風邪を引いた日 その1
小都市ベルドガルトからヴィアントシティまで街道を真っ直ぐ南下すると、その途中にエンデルテとアンシュルツという宿場町がある。
この二つの町の近くには小都市ゼーフェルフィンと小都市エルツァイゼンがあり、これらの町や都市の付近では年末に雪が降る事が多い。
この雪は降り始めると小休止などはあるがだいたい二週間程度降り続け、この付近の交通を麻痺させてしまう。
そして今、まさにその雪の真っ最中。そのためアンシュルツの役場では雪かきを請け負ってくれる人を募集していた。
雪かきは雪で足止めされた行商人など町の外から来た人が滞在費の足しにするためにやる事が多い。そのため手間になる身分の照会などはせず申し込めば誰でも請け負う事が可能となっている。
行商人などの馬車に同乗させてもらおうと考えていたシャルルもこの町に足止めされたため、滞在費の足しにと雪かきに応募する事にした。
コツをつかみ魔術を使ったシャルルの雪かき速度は常人の比ではない。滞在費だけを考えれば一日8件でトントンになるが、もっと件数をこなす事が可能だ。
ステラの安全を考えると常に目の届くところに置いておく必要がある。だが、それが可能な仕事を見つけるのは容易ではないだろう。
そこで稼げるときに稼いでおこうと、シャルルは日ごとに請け負う件数を増やしていった。
こうして二日目は8件、三日目は12件と増やして行き、最終的には一日20件をこなすようになる。
この20件というのはほとんどの人がそれくらいと言われた初日の4倍。なのでそれなりの稼ぎと言えるのだが――それでもマギナベルクで良く狩っていたワイルドウルフ一匹分の駆除報酬と同じくらいでしかない。
その事実にハンターの稼ぎの良さは一般人とはレベルが違うな……とシャルルは思う。
もっともハンターは命がけだし用意しなければならない装備なども高い。それに才能が必須で能力だって鍛える必要がある。それを考えればそれくらいの差はあって当然だろう。
だが、それらはシャルルには関係の無い事であり、彼にとっては雪かきも害獣狩りもたいした違いは無い。そのため彼は今回、普通の仕事で普通に稼ぐ事の大変さを実感していた。
シャルルが雪かきをしている間、ステラはいつもシルフィと共にそのそばにいる。
目の届く場所に居るのでシャルルは安心して雪かきができるのだが、代わりにステラは暇をもてあましてしまう。
たまに近くで町の子供たちが遊んでいる事もあるが、雪合戦の件が尾を引きステラは仲間に入れてもらえない。なので彼女は仕方なくシルフィと二人で遊んでいる。それでも最初は物珍しさもあり、それなりに雪遊びを楽しんでいた。
だが何日も続けは当然飽きてしまう。シルフィと二人でする雪遊びに飽きたステラは、今は何もせず一日中ぼーっと雪かきをするシャルルを眺めている。
見ているだけではつまらないので手伝おうともしたのだが、危ないからと手伝わせてはもらえなかった。
最近は遊んでくれないし手伝いもさせてくれない。そんなかまってくれないシャルルに対しステラは不満を募らせる。
シャルルが仕事をするのは当然ステラのためでもあるのだが、それを彼女が理解し納得する事は無いだろう。なぜなら子供とはそういうものだからだ。
ステラはシルフィを抱きかかえながら、道に設置された木製のベンチに腰掛け足をぶらぶらさせつつつぶやく。
「しゃるー、ゆきかきばっかり」
「おしごとなんだからしょうがないでしょ」
シルフィはそう言うが、ステラは口を尖らせ言う。
「でも、つまんない。しゃるーはすてらよりおしごとがすきなの?」
「そんな事ないと思うけど……ほら、もうすぐお昼だし、それまで追いかけっこでもしましょうよ」
なんとか気を紛らわそうとシルフィは提案するが、ステラは首を振ると言った。
「いー。すてらここでしゃるーをまってる」
「そう……」
シルフィはシャルルからステラの安全確保と雪かきの邪魔にならないように相手をする事を指示されている。
なのでこの状態でも十分使命を果たせていると言えるのだが、寂しそうなステラを見るとそれだけでは駄目なような気がして思うのだ。
なんとかしてあげたいなぁ……と。