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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード6 雪の降る町
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風邪を引いた日 その2

 シャルルが雪かきを始めて数日。相変わらず雪は降り続いているが、それでも年末の町はなんとなくせわしなく、それでいて楽しそうな雰囲気を見せている。


 そんな中、シャルルは宿と役場と現場を行き来するだけの日々を過ごしていた。


 今日もシャルルは仕事が終わるとどこにも寄らず宿に戻る。そしてステラたちと共にシャワーを浴び、その後、夕食を取るため食堂に向かう。


 連日の労働のせいもあり、このくらいの時間になるとシャルルもそれなりに疲れている。


 彼は確かに常人より体力があるが別に無限というわけではない。魔術を使っているとはいえ常人の4倍の仕事をしているのだから疲れるのは当然だろう。


 食堂に着くとシャルルはステラをイスに座らせる。


 そして自分も席に着くとウェイトレスを呼んで夕食を注文した。


「ちょっといいか?『今日の夕食』を二つ頼みたいんだが」


「はーい。『今日の夕食』を二つですね」


『今日の夕食』というのはメニューの名前で元々安いこの食堂でも特に安いメニュー。ちなみに朝や昼にも『今日の』シリーズがある。


 このシリーズは主食、スープ、その他で構成されるが、内容は運ばれてくるまでわからない。なぜならあまっている食材を使って作られるからだ。


 ちなみにあまっている食材が無いときは注文できなかったりする。


 今回は具のないピザのようなパンと『肉の無い』肉入りシチュー。それと蒸したジャガイモと人参だった。


「いただきます」


「いただきまーす」


 食前の挨拶をするとシャルルたちは黙々と食べ始める。ちなみに食事の無いシルフィは食べないので食前の挨拶はしない。


 そして食事も中盤。ステラはシャルルをちらりと見ていたずらっぽく笑うと、わかりやすく蒸した人参をシャルルの皿に移した。


 人参が苦手なステラがそれを皿の上で端に寄せ避けるのは良くやる事なのだが、シャルルの皿に移すというような事は普段しない。


 今回のこれはシャルルに反応して欲しくてやったイタズラだ。


 怒るだろうか? 笑うだろうか? いつもみたいに人参をフォークで刺して食べさせようとするだろうか?


 ステラはドキドキしながら待っていたが――シャルルはなんの反応も示さなかった。


 シャルルの皿にせっせと人参を移動させるステラ。それを見て、ちゃんと食べさせないと……とシャルルは思ったが、疲れのせいもありどうにも億劫に感じていた。


 叱るのも面倒に感じた彼は黙ってその人参を食べ普通に食事を終える。


 なにもなかった事にステラは不満そうな顔をしシャルルもそれには気づいたのだが、やはり億劫だった彼は特に反応を示したりはしなかった。


 その後、歯を磨きトイレに行ってから部屋に戻るとシャルルは早々にベッドに横になる。


 そしてしばらくすると静かに寝息を立て始めた。


 その様子を見て自分も一緒に寝ようとステラはシャルルのベッドに近づくが――


「ごしゅじんさまは疲れてるみたい。今日はわたしとふたりでねましょ」


 シャルルに毛布と布団をかけていたシルフィにそう言われ、不満に思いつつも頷くと、シャルルの頬にキスをして言った。


「おやすみ、しゃるー」





 最近は窓の隙間から入る冷たい風で目を覚ましていたシャルルだったが、今日は自分を呼びながら揺らす振動で目を覚ます。


 今までシルフィがシャルルを起こした事は一度も無い。なので彼はステラがそれをしているのだと思ったのだが――


「て……じんさま。ごしゅ……さま……」


「……ん?」


 意外にも起こそうとしていたのはシルフィだった。


 彼女は必死でシャルルに訴える。


「ごしゅじんさま起きてー! ステラが大変なの!」


「なんだと!?」


 シルフィの言葉に眠気も吹っ飛びシャルルはすぐさま半身を起こす。


 そしてあわてて自分のベッドを見てみるが、そこにステラの姿は無かった。


 彼は次に隣のベッドを見る。


 するとそこには珍しくちゃんと枕に頭を乗せて寝ているステラの姿があった。


 だが、普段と違うのは寝相だけではない。彼女は赤い顔で苦しそうに荒い呼吸をしていた。


「はぁ……はぁ……」


「ステラっ!」


 呼びかけても返事は無く荒い呼吸を繰り返す。


 とりあえずシャルルは左手で自分の額、右手でステラの額を触り調べる。


「熱があるな。しかしどうすれば……」


 子供が熱を出すのは良くある事だ。取り立てて騒ぐような事でもない。


 だが、出会ってからの約五ヶ月、ステラは腹を下した事はあっても熱を出した事は無かった。なので、これはシャルルにとって初めての事態。


「まずはなんだ? 冷やすのか? いや、暖める方がいいのか? 暖房か? 布団を増やせば良いのか?」


「ごしゅじんさま、落ち着いて」


「そ、そうだな」


 シルフィになだめられシャルルは少しだけ落ち着く。


 だが、いまだ焦りがありどうにも思考が働かない。


「まず……何をすれば良いんだ?」


 眉間にしわを寄せ悩むシャルル。そこにシルフィから極当たり前の提案がされた。


「ごしゅじんさま。とりあえずおいしゃさんじゃない?」

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