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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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旅立ちと、笑顔の別れ その2

 メイドと共にシャルルが応接室に行くと、昨日同様ソファにかけていた二人の男が立ち上がる。一人はもちろんこの屋敷の主人ヘルマン。そしてもう一人は濃い茶髪で短髪、筋肉質で大柄な男。


 ヘルマンは昨日と同じように軽く挨拶をしてから紹介を始める。


 昨日のクラウスとは違いこの男とは付き合いが長いのか、ヘルマンは彼に対して少し砕けた対応を見せた。


「彼は『ベルドガルト交易ギルド対外交渉担当部副部長でスバルク交易担当隊商隊長』のベーベル。こちらは臨時で街灯を灯す仕事を担当してくれている魔術師のシャルルさんだ」


「どうも、ベーベルです」


「初めまして、シャルルです」


 軽く会釈するベーベルに、シャルルは長い肩書きだなぁ……などと思いつつ軽く頭を下げる。


「とりあえず、おかけください」


 座りながらそう言うヘルマンに勧められるまま、シャルルたちもソファに腰を下ろす。そしてメイドはシャルルの前にティーカップを置くとお茶を注いだ。


 シャルルがそのお茶を少し飲みながらベーベルを見ているとヘルマンは言う。


「見事な体格でしょう。彼は元プロハンターでフォース使いの実力者なんですよ」


「元プロハンターと言ってもレベル3止まりの半端者。それに現役を退いてかなりになりますがね」


 そう言ってベーベルは苦笑する。


「ご謙遜を……」


 軽く微笑みつつ、シャルルはベーベルを観察した。


 彼はどうみても人間で、歳は40前後といったところ。


 現役を退いてかなりになるとは言うが、それなりのフォースを感じるのである程度の実力者なのは間違いない。ハンターレベルが3止まりなのは、単に4になる前に辞めたからだろう。


「謙遜するほどの実力はありませんよ。そういうシャルル殿こそかなりの実力者とお見受けするが」


 お世辞か、それとも本当に私の実力を見抜いているのか。それができるほどの実力者とまでは思えないが……そんな事を考えつつシャルルは答える。


「実力者かどうかはともかく、まあ、自分と身内を守る自信くらいはありますよ」


 それを聞きベーベルは声を上げて笑うと言った。


「はっはっは。頼もしい。いや、町長からベルドガルトまで魔術師とその家族を同行させて欲しいと頼まれ、子供も居ると聞き少し躊躇していたところでした。なにせ子供を同行させた経験などありませんからな。ですが、自身と身内を守れるというのなら問題ありません」


 保障は不要という言質を取られたという事だろうか……シャルルはそう思い苦笑したが、それでも特に問題は無い。元々そんなものを他人には期待していないのだから。


「では、ベルドガルトまで連れて行っていただけるのですか?」


「ええ、良いでしょう。あ、一応確認なのですが、シャルル殿は魔術師との事なので、道中の水と明かりを供給していただけると聞いていますが間違いありませんか?」


「そのくらいは問題ありませんが……」


 同行についての細かい条件を聞いていなかったシャルルがちらりとヘルマンを見る。すると彼は軽く頭をかきつつ言った。


「勝手に決めてしまって申し訳ない。同行についての交渉でそういう流れになりまして……シャルルさんなら問題ないだろうと思い了承しました」


「他に条件は?」


「特にありませんよ。費用に関しても町長からいただく事になっていますし」


「費用を町長から? ああ、給料と相殺という事ですか」


 納得してシャルルは頷くがヘルマンは首を振る。


「いえいえ、給料はお支払いしますよ。ベルドガルト行きの費用に関しては、まあ慰労金だとでも思ってください」


「それはありがたい」


 感謝の言葉を述べつつシャルルがヘルマンに頭を下げると、笑いながらベーベルは言う。


「まあ、その費用を大幅に抑えるため、町長から水と明かりの供給という条件提示がなされたわけなんですがね」


「これ、ベーベル。それは言わぬが花というものだろ」


 そう言うとヘルマンは苦笑した。





 隊商との同行が決まったシャルルたちは、その後も特に変わりの無い日々を過ごす。ステラは毎日ネリーと遊んでいたし、シャルルも変わらず本を読んで時間を潰していた。


 変わった事といえばステラの修練をやめて明かりやお湯などの供給を段階的に減らしていった事や、街灯を灯す仕事が完全にクラウスに引き継がれた事くらいだ。


 そしてシャルルたちがスバルクに来て14日目。明日、隊商と共にベルドガルトに向け出発するシャルルたちの送別会を兼ねた夕食は少し豪華なものとなる。


 おいしい食事にステラはご機嫌だったがネリーは少し浮かない顔をしていた。


 シャルルは食後に少し酒でも――とヘルマンたちに誘われたが、明日に備えたいからと断り風呂に入る。そして部屋に戻ると、少し早いかなと思いつつ寝る準備を始めた。


 そんな寝る前の静かな部屋に遠慮がちなノックの音が響く。


「はい? どうぞ」


 何か確認事項でも残っていたか? そんな事を考えつつシャルルがノックに答えると――そこに居たのはネリー。彼女は少し伏し目がちで言いづらそうに小さめな声で言った。


「えっと……ステラ。今日は……その、いっしょに……寝ない?」


 そんなネリーを見てシャルルは思う。


 明日でお別れだから一緒に居たいという事なのだろうが……この前、一緒に寝ようとしたときはステラが泣いたから、それで誘いづらいのだろう。


「しゃるー。すてら、ねりーといっしょにねたい」


 上目遣い気味にシャルルを見るステラ。シャルルとしては別にかまわないのだが、正直また泣かれると厄介だなとは思う。


「良いが……また泣かないか?」


 シャルルがそう尋ねると、ステラは下を向き少し沈黙したあと、真っ直ぐシャルルを見て言った。


「すてら、なかない!」


「そうか。なら良いんじゃないか?」


 そう言ってシャルルが優しく微笑むと、ステラは嬉しそうに笑う。


 そしておやすみの挨拶をしたあと、シャルルはネリーと手を繋いで部屋を出るステラを見送りつつ、それを追いかけようとしたシルフィを呼び止めこっそり言った。


「ステラが泣いたらすぐに知らせに来い」


「わっかりました、ごしゅじんさま」

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