ドラゴン襲来 その2
昼過ぎのギルドの食堂スペース。遅い昼食を取る者や打ち合わせをしているパーティなどがいて、混雑とまでは言わないがそこそこにぎわっている。
そんな場所に浮かない顔でため息をつく、赤い鎧に真紅のマントという派手な格好の男――シャルルがいた。
「はぁ――」
パーティを抜けてから一週間。装備を買ったアルフレッドたちと違いしばらく働かなくても大丈夫なくらいの蓄えがあったシャルルは、この間を新たな門出に向けた情報収集期間とした。
そして集めた情報を精査した結果、計画を大幅に見直さなければならないという結論に達したのだ。
まず、金になる害獣をガンガン狩って金を貯めるという計画。すべての計画の基礎ともいえるこの計画が早速破綻した。
この計画は金になる害獣を狩りやすい狩場を知っている事が前提となる。
アルフレッドたちがいたので、あまり強い害獣狩りをしてこなかったシャルルは当然そういう狩場を知らない。
そこで情報収集を試みたのだが結局うまくはいかなかった。
ギルド職員に聞いても現場に行くわけではないので漠然としかしらず、害獣狩りをメインにしているハンターはライバルになる相手に教えてくれるはずもない。
単発で見かけたという情報程度ならいくつか拾えたが、それでガンガン狩るのは無理だ。結局地道に足で稼いで自力でおいしい狩場を見つけるしかない。
計画を見直さなければならない問題はほかにもある。
家を買ってメイドを雇うという目標を達成するためには、ハンターレベルを最低3に上げる必要がある事が判明したのだ。
都市で家を買う場合、土地を買うというよりは土地の使用権を買うという事らしく、その価値に応じた土地使用税というものを毎年取られる。
この税を取りっぱぐれないようにという事なのか、市民としてある程度の信用がないと売ってもらえない。その信用の証明として、ハンターの場合はレベル3以上である事が必須条件となっている。
ハンターレベル3はプロハンターと言われるだけあって強いだけでは昇格できず、依頼をそれなりの回数、問題なくこなした実績が必要となる。
そのため害獣狩りだけでは永遠になれない。
つまり、シャルルが金になる害獣をガンガン狩れるようになって大金を稼いだとしても、このままでは家を買ってメイドを雇うという目標は達成できないのだ。
結局、依頼をたくさんこなしてハンターレベルを上げるしか方法はないのだが、現在ハンターレベル2のシャルルが受けられる依頼は少ない。
だからといって自分から見れば雑魚のレベル3以上がいるパーティに参加して下っ端をやるのはなんとも受け入れ難いところ。
何か良い方法はないものか――
「うーむ」
「悩み事か?」
「まあな。お前らはこれから害獣狩りか?」
いつの間にか後ろにいたアルフレッドにシャルルは振り向きもせず答える。
「ううん。今、依頼が終わって報告してきたところよ」
ローザの答えにシャルルは少し考える。
千里の道も一歩から。とりあえずレベル3になるためには一つでも多く依頼をこなさなければならない。
依頼をやるなら誘ってくれれば――そこまで考えて軽く首を振る。
パーティーを抜けたのは自分の方からだ。その考えはずうずうしいというものだろう。
ローザがシャルルの向かいに座ると、食堂のカウンターで二人分の食事を買ってきたアルフレッドがその隣に座る。
「依頼はなんだったんだ?」
「鉱山地区の夜警だよ。コボルトが出たって事だったんだけど……」
「結局、都市兵が駆除しちゃったからボーナスは無しだったのよね」
「ああ……」
シャルルもその依頼は数日前に見た覚えがある。
最長一週間程度の夜警で、コボルトを倒した場合はその数に応じてボーナスが出るというものだ。
報酬が安すぎて適当に害獣狩りをやった方がよっぽど稼げそうだと思いスルーしたが、そういう依頼もこなさないとハンターレベルは上げられないのだろう。
「シャルルはあれから何かやった?」
「いや、ハンターの仕事は何も」
「マギナベルクに来てからずっと働き詰めだったもんね」
ローザの言葉にシャルルは軽く首を横に振る。
「別にそういうわけじゃない。サポートとか頼まれればやっても良いと思っていたんだが、そういう誘いは誰からもなかったしな」
アルフレッドは何かに気がついたような表情で言う。
「あー。それは……そうかもなぁ」
確かにシャルルの強さはハンターたちの間ではある程度知れ渡っている。
初日に彼のオーラを見た者はもちろんの事、彼が入ってからアルフレッドたちがやった害獣狩りの実績を知る者は、それ以前との比較で彼の強さを安易に察する事ができるだろう。
彼の力を借りれば今まで手を出せなかった依頼をこなせるパーティも少なくないはずだ。
だが、ハンターは可能な限り未知を避ける。
これはハンターの安全が経験、知識、情報によって担保されているためであり、いくら強いとされる人物でも未知の存在を臨時で入れるような危険は避けるのが普通だ。
「確かによく知らない人にサポートを頼む人は少ないかもしれないわね」
「言われてみれば……そうかもしれん」
「もっと積極的に交流をもって人脈を広げるか、多人数が参加する依頼とかで知り合いを増やすとかしないと厳しいかもな」
「うーむ」
シャルルは別に社交性がないというわけではないが、知り合いが多いという状態を好まない。どちらかというと狭く深い交流を好むタイプだ。
だからサポートもあくまで仕事としてドライな関係でいきたいと思っている。
「多人数が参加する依頼か」
「ゴブリンの集落を落とす作戦とかそういうのがほかの都市ではあるらしいけど――」
「ここの場合、そういうのって英雄公とヒイロ騎士団がやっちゃうみたいなのよね」
「となると、やはり人脈か……」
そんな話をしていたシャルルたちの耳に、ギルドの入り口の方から大きな音が聞こえてきた。