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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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紅蓮の竜騎士 その1

 ハンターギルドの食堂スペース。そこにはこのギルドに所属するほとんどのハンターが集結し、ギルドマスター、ブルーノの言葉に真剣な表情で耳を傾けていた。


「以上が作戦だ。魔術が使える者は俺と、ほかの者はヨシュアと南門に向ってくれ」


『おう!』


 力強く答えるハンターたち。ドラゴン出現の報告を聞いたときとは違い、すでにほとんどのハンターは戦う戦士の顔になっている。


 だが、一部の若いハンターたちは真っ青になっていた。


 この都市でハンターを始め、まだ経験の浅いレベル1~2のハンターたちだ。


 ハンターには必須であるフォースや魔法の力だが、人類全体からみればそれを持つ者はごく一部。


 なので当然この作戦に参加する兵士のほとんどは、それらの力を持たない者たちだ。


 つまり青くなっている彼らの方が、その兵たちより圧倒的に強い。


 とはいえ駆け出しの若いハンターは、精神的に未熟であるためどうしても恐怖が表に出てしまう。


 そして――恐怖というものは伝染する。


 彼らを連れて行ったら全体の士気を大きく下げかねないし、役にも立たないだろう。


 事後承諾になるが……仕方あるまい。


 特に都市から指示がない限り全員参加が基本だが、ブルーノは独断で彼らを参加させない事に決めた。


「あー、それから――」


 ハンターたちが注目したのを確認しブルーノは続ける。


「都市内にもいまだまれに害獣が出る。スチールプレートの者は避難民の警護にあたれ」


 それを聞いて青くなっていたハンターたちはほっとした表情をみせた。


 だがそのとき、不意に誰かの声が上がる。


「私はドラゴンの方に参加できないのか?」


 その声の主に皆が注目すると、その男――シャルルは首から提げていたスチールプレートを右手でつまんでいた。


 多人数が参加する依頼で顔を売る。


 シャルルは早速来たその機会を逃したくなかったし、ドラゴンというものにも興味があった。


 とんでもない怪物らしい事は噂話と書物によって知識としてはあるものの、やはり実物を見てみたい。


 仮にどんな化け物であろうと自分の身くらいは守れる自信はあるのだ。


 シャルルの申し出にブルーノは少し考える。


 もちろん彼には参加して欲しい。


 実際に戦っているところを見た事があるわけではないが、実績から考えると戦闘能力はこのギルドに所属するハンターの中でもトップクラスだろう。


 一律に『スチールプレートの者』という分け方をしたのは、今回参加しなかった者が今後ギルドで肩身の狭い思いをしないようにという気遣いからだ。


 だが、安全圏にいる者にそこまで気を回してやる必要はない。


「いや、戦力になる自信があるものはスチールプレートでもドラゴンの方に参加してくれ。特に魔術を使える者は貴重な戦力だ。さっき言った通り、ドラゴンの方に参加する者で魔術が使える者は俺と、それ以外の者はヨシュアと南門へ。避難民の警護にあたる者は中央広場に行き避難誘導の都市兵にその旨を伝え指示を仰げ。以上だ」


 ブルーノの話が終わるとさっき青い顔をしていたハンターたちはそそくさとギルドを出て、残りの者たちはギルドの前でブルーノの前とヨシュアの前の二つに分かれた。


 アルフレッドとローザは互いに頷きヨシュアの前に行く。


 二人もブルーノがスチールは避難民の警護と言ったときは正直ほっとした。


 シャルルの一言がなければそのまま警護に行く事になっただろうし、その方が良かったかもしれない。


 だが、たとえシャルルの一言がなかったとしても、今回参加した者としなかった者には決定的な溝ができるだろう。


 そういう意味では任意になって参加できたのはむしろよかったと言えなくもない。


 無論、無事に帰ってこられればの話だが……。


「お前らはスチールじゃなかったか?」


 不意に話しかけてきたヨシュアにアルフレッドは答える。


「そうだけど、何か問題でも?」


「いや、こっちで良かったのか?」


 その言葉に特に見下した感じはない。ただ純粋にそう思ったのだろう。


 それでも面白くないアルフレッドはこう返した。


「もちろんだ。俺たちはハンターとして1年以上の経験があるし、戦闘だけならプロハンターにも引けを取らない自信がある」


「ほう……言うじゃないか。期待してるぜ」


 ヨシュアはニヤリと笑い、アルフレッドもニヤリと笑い返す。


「そういえば、赤いのはどうした?」


 この二人といるのをよくみかける赤い奴がいない事に気づき、ヨシュアは首をかしげる。


 自分からドラゴンの方に参加したいような事をいっておいて、まさか警護の方に行ったのか?


 だが、もちろんそんな事はない。「シャルルならあっちよ」と言うローザが親指で指す方を見るとブルーノの前に『赤いの』事シャルルはいた。




 ブルーノは驚きの声を上げる。


「お前さんは魔術も使えるのか!?」


 これはシャルルがブルーノの前に立ち、「お前さんはあっちだろ?」といわれ「魔術を使える者はこっちだろ?」と返した結果である。


「そうだが?」


 ブルーノはシャルルを見ながら思った。


 この男には本当に驚かされる。まさか魔術戦士だったとは……。



 魔術戦士。魔術を使える戦士で魔戦士とも呼ばれる。


 フォースを使える者は少ないが、魔術を使える者はもっと少ない。


 そして両方使える者は更に少なく、魔術戦士はかなり希少な存在である。


 魔術戦士でもフォースと魔術の両方を鍛えている者は少なく、ハンターの場合は修行に時間がかかる魔術よりもフォースを鍛え、魔術は生活魔術程度しか使えない場合が多い。



 状況から考えてまさか生活魔術しか使えないという事はないだろう。


 だが、ブルーノは念のため聞いておく事にした。


「攻撃魔術を使えるのか?」


「まあ、それなりにな」


 この世界の基準で考えればレベル100ダークナイトの使える魔術は『それなり』ではないのだが、アナザーワールド2では同じ魔法でも専門職であるレベル100マジックマスターの使うものに比べれば一段以上劣る。


 ゆえにシャルルは無意識に『それなり』と答えた。


 しかしブルーノはこの『それなり』を額面通り受け取る。


 とはいえ魔術は基本的にフォースよりも数段上の破壊力があり、遠距離から放てるという利点もある。


 今回の作戦は魔術がより重要であるため、ブルーノはそのままシャルルを魔術師として連れて行く事にした。

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