年末年始 その4
「一杯もらおうか」
「まいど」
店主は湯気の立つかめから柄杓で甘酒をすくうと切った竹で作ったコップに注いで差し出す。シャルルは代金と引き換えにそれを受け取ると早速一口飲んでみた。
今は降っていないものの町には雪が積もっている。したがってここは冷蔵庫の中に居るような状態。なのでその熱い一口が体に染み渡るような感じがした。
「ふー、暖まるぅ」
思わず心の声が漏れる。
そんなシャルルを見てステラは言う。
「すてらもっ。すてらもそれほしー」
「ん?」
甘酒は子供でも大丈夫だった気はするが――癖があるからなぁ。
買ったあとでやっぱりいらないでは勿体ない。そう思ったシャルルはとりあえず自分の持つ甘酒をステラに一口飲ませてみる事にした。
「じゃあ、とりあえずこれを一口飲んで良いぞ」
「やったー」
そしてステラはシャルルから甘酒の入った竹を受け取り口元に持って行くが――嫌そうな顔をしてシャルルに返す。
「へんなにおいする……」
「そうか……」
まあ、好き嫌いもあるし小さい子ではこんなものだろう。
甘酒を飲み終えるとシャルルはそのあともステラたちと商店街を歩く。そして凧揚げや独楽で遊ぶ子供を見たり、羽子板っぽい事をしている人々見て正月の雰囲気を楽しんだ。
年明け2日。この日は雪が降ったためシャルルは外出せず、宿でステラたちと共にごろごろと寝正月。翌日の3日は宿の前でステラたちと少しだけ雪遊びをした。
そして新年の雰囲気も終わり人々が本格的に動き始める4日。雪もそろそろ落ち着いて、10日くらいには交通も回復する――そう宿の店員に聞いたシャルルは馬車探しを始める事にした。
シャルルはステラたちを連れ町に出ると、雪かきをしている人を中心にヴィアントシティまで乗せてくれる馬車を探す。
なぜ雪かきをしている人を中心に探すかと言うと、雪かきは行商人など雪で足止めされた人がやっている場合が多いというのを役場で聞いて知っていたからだ。
だが、数日にわたって探すも結局見つからず、雪も落ち着いたため雪かきをする人は居なくなる。
雪かきが必要なくなったという事は交通も回復したという事。なので足止めされていた行商人などはどんどん町を出て行ってしまうだろう。
もちろん交通が回復したのだから、これからアンシュルツに来る人もいる。そういう人の中にはここを経由してヴィアントシティに行く人もいるはずだ。
だが、その人たちはまだ他の町を出たばかり。到着までにはそれなりの時間がかかる。
これは、もうしばらくここに足止めか……とシャルルが肩を落としていると――声をかけてくる男がいた。
「魔術師の兄さん。仲間から聞いたんだが、ヴィアントシティまで乗せてくれる馬車を探してるんだって?」
「……あんたは?」
シャルルはその男にまったく覚えが無い、が――
「あー! ゆきかきのひと! しゃるーはもーゆきかきしないんだからっ!」
ステラが頬を膨らましそんな事を言うので、たぶん前に会った事がある人なんだろうなぁ……とシャルルは思う。
「ははは。嬢ちゃん、もう雪が無いから雪かきはできないぞ」
「しないの?」
「ああ、しないよ」
「にひひ、やったー」
雪かきが無いと聞くとステラは嬉しそうに笑う。
そして――シャルルは行商人だと言う彼とその仲間の馬車でヴィアントシティまで連れて行ってもらえる事になった。
「じゃあ、明後日の朝に門の前で」
「ああ、助かったよ」
「良いって事よ。短い期間とはいえ、同じ仕事をした仲間だからな」
「ああ……」
シャルルがヴィアントシティに行きたがっている。それを行商人仲間から聞いた彼は、わざわざ探してまでシャルルを誘ってくれた。
そこまでしてくれるのは、同じ仕事をしていた者としての仲間意識からだと彼は言う。
それは本当にありがたい事だとシャルルは思うのだが――そんな彼の事をまったく覚えていない事にシャルルは少し罪悪感を覚えるのだった。
『エピソード6 雪の降る町』はいかがでしたでしょうか? 楽しくお読みいただけたなら幸いです。
暑い日も続きすっかり夏ですが――話の方はまだ年が明けたばかりなのでしばらくは寒い冬。そんな現実とは季節がま逆な世界を、熱中症に気をつけながら引き続きお楽しみいただければと思います。
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