。それは魔石の液体版とでも言うべき魔法燃料。魔油田から産出されるその液体は、魔石の採掘量が少なく魔油田が多い大陸南部で良く使われている。


 液体という性質上、扱いづらいという事もあり、魔石鉱山がたくさんある大陸北部で使われる事はあまりない。



 なるほど、あれが魔油か……シャルルがそんな事を考えているとヴォルフが再び口を開く。


「ところでさっきの話じゃが……ワシの話のどこにケーキが出てきたんじゃ?」


「いや、ミルフィーユって薄いパイ生地を重ねたケーキの名前だろ?」


 それを聞くとヴォルフは感心したように軽く頷くと言った。


「いや、ワシの言うミルフィーユとは、五英雄が一人、白銀の聖騎士の名じゃ。聖王と言った方がわかりやすいかの?」


「あー、なるほど……」


 シャルルはここまで聞いた事を頭の中でまとめる。


 ミルフィーユとは白銀の聖騎士こと聖王の名で、彼は自分の事をエトランゼ(よそ者)だと言っていたらしい。


 以前より彼が伝えたもの(トランプや年越しそばなど)からシャルルは聖王がアナザーワールドのプレイヤーである可能性が高いと考えていた。


 その彼がこの世界には無いであろうケーキの名前を自分の名前に使っていたという事や『アナライズ』の事をヴォルフに話していたらしい事を考えると、それでほぼ間違いないだろう。


 そしてヴォルフはシャルルを聖王と同じような存在と考えた。つまり五英雄の一人である聖王と同等の力を持つ者であると。


「で、どうなんじゃ?」


 まあ、正直に答えてもたいした問題にはならないだろう。それに聖王の情報に興味はあるが、自分はそれ(エトランゼ)ではないと答えたら教えてくれないかもしれない。そう考えシャルルは答える。


「間違いではないな」


「やはり、おぬしはエトランゼであったか。という事は、もしやおぬしがマギナベルクでドラゴンを単騎で倒し、英雄公とやりあったという紅蓮の竜騎士か?」


「……そうだ」


「もしやその娘はマギナベルクの遺跡に眠っていて、それを奪い合う形で英雄公とやりあう事になったのでは?」


 こんなところにまで噂が広まっているのか……? いや、それにしては少し間違っているとはいえ内容が具体的過ぎる。帝国が秘密裏に情報収集しているという事だろうか?


 そう考えたシャルルはいぶかしげに尋ねる。


「……爺さん、あんたどこまで知ってる?」


「やはりそうか。いやワシは知っているというわけではない。じゃが、ワシも師と共にマギナベルクの遺跡に入った事があるんじゃ。そのとき、師は言っておった。自分が眠っていた遺跡と良く似ている。もしかしたら自分と同じような存在がここにも居るかもしれないと」


「ならなぜ調べなかった?」


「調べはしたのじゃ。だが当時はまだ仲間集めと修行の旅の途中での。いずれまたと思い、師の指示で遺跡を守っていたゴーレムも倒さず去ったんじゃ。じゃがその後もいろいろあってのう。結局、いまだ行けずにいるというわけじゃよ」


 ヴォルフの言葉にシャルルは軽く頷く。


 なるほど。一応辻褄は合っている。


 嘘をついても仕方ない事だろうし本当なのだろう。


「まあ、だいたい合ってる。英雄公とやりあう事になったのはこの子を奪い合ったわけではないがな。ところで爺さん」


「ヴォルフで良いぞ。代わりにワシもシャルルと呼ばせてもらおう」


「わかった。で、ヴォルフ。あんたは聖王に会った事があるんだよな?」


「そうじゃ」


「魔族は長生きらしいが……聖王って1000年以上前の人物だろ? 魔族って何千年も生きるのか?」


「ふぉっふぉっふぉ。いいとこ数百~千数百といったところじゃ。さすがにワシより年上は数えるほどしかおらん」


「ほう。では何か特殊な――アーティファクトとかを利用しているのか?」


「いんや。単に長生きなだけじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」


 笑うヴォルフにずっと黙っていたステラが言う。


「おじーちゃん、ずっとげんきでいてね」


「おお、ありがとう」


 そう言うとヴォルフは優しい目でステラを見て笑った。

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