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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード6 雪の降る町
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純白に染まる町 その5

「あんたすげーな」


 シャルルの高速雪かきを見て隣の区画で作業をしていた男が驚きの声を上げる。


「まあ、魔術師だからな」


「えへへ」


「ふふん」


 シャルルが軽く笑って答えると、ステラも自分がほめられたかの如く照れながら頭をかき、シルフィは得意げに胸を張った。


「さて……次は倉庫の雪下ろしか」


 雪下ろしに使うはしごは共用なので誰かが使っていると使えない。だからシャルルは先に雪かきをしたのだが、いまだはしごは使用中だ。


 言われたらすぐ戻すからと言って借りられなくもないだろうが、その場合、屋根の上の人は文字通りはしごを外された状態になる。


 そういう状況を作るとトラブルになりやすいし急がねばならない理由もないのだから、ここは終わるまで待った方が無難だ。


 そして待つ事30分程度。はしごを使っていた人が雪下ろしを終え降りてきた。


 ようやく終わったか……そう思いシャルルが声をかけようとするが――その人は、はしごを隣の建物にかけ再び上り始める。


 さすがにもう待ちたくないな……そう思ったシャルルは、はしごを使わせてもらおうと声をかけようとした。


 だが、ふと担当の倉庫を見て思う。


 この高さなら飛び乗れないか?


 担当の倉庫は平屋なので屋根はあまり高くない。もちろん普通にジャンプしても無理だがフォースを使えば問題なく飛び乗れるだろう。


 だが、それをやるといくつか問題がある。


 一つは着地の衝撃で屋根が抜けるかもしれないという心配。たぶん大丈夫だとは思うが絶対ではない。


 もう一つはシャルルがフォースを使える事が知れわたってしまう可能性だ。


 今まではリベランドの追っ手を意識し、ただの魔術師を装うためフォースを封印してきた。それをこんな事のために解禁するのもどうかと思わなくもない。


 フォースもはしごも使わず屋根に上る方法はないだろうか……シャルルが腕を組み考えていると――


「とうっ!」


 ステラがシルフィにつかまりながら、常人ではありえないジャンプ力で雪だるまの上に飛び乗っていた。


 それを見てシャルルは思う。


 シルフィの能力で体を軽くしているのか。私もあれをやってもらえば――いや、別にシルフィに頼まなくてもアンチグラヴィティで自分の体重を軽くすればいけそうだな。


 良いヒントを得たとシャルルは満足げに頷くが、同時に危ない遊びをしているなぁと思い注意する。


「こらっ! そんな事しちゃ危ないだろ」


「あわわ……ごめんなさい」


「えー、あぶなくないよ」


 注意を受けるとシルフィはしょんぼりし、ステラは口を尖らす。


「だーめーだ。言う事聞かないで危ない事するなら、今度からステラだけお留守番にするぞ」


 もちろん、ステラを守るため目を離さないようにしているシャルルがそんな事をするはずない。だが、マギナベルクで留守番中に怖い目にあっているステラには結構効くのでシャルルはたまにこれを使う。


「ずーるーいー」


 ステラは体をゆすって不満を表現するが、シャルルは両手のひらを上に向け『やれやれ』というジェスチャーをしつつ言う。


「お留守番かな」


「やー。おるすばんやー」


「じゃあ、危ない事はしないか?」


「うん」


 しぶしぶステラが頷くと、シャルルは彼女の頭をなでる。


「じゃあ、お留守番はなしだ」


「やったー」


「よかったね」


「うん」


 こうしてシャルルに丸め込まれたステラは、なんとなく良い事が起きたような気分になり嬉しそうに笑った。


 それからシャルルは自分から見える位置に居る事や、雪下ろし中の建物に近づかない事を二人に指示する。


 そしてアンチグラヴィティを使い体を軽くすると、ふわりと倉庫の屋根に飛び乗った。


 高速で雪下ろしをするシャルルを見て、さっき彼をすごいと言っていた男は魔術師ってすごいんだな……と思う。


 すごいのは魔術師ではなくシャルルなのだが、そんな事を知らない彼はこの日から魔術師全般に尊敬の念を抱くようになった。




 請け負った作業をすべて終えたシャルルは報告に役場に行く。


 その速さに職員は驚きつつ、報酬は職員のチェックのあとだから支払いは午後5時以降になると説明する。


 そして、チェックで完了が確認されないと報酬は出ないと念を押し、まだ時間が早いから追加をやるか聞いてきた。


「2件残ってますがやりますか? まあ場所が離れているので、やるならどちらか片方が良いと思いますが」


「いや、今日は初日だしやめておく」


 1件程度やってもしょうがないし、離れた2件をやるのは効率が悪い。雪はまだまだ降りそうなので、明日も雪かきの仕事はあるだろう。


 今日は5件やったので報酬がちゃんと支払われれば一日分の宿代を上回る。食費も入れると若干マイナスだが初日だしこんなもので十分だ。


 そしてシャルルたちは宿に戻り食堂で昼食を取った。


 それからしばらくは宿に居て、シャルルは5時になったら報酬をもらいに行こうと考える。


 だが、結局やる事もなく暇なので、少し早めに役場に向かう事にした。


 雪かきはだいぶ進んでいるらしく道はかなり歩きやすくなっている。


 そしてしばらく歩いていると、空き地らしき場所で子供たちが雪合戦をしていた。


 それを指しステラが言う。


「しゃるー、すてらもあれやっていーい?」


 そういえば昨日もやってたな。


 まだ時間もあるし、同年代の子供と遊ぶのはステラに必要な事だ。そう思いシャルルは許可を出す。


「少しだけなら良いぞ」


「やったー。しるふぃ、いこー」


「うん。ごしゅじんさま、いってきます」


「ああ」


 嬉しそうに駆け出すステラをシャルルは優しい笑みで見送る。


 だが――


「あ、こいつ昨日の『ずるの奴』だ」


「にげろー」


 そう言うとステラとシルフィを置いて子供たちは去っていった。


 戻ってきたステラは頬を膨らませ半べそで言う。


「すてら、ずるなんてしてない!」


「そうか、そうか」


 シャルルはステラをなでながらシルフィに聞く。


「なんでずるって言われたんだ?」


「さあ? わたしが風で雪だまを防いでステラを守ってたら、あの子たちがずるいって言い出したの。なんでかしら?」


「ああ……」


 雪合戦でそれじゃあ、まあ、ずるいな。


 そう思いシャルルは苦笑した。

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