ドラゴン襲来 その3
ハンターギルドの受付。そこはそこそこの賑わいを見せている食堂スペースとは対照的に、ゆったりとした時間が流れていた。
「ふぁ~」
大きなあくびをしたパメラに同僚の受付嬢は笑いながら言う。
「ご飯食べたあとのこの時間帯って暇だと眠くなるわよね」
「そ、そうね」
照れ笑いを浮かべるパメラ。そんなゆったりとした時間は大きな音とともに開かれた扉によって終わりを告げる。
その扉から入って来たのは一人の騎士。彼は急いでカウンターに駆け寄るとパメラに言った。
「ギルドマスターはどこだ?」
「え? どう言ったご用件――」
パメラが言葉を言い終わる前に騎士は続ける。
「緊急の連絡だ。ギルドマスターはどこだ!」
「え? あの……三階の執務室ですが……」
「わかった」
そう言うと、騎士は奥にある階段を上っていってしまう。
「え? いいのかな……」
「さ、さあ……」
パメラは同僚の受付嬢と顔を見合わせ、後ろで事務作業をしていたギルド職員たちもとっさの事に対応できずにいる。
そして上の方からギルドマスターの驚くような声が響き、その後、騎士は階段を降りてきてカウンターに向って言った。
「失礼しました」
「は、はぁ……」
そしていそいそと出て行く騎士を見送ってから、パメラはようやく状況を理解する。
確かにさっきの騎士はマギナベルク騎士団の騎士に見えた。
だが、身元の確認も取次ぎもせずにギルドマスターの執務室に通してしまった格好だ。
そして聞こえてきたマスターの大きな声。
もしマスターに恨みを持つ者が復讐しに来たとかだったら……そんな事を考え冷たい汗が流れたパメラだったが、その心配は杞憂に終わる。
少しこわばった表情ではあるが、ブルーノは特に何かあった様子もなく階段を下りてきた。
これは身元確認もせずに騎士を通した事を怒られるのかな? と思ったパメラたちだったが、ブルーノはカウンターを素通りして食堂スペースに向かい、そこにいるハンターたちに向って言った。
「都市防衛法の協力要請が出た。すべてのハンターは現在受けている依頼を中断、または中止してギルドの指示に従ってもらう」
突然来て声を張り上げたブルーノを見ながら、対面で食事を取っていたアルフレッドとローザにシャルルは問う。
「都市防衛法の協力要請ってなんだ?」
「えっと、『都市がピンチだからみんな協力してね』みたいな法律だったかな」
「うん。だいたいそんな感じだけど……」
「ふーん」
何があったんだろう? そんな表情で二人は顔を見合わせる。
そしてブルーノの言葉にざわめいていたハンターの一人が言った。
「マスター、この都市に来てそれを聞くのは初めてなんだが、何が起きたんだ?」
それは皆が思う疑問。だがその答えを聞き、ざわめきは更に大きくなる。
「ドラゴンだ。恐らく数時間、遅くても明日にはこの都市に到達するらしい」
ブルーノの発言に一人のハンターが立ち上がり言う。
「おいおい、この都市ではドラゴンが出てもハンターは戦わなくても良いんじゃないのか!? そう聞いて俺はこの都市に来たんだぞ」
それに呼応するようにハンターたちが口を開く。
「そうだ! ドラゴンは英雄公が倒してくれるんじゃないのか?」
「この前だってそうだっただろう? 英雄公はどうした?」
口々に英雄公の名を出すハンターたち。それにブルーノはややうつむきながら答える。
「英雄公は……不在だ。オブシマウン大公の要請でドラゴンの討伐に行っている。すでに討伐は終えたらしいが――戻るまで数日はかかるらしい」
ブルーノの発言にハンターたちの顔は絶望に染まり、そして悲鳴と怒号が飛び交う。
「うわぁ、もう駄目だ」
「この都市の戦力じゃ、英雄公なしでドラゴンをどうにかできるわけがねえ!」
「自分の都市を守らず何が大公爵、何が英雄公だ」
「ドラゴンなんて……どうすれば」
アルフレッドたちの顔も真っ青になり、ローザはアルフレッドの手を強く握る。
そんな中、一人の男が立ち上がり声を上げた。
「うろたえるな! それでもお前らは誇り高きハンターか!」
ライオンのたてがみを思わせるような金髪のその男は、同じく金を基調とした肩にもさもさのついた全身鎧を着ている。
鎧よりは明るい色だがマントまで金色だ。
水を打ったように静まり返ったハンターたち。そして一人のハンターがつぶやく。
「ヨシュア……」
それを皮切りに沈黙していたハンターたちは次々に立ち上がる。
「そうだ! 英雄公がいなくても、マギナベルクにはゴールドハンター『金獅子』がいる」
「やろう、俺たちがこの都市を守るんだ! 金獅子がいればできる」
『おー!』
ヨシュアの鼓舞でハンターたちがまとまり始める。
「金獅子、お前さんはドラゴンと戦った事があるんだよな?」
「まあな」
ブルーノ問いにそっけなくヨシュアは答える。
「ならお前さんに地上で迎え撃つハンターたちの指揮を任せたいんだが……受けてくれるか?」
「いいだろう」
ブルーノはヨシュアの肩に手を置きながら言った。
「よし、とにかくこの事をできる限りここにいないハンターたちにも周知しろ。俺たちでこの都市を守るんだ」
『おー!』
ヨシュアのおかげでおおむねまとまったハンターたちは、ブルーノの言葉に応えときの声を上げる。
そのとき、我関せずといった感じでその様子を見ていたシャルルはヨシュアを見てこんな事を考えていた。
あいつの格好……超派手だな。
誰かがそれを知ったら全力で突っ込むだろう。お前がそれを言うのかと。