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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード6 雪の降る町
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純白に染まる町 その4

「ここで仕事を募集していると聞いたのだが……」


「はい、雪かきの応募ですよね。経験は?」


 元の世界で雪かきをした事がないわけではないが、たぶんここでの経験を聞いているのだろう。そう思いシャルルは答える。


「初めてだ」


「でしたら細かいルールなどを説明させていただきます」


 そう言うと受付の青年は説明を始めたのだが――それが非常に長かったため、終わるまで後ろに並んでいる人たちににらまれ続けるという居心地の悪い時間をシャルルは過ごす事になった。


 ちなみに説明の内容は――


 仕事は町の動線確保を目的とした雪かきや、建物の倒壊を防ぐための雪下ろし。


 報酬は1時間もあれば終わるであろう範囲を1件とし、件数分が報酬として支払われるという仕組み。ちなみに作業に必要な道具は無料で貸してくれるらしい。


 現場は役場に寄せられた依頼や町の管理下にある建物や道路など。バッティングしないよう管理されていて、あらかじめ何件やるかを申請するとそれに応じて場所を指定される。ちなみに場所や件数は早い者勝ちだ。


 とはいえ申請したがこなしきれなかった場合、こなせなかった件数分を、こなした件数の報酬から減額するというペナルティがある。


 例えば10件申請したが6件しかできなかった場合、こなせなかった4件分報酬が減額され2件分しか支払われない。ちなみにマイナスにはならないので、10件申請して4件しかできなかった場合、報酬は無しとなる。


 また作業には時間制限があり、午後4時までに役所に戻り終了を報告しなかった場合も報酬は無し。もっともこれは厳密に4時丁度というわけではなく、4時半くらいまでなら普通に支払われる。


 こんな面倒な方式を採用しているのは、無謀に請け負う者のせいで終わらない現場が多数出るという状況を防ぐためだ。


 ほとんどの人はだいたい4~5件を請け負い、これくらいだとペナルティを食らう事はまずないとの事。


 もちろん請け負った分が終わって報告をしたあと、時間に余裕がありまだ誰も請け負っていない場所があれば追加でやる事も可能。雪かき依頼は随時受け付けているので追加されている場合もあるらしい。


 説明が終わると受付の青年はシャルルに尋ねる。


「何件やりますか?」


「そうだな……」


 シャルルは懐から懐中時計を取り出す。


 時計の針はもうすぐ午前10時といったところを指している。つまりタイムリミットの午後4時までは6時間くらいだ。


 雪かきに特殊な技術が必要だとは思えないので恐らくは体力勝負になるだろう。だとすればシャルルなら普通の人の倍はいけるはず。


 となると12件という事になるが、昼食もあるし初めての事なので十二分に余裕を持った方が良い。そう考えたシャルルはとりあえず5件ほど請け負う事にした。




 シャルルが請け負ったのは商店街の横道3件の雪かきと、その近くにある倉庫2件の雪下ろし。作業場所は基本的に連続してできるように隣接している場所をあてがわれる。


 雪下ろしに使うはしごは近くの現場でやっている人と共用なので誰かが使用していると使えない。現地に到着したシャルルは、はしごが空いていなかったのですぐに始められる雪かきをする事にした。


「じゃあ、道を通りやすくするために雪を左右に寄せるぞ」


「おー!」


「はーい!」


 シャルルはとりあえず、雪を運ぶために借りてきたスノーボートと呼ばれるスコップの先端部分に似た形のソリをスコップ代わりに使い、まずはざっくりと積もった新雪を道の両端に寄せて行く。


 ステラやシルフィは寄せられた雪を手に持ったシャベルでぺしぺし叩いて固めているが、もちろんその行動はなんの役にも立ってない。


 とはいえ手伝おうという気持ちが大事だし、すぐ見える場所に居てくれているのでシャルルとしては満足だ。


 ソリで大雑把に道路から雪をどかすと今度はスコップで雪を掘る。


 さすがに最初のふわふわな新雪とは違い下の方は詰まっていて少し重い。シャルルはそれを掘ってはソリに乗せ、道の端に運ぶという作業を繰り返した。


「ごしゅじんさま、おてつだいします」


 そう言うとシルフィはソリについた紐を引こうとする。


「結構重いぞ。大丈夫か?」


「おまかせください」


 シャルルは心配したが雪の上を引くだけなので、結構な重量のソリをシルフィは問題なく動かしていた。


「しるふぃすごい! ちからもち!」


「ふふん」


 ステラに絶賛され誇らしげに胸を張るシルフィを見てシャルルは思う。


 シルフィのそれは、力は力でも魔法的な力だな。


 そういえばこいつのその力って……ここでシャルルは思い出す。物の重さを軽くする魔術『アンチグラヴィティ』の事を。


 エンデルテを出るときにスージーがくれたスクロール。その一枚はそれだった。


 将来ステラにとの事だったが今はシャルルが持ってるし、そもそもラーニングしたのでスクロールがなくても使う事ができる。


 元々シャルルにとって雪かき程度たいした事ではないのだが、やはり体力の消耗は避けられない。だが、魔術は使ってもほっとけば自然回復するマナを消費するだけだ。使わない手はないだろう。


 ちなみにこの魔術、触れている物の重さを軽減するとされているが、正確には触れているものから重力に反発する力(反重力)を発する魔術だ。


 消費マナは反重力の出力に比例するので、ギリギリ使える程度の実力だと重量をほとんど減らす事ができず使い物にならない。だが、もちろんシャルルなら余裕で使いこなす事が可能だ。


 アンチグラヴィティを使ったシャルルにとって、積もった雪など発泡スチロールの粒みたいなもの。作業効率は劇的に上がり、始めて1時間もかからず道路の雪かきは終わった。

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