風邪を引いた日 その4
カウンターの店員にあとで毛布を取りに行くと約束し、ステラの食事を持ってシャルルは部屋に戻る。
そしてシャルルが部屋に入ると、シルフィが助けを求めるように彼を呼んだ。
「ごしゅじんさま~」
「ぐすっ……ぐすっ……しゃるー……」
困り果てたという感じでシャルルを呼ぶシルフィ。ベッドでは半身を起こしたステラがしくしく泣いているのが見える。
シャルルはお盆を棚に置くと急いでステラのもとに行く。そして抱きついてきたステラの頭をなでつつシルフィに聞いた。
「どうした?」
「それが――」
シルフィの話によると、シャルルが部屋を出てすぐステラは目を覚ましシャルルを呼んだらしい。
当然そのときシャルルは居なかったので、シルフィが「ごしゅじんさまは今いないよ」と答えるとステラがしくしくと泣き出したのだそうだ。
シャルルがシルフィと話している最中もステラはシャルルに抱きついたままで離れようとはしない。
そんな彼女を見てシャルルは思う。
確かにこの子は甘えん坊だが……さすがに普段はここまでじゃない。たぶん体調が悪いせいで不安になり心細かったのだろう。
ならばまず体力をつけ風邪を治さなければ。
「なあ、ステラ。ご飯を持ってきたから食べないか?」
「あんまりたべたくない……」
「うーん……」
じゃあ、食べなくても良い――とはならない。ペトラに薬は栄養のあるものを食べさせてからと言われているからだ。
詳しく聞いてはいないが、たぶん食後に服用するタイプ。なので少しでも何か食べさせる必要がある。
「じゃあ、少しだけ食べような。ご飯を食べたらお薬。お薬を飲んだらゼリーもあるぞ」
「うん……」
そしてシャルルはステラのもとにお盆を持ってくると、陶器の器に入ったお粥を陶器のレンゲですくいステラの口元に運ぶ。
「ほら、あーんだ」
「あー……あつっ。しゃるー、あつい」
「あ、すまん」
シャルルはあわててレンゲを引っ込めると、息を吹きかけ冷ます。
そして少しだけ食べてみて熱くないのを確かめるとステラの口元に運んだ。
あまり食べたくないと言っていたステラだったが、一口食べるとえさを待つひな鳥の如くまた口を開く。
シャルルはまた息を吹きかけ冷ましてから食べさせ、それをお粥がなくなるまで繰り返した。
そんな事をしながらシャルルは思う。
そういえば子供の頃、風邪をひいたときに私もこんなふうにしてもらった気がするな。でも良く考えてみれば怪我をしているわけじゃないんだから自分で食べられるよなぁ。
だが、ステラがすごく嬉しそうに食べるのを見てこうも思う。
風邪をひいてるときって心身ともに弱ってるから、甘えたくなるのかもしれない。病は気からとも言うし、心のケア的な事を考えるとこれもまた治療の一環と言えるのかもしれないな。
その後、薬を飲みゼリーを食べたステラは、シルフィのおかげで暖かくなった布団で眠る。
最初シャルルはシルフィの風で部屋全体を暖めさせようとした。
だが、密閉されている空間ならともかく隙間風があるこの部屋全体を暖めるのは至難の業。それにシルフィが出せるのは熱そのものではなくあくまで暖かい風だ。
なので出力を上げようとすると風力も強くなってしまう。したがって部屋のような広い空間を暖めるのはかなり無理がある。
もっと狭く、そして密閉された空間……と考えシャルルが思いついたのはコタツ。だが、すぐにコタツは用意できないので布団の中を暖めさせる事にした。
「しゃるー……」
シャルルの手を握り寝言で彼を呼ぶステラ。シルフィはそんな彼女を見て微笑みつつ、シャルルにもらったご褒美の魔石をちゅーちゅー吸いながら言った。
「あのね、ごしゅじんさま」
「ん?」
「ごしゅじんさまが雪かきしてるとき、ステラずっとさみしがってたの。だから……今だけでもうんと甘えさせてあげてね」
それを聞きシャルルは思う。
まだ小さい子だもんな……確かに仕事とはいえ、張り切りすぎてこの子の事をあまり考えられなくなっていた気がする。
そのせいであまりかまってやっていなかったし、風邪を引いたのだってたぶん見える場所においておきたいからと寒いところに長時間居させたせいだ。
「そうだな……」
そのあとシャルルはステラの体を拭いてやったり、トイレに行くときは抱えて連れて行ってやったり、またご飯を食べさせてやったりと存分に甘えさせる。
それをすごく喜びステラは言った。
「すてら、ずーっとかぜひいてたい」
それを聞きシャルルは苦笑する。
「それだとつらいだろ? それに風邪を引いてると一緒に遊んだりできないぞ? 今のステラも好きだけど、私は元気なステラの方がもっと好きだな」
するとステラは――
「じゃーすてら、がんばってげんきになるね」
と言って笑った。