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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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旅立ちと、笑顔の別れ その3

 ネリーの部屋に行ったステラたちは、この前と違いすぐにベッドに横になる。そしてみんなで『おやすみ』の挨拶をすると、ネリーはベッドの棚に手を伸ばして魔法灯を消した。


 真っ暗になった部屋は静かで、遠くで鳴いているのであろう犬の遠吠えのようなものがかすかに聞こえる。そしてしばらく――静寂を破り、ネリーは小さな声でステラに言った。


「ねえ、ステラ。もう寝ちゃった?」


 すぐに返事はなかったが、数テンポ遅れて少し眠そうな声でステラは言う。


「ん……んーん。おきてる」


「じゃあちょっとだけ、お話ししましょ」


「うん」


 二人は間近で顔を見合わせたが、真っ暗なので顔は見えない。しかし、かかる吐息が、感じる体温が、互いの存在を主張していた。


「明日……行っちゃうのよね」


「うん」


「もういっしょにあそべないのね……」


「……うん」


「でも……わたしたち……ずっと、ともだちよね?」


 ネリーがそっとステラの顔に触れてそう言うと、ステラはその手を軽く握って答える。


「うん。すてらとねりーはずっと……ずーっとともだち」


 そして再び静寂が訪れる。


「ステラ……ねちゃった?」


 聞こえるのは寝息だけで返事は無い。


 ネリーはステラの手を優しく握り返すと小さな声で言った。


「おやすみ……」





 出発の日。門の外まで見送りに来てくれた屋敷の人たちとシャルルたちは互いに別れの挨拶をする。


「皆さん、お世話になりました」


「こちらこそ、本当に助かりました」


「ステラちゃんも元気でね」


「うん。ばいばーい」


 そして一通り挨拶が済むとヘルマンは言う。


「名残惜しいかもしれんが……そろそろ時間だ。行きましょう」


「ええ……」


 シャルルが頷きステラの手を引くと、ヘルマンもネリーの手を引いて歩き出す。


 当然ステラとネリーのそばにはそれぞれシルフィとプリムが居る。


 元々へルマンは隊商の出発をいつも見送っているらしく、ならばついでにという事でシャルルたちはそこまで案内してもらう事になった。


 ネリーが一緒に来ているのは、ヘルマンが少しでも長くステラといさせてやりたいと思ったからだ。


 隊商は町の入り口で待っている。


 なのでそこに向かってシャルルたちは歩く。


 最初は何やら楽しそうに話しながら歩いていたネリーとステラだったが、町の入り口が近づくにつれ口数が減り、そして到着したときには静かになっていた。


「お待ちしてました」


「どうもお世話になります」


 隊商の隊長ベーベルの挨拶にシャルルも挨拶を返す。そしてヘルマンを含めた三人は注意事項や約束事に間違いが無いかなど確認し、その間、子供たちは別れを惜しんでいた。


 数日間とはいえ師弟関係にあったプリムはシルフィに礼を言う。


「ご指導ありがとうございました師匠! わたしも師匠みたいに強くなって、ネリーを守れるようにがんばるね」


「うん。プリムならきっとできるわ」


 そう言ってシルフィが頭をなでるとプリムは嬉しそうに笑った。


 幼児かぬいぐるみかといった感じの二人のそんなやり取りに、見ていた人たちはなんだか微笑ましくて笑顔になる。


 だが――その雰囲気は一気に冷めてしまう。すぐ隣でネリーが声を上げて泣き出したからだ。


「やだ……やだー! もっとステラとあそびたい! ステラともっと……ずっといっしょにいたい!」


 泣いているネリーを見て、これはステラも泣き出すな……とシャルルは思った。


 だが、ステラは優しく笑うとネリーに言う。


「ばいばいするときはねー、わらってないとだめなの。じゃないと、であわなかったほうがいーってなっちゃう。そんなのさみしーよ?」


 ステラの言葉を聞き、ネリーはぐっと声を抑える。


 そして目にいっぱい涙をためながらも笑顔で言った。


「わたし……ステラとであわなかったほうがよかったなんてぜったい思わない。だって、ステラといっしょにいたとき……あそんだとき、すごく楽しかったもん」


「すてらもねりーといっしょのとき、すごくたのしかった!」


「うん。だから……ステラ。わたしとであってくれて、ともだちになってくれてありがとう」


「すてら、ねりーだいすき」


 二人は笑顔で抱きしめあい、それを見てシャルルやヘルマンはもちろん、周りにいた人たちも笑顔になる。


 シャルルはそのやり取りを見て、ニーナたちとの別れにはあんなに泣いたのに……この子も成長してるんだなぁとしみじみ思う。


 そして出発のとき。


 ベーベルの配慮でシャルルたちは少しでも長くこの町を、見送る人を見ていられるようにと一番最後の馬車に乗せられる。そしてステラは馬車の荷車から、笑顔で手を振るネリーの姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り返していた。


 それからしばらく。馬車の荷車で荷物の横に座っていたシャルルの耳に、隣のステラから鼻をすするような音が聞こえてくる。


 静かだから寝ているのかと思っていたシャルルがその顔を覗き込むと――彼女は声を殺して泣いていた。


 このとき初めてシャルルはステラがネリーと別れるとき、泣き顔を見せないためにずっと泣くのを我慢していた事に気づく。


 この子はあの町ですごく成長したんだな……あの町に留まって本当に良かった……そんな事を思いつつシャルルはステラを優しく抱き寄せそっとなでた。

そこそこの長さがあった『エピソード3 辺境の町』も終了です。

今回のエピソードはいかがでしたでしょうか? 皆様のご感想を心よりお待ちしております。


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ありがとうございました。おかげさまでやる気を維持できています。


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