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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード4 犯罪者と一般人
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魔が差す事と差させない事 その5

 林は街道の一部として整備されているらしく、馬車が進めるくらいの道はある。だが大木を切り倒すなどの事まではしていないので、そういうものを避けるために道はややうねり気味で見通しは良くない。


 それに周りの木々はそれなりの高さがあり間には小さい草木があるため、何かが潜んでいてもすぐにはわからない感じだ。


 御者を務めるイオはもちろん、テオも緊張気味な感じで周囲を警戒する。もっともテオの緊張には別の理由もあるのだが……それを知っているのは本人だけだ。


 そんな状態でしばらく進んでいると、シルフィがそっとシャルルに耳打ちした。


「ごしゅじんさま。大人くらいの太っちょが待ちぶせしてるみたい」


「ほう。どれくらいだ?」


「たぶん……7」


 大人くらいの太っちょと言うと、イメージではあるがシャルルの知るオークと一致する。距離があるためかシャルルにはその気配を感じ取れないが、シルフィの能力を考えると間違いという事は無いだろう。


 シャルルは人差し指を立て、シルフィに黙っているようにというジェスチャーをする。


 それを見てシルフィは黙って頷いた。


 別にテオたちに教えてやっても良いのだが――被害にあっていないとはいえ、テオには何度も殺気を向けられている。なので、ここでちょっとびびらせてお仕置きしてやろう……そう考えシャルルは黙っている事にしたのだ。


 しばらく進むと道の脇から三匹のオークが出てきて道をふさぐ。その姿はシャルルの想像通り、やや赤みがかった肌色の豚人といった感じの姿。奴らは手入れが行き届いているとは言いがたい錆びた剣や槍などで武装していた。


「あ、兄貴!」


「くっ、俺がやる。三匹ならなんとか……」


 さすがにこれだけ近ければシャルルでも気配を感じ取るのは容易だ。


 道をふさぐ三匹から感じる力は一般的な都市兵と同じくらいなので、一対一ならテオでも余裕だろう。


 だが三匹となると明らかに分が悪い。


 それにシルフィの言った通り感じる気配は他にもある。そのうち一つから感じる力はテオよりも上だ。


 テオが剣を抜き馬車を降りると後ろの草むらからそいつが、他の奴より少し色の濃いオークが出てきた。


 それを見たテオは青くなる。


「オークソルジャーだと……」



 オークソルジャー。オークの上位種でオークの一部が進化すると言われている。力も知能もオークより高いが所詮はオークなのでさほどでもない。


 ちなみにワイルドウルフの駆除報酬はこれより更に一つランクが上のオークサージェントと同じなので強さはお察しである。



 更に二匹が草むらから出てきて前後合わせて合計六匹。イオとテオの二人だけでどうにかできる数ではない。


 じりじりとにじみ寄るオークたちを見てテオは後悔する。


 いつもなら単独で通る事の無いこの道を選んだのは金を奪おうとしたためだ。


 バチが当たったという事か――自分の愚かさを呪いつつ、イオだけでも守らねばとテオは叫ぶ。


「俺が突破口を作る。駆け抜けろ!」


「兄貴を置いて行けるわけないだろ!」


「子供もいるんだ、行け!」


 イオを守るためとはいえ、自分が殺そうとしていた者も助けるために命を捨てるとは……皮肉なものだな。


 そんな事を考え馬車の前に居るオークに向かって駆け出すと――次の瞬間、そこに居た六匹すべてが燃え盛る炎の矢に刺し貫かれ倒れる。


 振り返ると、そこには軽く笑みを浮かべるシャルルが立っていた。


「え……」


 あまりの事に言葉を失うテオ。シャルルはその横を通りオークが持っていた錆びた剣を拾う。


 そしてその剣でテオに向かって放たれた矢を薙ぐと、矢が放たれた草むらに剣を投げた。


 投げられた剣は隠れていたオークに刺さりそれを絶命させる。


 シャルルは他にいないか調べるが感じる気配は無い。シルフィは7と言っていたので数は合っているが一応聞いてみる事にした。


「シルフィ、まだいるか?」


「だいじょうぶ、もういないよ」


 シャルルは頷くとテオの肩を軽く叩いて言う。


「じゃあ、行こうか」


「あ、ああ……」


 そのあとは何かに襲われるような事もなく馬車は林の中を進んで行く。あまりの出来事に礼をいう事も忘れていたテオはシャルルを見て思った。


 この男、とんでもない強さだ。それに矢を薙いで投げた剣でオークを仕留めたあの動き……魔術もすごかったが、それが無くても俺がかなう相手じゃない。もし金の強奪を実行していたら俺は……。


 そして日が沈む少し前の夕刻、馬車は宿場町ヤーブに到着した。


 馬車を降りたシャルルはここまでの運賃の残りを払おうと財布を取り出す。だが、それをイオは手で制しながら言った。


「いや、残りはいいよ。あんたのおかげで命拾いしたし。な、兄貴」


「あ、ああ……そうだな」


 話を振られたテオもぎこちなく頷く。だが、シャルルは金を取り出しながら言った。


「いや、これはここまで運んでもらうための運賃だ。私とてここに来られなければ困るからオークを倒しただけだし、あんたらはちゃんと仕事を果たしたんだから受け取ってくれ」


「まあ、そういうなら」


 そして、金を受け取るイオたちにシャルルは質問する。


「ところで――『犯罪者』と一般人の違いってなんだと思う?」


 不意にされた質問に、イオは首をかしげつつ言う。


「さあ? 犯罪を犯したか犯してないか……かな?」


 するとシャルルは笑いながら言った。


「その通り。もう少し言うと、犯罪を実行した奴は犯罪者だが――考えただけで実行に移さず、思いとどまった奴はまだ一般人だな」


 そしてシャルルはテオの肩を軽く叩く。


「あんたもそう思うだろ?」


「あ……ああ」


 イオは何でシャルルがそんな事を言っているのかわからないといった感じだが、テオは冷や汗をかきながら青くなる。


「じゃ、世話になった。誠実に元気でやれよ」


「ばいばーい」


「さよなら~」


「ああ、あんたらも元気でな~」


 手を振るステラたちにイオはもちろん、テオも軽く手を振った。


 そして去り行くシャルルたちの背中を見ながらテオは思う。


 考えてみれば実行に移そうとしたとき、実にタイミング良く話しかけられたりしてやる気をそがれていた。


 あいつは……気づいていたのか。


 すべてを理解したテオは反省し、そして自分を犯罪者にしないでくれたシャルルの背中に深く頭を下げるのだった。

『エピソード4 犯罪者と一般人』はいかがでしたでしょうか? ご感想、お待ちしております。


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