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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード6 雪の降る町
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純白に染まる町 その1

 数日の旅を経て目的地である宿場町アンシュルツに到着したシャルルたち。彼らが町に入ったのは日も落ちてすっかり暗くなってからの事だった。


 既に夜という事もあり、シャルルたちはここまで連れて来てくれた行商人グループと簡単な挨拶を交わすとすぐ別れる。


 そしてとりあえず夕食を取ろうと目についた食堂に入った。


 ホールにはいくつかのテーブルがあり奥にはカウンターがある。どうやらカウンターの後ろは厨房になっているらしく、料理や使用済みの食器が載った盆を持つウェイトレスが出入りしていた。


 カウンターの横には階段があり、ホールから見上げられる場所にある二階の廊下に続く。カウンターには食事メニューの他に宿代も書いてあるので、その先は恐らく宿泊施設なのだろう。


 料金は食事なしの素泊まり専用だとしても安価と言える価格だ。それを見てこれから宿を探すのも面倒だな……と思ったシャルルはここに泊まる事に決めた。


 ちなみに宿代は部屋単位だがベッドは二つ。つまりそういう使い方ができないわけではないが、特に情事などを意識した宿ではないという事だ。


 安宿を兼ねる食堂なので食事も当然安価だが、質はやはり値段なり。とはいえ道中に食べる保存食などに比べれば遥かに良いのでステラも満足げに食べていた。


 夕食を終え茶を飲んでいたシャルルは、なぜかケーキを食べている客が多い事に気づく。


 名物かなにかか?


 不思議に思いシャルルが首をかしげていると、ステラもそれに気づいたらしくおねだりしてきた。


「ねーねーしゃるー。すてら、あれたべたい」


「んー」


 旅の最中はおやつもなかったし、たまには良いか。


 そう考えたシャルルはケーキを注文する事に決める。


「すみません、ケーキ二つ」


「やったー」


「はーい、すぐお持ちしますね」


 返事をするとウェイトレスは厨房に消え、戻ってくると二人の前にケーキを置く。


 目の前に置かれたケーキにわくわくが止まらないといった表情のステラ。それを見て微笑むウェイトレスにシャルルは尋ねた。


「ところで……ケーキを食べている人が多いようだが名物か何かなのか?」


「え?」


 ウェイトレスは『なぜそんな事を?』といった表情をする。それを見てシャルルは、ああ、たぶん知っていて当然の常識なのだろうな……と思う。


 恐らくたいした事ではないだろうし大人の対応としては流すべき案件。だが、やはり気になるので彼は聞く。


「辺境の田舎から出てきたばかりで世間の事には疎いんだ」


「そうでしたか」


 納得したのかどうかはわからないが、軽く頷くとウェイトレスは説明してくれた。


 今日12月24日はケーキを食べる日で、これを始めたのは五英雄の一人、白銀の聖騎士こと聖王らしい。


 聖王といえば聖王教という宗教もあり、それを国教としている国家群、聖王連合なんてものもある。


 シャルルの知識で考えると12月24日といえば有名な宗教に関する日。それにちなんだものだとすれば、ケーキを食べるのは聖王教の宗教行事なのかもしれないなと彼は思う。


 だが聖王教を国教とする聖王連合は魔導帝国に対抗するためにまとまりできた国家群。そこの宗教行事を帝国でもやるというのはさすがにおかしい。


 そこで詳しく聞いてみる事にした。


「聖王教の宗教行事なのか?」


「さあ? 聖王が始めたって言い伝えだから聖王教ではそうなのかもしれないけど……少なくとも帝国じゃ宗教は関係ないわね」


「そうか……」


 聖王は1000年くらい前の人物。シャルルはマギナベルクに居た頃、カードゲーム『トランプ』も聖王が大陸にもたらしたと聞いた事がある。


 クリスマスにケーキを食べるのも彼の影響だとすると、聖王もまたシャルルやラーサーと同じアナザーワールド2のプレイヤーだと考えるのが妥当だろう。


 だが、それだと腑に落ちない点もある。


 それはラーサーやシャルルは同じ時代に飛ばされているのに、聖王は1000年前に飛ばされているという点だ。


 ゲーム内の時間は現実の10倍で、ラーサーの事例から考えるとその時間はこっちの時間とリンクしていると考えられる。


 ちゃんとした確認は取れてないが、シャルルが『次元の扉』をクリアする1年前にそれをクリアしたラーサーは、この法則に則り10年前にこっちに来ている感じだ。


 それにあてはめると、シャルルが来る1000年前に大陸に行くには現実で100年前に『次元の扉』をクリアする必要がある。だが、当然100年前にはそのクエストどころかアナザーワールド2すら――


 そこまで考えシャルルは自分がやっていたゲームがアナザーワールド『2』である事に気づく。そしてよくよく考えてみると、始めた頃に『アナザーワールドから××××年。世界は――』みたいなフレーズを見たような気がする。


 もちろん××××年は前作が出て2が出るまでの現実時間ではなくゲーム世界の時間。良く覚えてはいないが××××年が1000年なら、色々問題はあるもののある程度その疑問に整合性をつける事が可能だ。


 聖王が前作であるアナザーワールドのプレイヤーで、そこで『次元の扉』に類するクエストをクリアして大陸に飛ばされたのだとしたら、なんとなくだが合点が行く。とはいえ確かめようが無い事なのであまり考えても意味はない。


 ただ、聖王が予想通りの存在であるのなら、これからもどこかで見たような文化が見られるかもしれないなとシャルルは思った。

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