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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード6 雪の降る町
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年末年始 その1

 熱を出した日の翌日。朝、目を覚ましたステラは半身を起こすと辺りを見回し隣のベッドにあるふくらみに目を留める。


 そして、いたずらっぽく笑うと――掛け声と共にそこ目掛けてダイブした。


「しゃっるー」


 自分に向かってくる気配に気づきシャルルは目を覚ます。が――


「ぐはっ」


 彼はいつも通り何もせず素直にその攻撃を受けた。


「こらっ」


「きゃー」


 ダイブしてきたステラをいつも通りシャルルは捕まえる。すると、やはりいつも通りステラは嬉しそうに悲鳴を上げた。


 何もかもいつも通り。これだけ元気ならもう大丈夫だろう。そう思ったシャルルだったが、念のためおでこをくっつけステラの熱を測る。


 子供なので若干体温が高い気もするが――まあ、大丈夫そうだな。


 シャルルは軽く安堵の息を吐いた。


「おはよーしゃるー」


 シャルルの頬にキスをしてステラが朝の挨拶をする。シャルルもステラの前髪を上げ、おでこにキスをして挨拶を返す。


「ああ、おはようステラ」


 そしてそのあとはいつも通り、顔を洗ったり歯を磨いたり朝食を取ったりした。


 食事を終え部屋に戻るとステラは言う。


「ねー、しゃるー。すてら、きょーはおそとであそびたい」


「外ねぇ……」


 確かに熱も下がったし元気にも見える。もうすっかりいつも通りといった感じだ。


 とはいえ昨日の今日だし寒い外で遊べばぶり返す可能性だってある。やはり一日くらいは様子見で、暖かい場所で安静にさせておくべきだろう。


 だが、元気になったステラは外に行きたいと騒ぐかもしれない。そこでシャルルはこう提案してみる。


「私は外に出たくないから外だと一緒に遊べないが――ステラが部屋で遊ぶと言うのなら、今日は一日中一緒に遊べるぞ」


「ほんと!? しゃるー、おへやならすてらといっぱいあそんでくれるの?」


 興奮気味に話すステラにシャルルは微笑みつつ頷く。


「ああ、部屋でならいっぱい遊ぶぞ」


「じゃーすてら、おへやであそぶ! きょーはいーっぱいあそぼーね」


 そう言ってステラは満面の笑みで抱きつき、シャルルはそれを受け止めつつ頭をなでる。


「ああ、そうしよう」


「よかったね」


 嬉しそうなステラを見てシルフィも微笑む。


 こうしてその日はシャルルとステラとシルフィの三人で、トランプをしたり、歌を歌ったり、お話したり……そんな感じでゆったりとした時間を過ごした。


 そして翌日。


 昨日安静にしていたおかげかステラの風邪は完全に良くなる。


 それを見てこれなら外に出かけても大丈夫だろうと思ったシャルルは、まだ受け取っていない分の報酬をもらうためにステラたちを連れ役場に行く事にした。


 今日は12月35日。今年最後の日で、いわゆる大晦日だ。


 大陸の1年は12ヶ月、そして各月は30日。10日で1週間なので1ヶ月は3週間となっている。


 だが1年は365又は366日なので5~6日の余りが出る。その分は12月30日以降に付け足され、この間は週に数えられず曜日も無い。


 この曜日が無い日は通称無曜日と呼ばれ、商売人や農家などの稼ぎどきだったり休めない仕事の場合を除き休みにするのが一般的だ。


 相変わらず雪は積もっているが大晦日だからか町には活気がある。商店はもちろん一般家庭も飾り付けられ、新年を迎える準備がされていた。


 ステラがリースだかしめ縄だか良くわからない飾りを指して言う。


「しゃるー、あれかっこいーね」


「ん? そうだな」


 それを見て、あれってたぶん縁起物とか魔除けとかそういう類のものなんだろうなぁ……などと考えていたシャルルだったが、次のシルフィの言葉に首をかしげる。


「あのおかざり、前はちょっとだったけどもうほとんどの家にあるのね」


 あれって前からあったか? 今日初めて見た気がするんだが……。


 そして思う。


 そういえば、最近ずっと仕事の事ばかりで町の様子なんて見てなかった気がする。だから気づかなかっただけなのかもしれないな……と。


 シャルルたちはそんな感じで年末独自の雰囲気を楽しみつつ町を歩く。すると――不意に声をかけてくる人がいた。


「お、魔術師の兄さん。今日は雪かきしないのか?」


「ん?」


 声に振り向くと、そこに居たのは雪かきをしている男。正直シャルルはまったく覚えていないのだが、そういうふうに声をかけてくるという事はたぶん現場で会った人なのだろう。


 雪かきと聞きステラはシャルルにしがみつくと、露骨にいやな顔をする。


 それを見てシャルルは苦笑しつつ男に答えた。


「十分稼いだからもうやるつもりは無い。これから最後の報酬をもらいに行くところさ。あとはあんたらに任せるよ」


 そう言ってしがみつくステラの頭をなでると、彼女は嬉しそうに笑う。


 そして――


「ずいぶんいっぱいやってたもんなぁ」


 そう言うと男も笑った。

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