純白に染まる町 その3
「しゃるー! たいへん! たいへん!」
ステラはさっきまで起こさないように気をつけていたシャルルを容赦なくゆする。
騒がしく自分を揺らすステラに、これはもう起きるしかないか……とシャルルは観念して半身を起こした。
「おはよう、すてら」
「あ、おはよー」
挨拶をするとステラはベッドに上りシャルルの頬にキスをする。シャルルもステラのおでこにキスを返す。
するとステラは嬉しそうに笑い、それを見てシャルルも優しい笑みを浮かべた。
「えへへ」
「ふふっ」
そして一呼吸。
本来の目的を思い出したステラは再びシャルルに言う。
「あっ、しゃるー! たいへん! おそとまっしろ!」
「真っ白?」
ステラに手を引かれシャルルは窓へ行く。
そして彼が見たものは――純白に染まる町だった。
「雪か……冷えるはずだ」
「ゆき?」
初めて聞いた言葉であるかのうように、ステラは不思議そうに首をかしげる。
「雪、知らないか?」
「わかんない。しるふぃはしってる?」
「えっと……白い?」
シルフィも首をかしげ、見たままを口にするが――
「おおー! しるふぃものしり!」
なぜかステラは感心していた。
「いや、それは見ればわかるだろ」
そして寒いので窓を閉め、やはり寒いのでとっとと着替える。
それから顔を洗ったり歯を磨いたりして、シャルルたちは一階の食堂で朝食を取った。
朝食のあと外に出たステラは、シルフィと共に雪にはしゃぐ。
「おおー! おおー!」
新雪を踏みざくざくという音を鳴らしながらステラは初めての感覚に思わず声を上げた。
そんな様子に微笑みつつ、降り積もった雪を見てこれが噂の雪か……とシャルルは思う。
ギリギリだったが雪の前にアンシュルツに到着できたのは良かった。だが、これでしばらくはここに足止めという事になるだろう。
さて、これからどうするべきか……腕を組み考えるシャルルだったが――
「しゃるー! しゃるー!」
「ごしゅじんさま~」
雪にはしゃぐステラとシルフィを見て、せっかくの雪だしたまには童心にかえるか……と考え二人と雪遊びをする事にする。
そして午前中は雪だるまを作るなどして二人と遊び、午後は町の子供に混じって雪合戦をするステラたちを見守った。
その日の夜、夕食を食べながらシャルルは今後について考える。
やはり以前考えた通り、次に行くのは南にあるヴィアントシティが良いだろう。
西にある小都市ゼーフェルフィンよりは若干遠いようだが、ここは入場料さえ払えば身分証無しで入れると聞く。
一応の目標である交易都市ゼントルタッドまでの距離はどっちを経由してもほぼ同じ。ならば入れる方に行った方が良いに決まっている。
とはいえ次の目的地が決まっても、雪が落ち着かない限り乗せてくれる馬車は見つからないだろう。
なのでしばらくこの町に留まる事になる。
しかし……雪が落ち着くのはいつだろうか。さすがに春という事は無いと思うが、今も降り続けている雪はしばらく止みそうにない。
そして、しばらくは大丈夫だが金は減る一方だ。
あまり深く考えずマギナベルクを出るときに配ってしまったが、現在の手持ちは旅という状況を考えると潤沢とはいえない。なので少しは何らかの方法で稼ぐ必要がある。
そこでシャルルは食事のあと、カウンターで聞いてみる事にした。
「何か金になる仕事は無いだろうか?」
いきなりこんな事を聞くのは変かな……とシャルルは思ったのだが、良く聞かれる事なのか店員は普通に答える。
「うちでは雇ってないけど、雪が降ってるから役場に行けば雪かきの募集をしていると思うぜ」
「雪かきねぇ……」
「がんばればうちの宿代くらいは余裕で稼げるはずだ」
「ほう」
そしてシャルルは店員に役場の場所を聞く。
「明日行ってみるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
シャルルは店員に礼を言うと部屋に戻りつつ、シルフィとじゃれているステラを見て思う。
仕事をするとき一番の問題はその間ステラをどうするかだ。だが、雪かきなら仕事をしている横で今日みたいに遊ばせておけば良い。
雪かきか……案外悪くないかもしれないな。
朝食を終えたシャルルはステラたちを連れ役場に向かう。
道は夜に降った雪が積もり少し歩きづらかったが、場所によっては脇に雪が寄せられある程度歩きやすくなっていた。
今もそういう作業をしている人がいて、シャルルはこれが噂の雪かきか……と思う。
そしてもうしばらく歩くと、そこそこ立派な二階建ての建物――役場に到着した。
中に入ると受付カウンターがあり、数人の男たちが列を作っているのが見える。
シャルルはたぶんこれが雪かきの受付なのだろうと思い並ぶ。
そしてステラの相手をしながらしばらく待っていると、ようやくシャルルの番が回ってきた。