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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード4 犯罪者と一般人
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魔が差す事と差させない事 その1

 小都市ベルドガルト。鉱山都市アインツヴェルクに付随するこの都市は、魔導帝国においては辺境に位置するものの広大な湖と森に隣接する豊かな都市である。


 隊商と共にスバルクを出発したシャルルたちは、数日の旅を経てようやくこの都市の前までやってきた。


 門のそばには彼ら同様、近隣の村や町などから来たのであろう馬車などが入場審査を受けているのが見える。


 馬車を降りたシャルルたちがその様子を眺めていると、隊商の隊長ベーベルがやってきて言った。


「お疲れ様でした。シャルル殿たちは一般の入場審査となるのであそこの列に並んでください」


 ベーベルが指す列の先には野外会場などで良く見かける屋根つき吹き抜けのテントのようなものがあり、そこで都市兵らしき者たちが何やら審査のような事をしているのが見える。


「わかりました。それではこれにて……お世話になりました」


「いえ、こちらこそ水の供給や明かりなど、非常に助かりました。それではお元気で」


「ばいばーい」


「さよなら~」


 ベーベルはぶんぶん手を振るステラを見て微笑むと、軽く手を振りつつ隊商の馬車の方に戻って行く。


 そして審査待ちの列に並ぶ事数十分。ようやくシャルルたちの番が回ってきた。


 都市兵はシャルルとステラ、そしてステラが胸に抱えるシルフィを見て言う。


「えっと、大人と子供の二名ですね。それでは身分証を見せてください」


「身分証?」


「はい、身分証です」


 シャルルはここで思い出す。マギナベルクは復興中という事もあり入場審査が甘く身分証も必要なかったが、普通の都市は身分証が無いと入れないと聞いた事があったことを。


 だが、シャルルの知る身分証はハンターギルドが発行したライセンスプレートだけ。ギルドは都市の中にあるのだから、入る前にそこが発行する身分証を手に入れる事はできない。


「つかぬ事を聞くが……身分証ってどこで手に入れるんだ?」


「へ?」


 都市兵の話では――


 都市の近隣にある町村の多くは、実質的には独自運営されているものの名目上は都市の領主が領有している。なので形式上統治を委託されている事になっている村長や町長の権限で、同一領主が治める都市の短期滞在に使える身分証が発行できるらしい。


 もちろん領主が別に居る場合もあるが、基本的に領主やその代理人の権限で同様の身分証が発行できる。ここで提示を求められているのはその身分証だ。


 その事を踏まえてシャルルは考える。


 一度スバルクに戻って町長に頼めば入手できるかもしれないが……さすがにそこまでする気にはなれないな。


 それにたぶん無いとは思いつつも、やはりリベランドからの追っ手が気になる。スバルクには結構留まっていたので追っ手があった場合、戻ると鉢合わせなんて事も絶対に無いとは言えないだろう。


 そもそも、そこまでしてこの都市に入らなければならない理由も無い。ならば諦めてとっとと次を目指すべきではないだろうか。


 考え込むシャルルを見て都市兵は思う。


 この人はどう見ても魔族。身に纏うローブはシンプルながら光沢もあり、細部には金糸も使われていてかなり上等なものに見える。魔族は貴族など上流階級も多いし、彼の少し世間ずれした感じはもしかしたら上流階級だからなのかもしれない。


 もしそうなら、無碍に追い返すと問題になる可能性がある。一応、確認は取っておいたほうが良いだろう。


「あの……都市内の有力者にお知り合いなどが居れば……そういう方が保証人になれば入場できるかもしれませんが……」


「そうなのか?」


「はい」


「有力者か……」


 シャルルは考える。


 自分が知っていてこの都市に居る人物。その中で最も有力な者は恐らくベーベルだろう。ギルドの何かの部門の部長だか副部長だかそんな感じの役職だったはず。


 だが少し共に旅をしただけでさほど親しくなったわけでもない。さすがに保証人になってくれとは言いづらいな……そう思ったシャルルはやはり諦める事にした。


「この都市に有力者の知り合いは居ないな。まあ、駄目なものは仕方ないさ」


「そうですか」


 できるだけの説明はしたし、その上でこう言うのなら問題にはならないだろう。


 そう考え都市兵は頷く。


 ちなみに一般人であるベーベルでは保証人にはなれない。そんな超法規的な事ができるのは各ギルドのギルドマスターやそれなりに力のある貴族くらいだ。


 なのでシャルルがベーベルに頼んでいたら都市兵に失笑されていただろう。


 次を目指す事にしたシャルルは都市兵に聞く。


「ところで、ここから近い都市と言えばどこがある?」


「近い都市ですか。街道沿いに西に行けば鉱山都市アインツヴェルクがあります。ほかには――ちょっと待ってください」


 そう言うと兵士は地図を取り出し広げた。


 それを見てシャルルは都市の場所を確認する。


 都市兵の言う通り、街道を西に行くと鉱山都市アインツヴェルク。街道を南下し東に行けばは小都市エルツァイゼン。西だと小都市ゼーフェルフィンで、その先には交易都市ゼントルタッドがある。


 どうせなら大都市を目指したいので、行くならアインツヴェルクかゼントルタッド。追っ手が気になるなら、魔導帝国のほぼ中心部にあるゼントルタッドの方が安心できる。


 身分証が無いので都市には入れないが、大都市のそばなら発展した町などもあるはずだ。町ならたぶん身分証がなくても入場できるだろう。


 シャルルは都市兵に礼を言うと、ベルドガルトを出て街道に向かおうとする馬車を当たる事にした。根気良く探せば乗せてくれる馬車もあるだろうと考えて。

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