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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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ドラゴン襲来 その1

 都市防衛法。それは大陸にあるほぼすべての都市にある法律。


 都市に危機が訪れたとき、都市の許可を得て運営しているギルドは都市を守るために協力しなければならない。


 拒否した場合は運営の許可が取り消され財産も没収されるため、協力要請という形ではあるが要請と言うよりは強制だ。


 ここで言う危機とは、獣などの襲撃、天災、他国からの侵略などがそれに当たり、各ギルドには食料や資材の優先的かつ安価での提供や人員の協力などが要請される。


 ちなみにギルド員が個別に協力を拒否した場合はギルド員資格が剥奪され、ハンターの場合はライセンスが剥奪されてしまう。


 なお、他国からの侵略に限りハンターの参加は任意となっている。


 これはハンターという職業の性質上、他国出身者がいる場合があるからだ。


 故郷の国と強制的に戦わせるとなると反発して逆に敵になる可能性があるからで、当然だが敵として侵略側で参加した場合はライセンス剥奪となる。





 薄暗い森の中、ローザを先頭に、シャルル、アルフレッドが続いて歩く。


 シャルルの装備は相変わらずだが、ローザとアルフレッドの装備は以前の質素なものとは違いプロハンターたちにも引けを取らないような良い装備だ。


 先を行くローザが少しだけ左前方向に首を向け、歩く速度を微妙に下げつつ左腕にはめた盾を胸の高さまで上げる。


 シャルルの動きは何も変わらなかったが、最後尾のアルフレッドは剣を握った右手に力を込めた。


 そして次の瞬間、左側から牙をむき出しながら飛び出したワイルドウルフの顔面を、ローザはフォースを込めた盾で殴り飛ばすように弾く。


 不意をついたつもりだったであろうワイルドウルフは逆にカウンターを食らってのけぞり、上を向いた前足の一本をローザの剣に切り落とされる。


 あまりのできごとに本能的に背を向け走り出そうとしたワイルドウルフだったが、フォースを込めた足で地を蹴ったローザは瞬時にその距離を詰め、上段に構えた剣をその背中に向けて振り下ろした。


「パワースラッシュ」


 両手と刀身にフォースを宿したその一撃は背骨を砕き、その体に深々と食い込んでワイルドウルフを絶命させる。


 ローザは刀身を引き抜いても警戒を緩めず軽く足で小突いてその命が尽きた事を確認し、アルフレッドが傍らに来るのを待ってワイルドウルフの耳を切り取った。


「よし、オッケーだ」


 シャルルの言葉にほっとした表情を見せる二人だったが、次の言葉でまた表情を引き締める。


「まだ、森の中だぞ」


「おっと。そうだな」


「そうね」




 ギルドの受付でパメラは大きなため息をつきながら言う。


「はぁ~残念ですぅ」


 シャルルがパーティを抜ける。それを最も残念がったのは無関係なはずのパメラだった。


 いずれはとは聞いていたが、その日が現実になるとやはり残念でならない。


「いやいや、これ以上迷惑かけられないし」


「むしろ三ヶ月も付き合ってくれて感謝してるわ」


 カウンター前のアルフレッドとローザは苦笑し、シャルルは少しばつの悪そうな顔をする。


「私も二人には感謝してるし、そう言ってもらえるとありがたい」


 確かにパーティを組んだ日『とりあえず、しばらくの間』とは言ったが、それは二人に断られないための方便だった。


 だが、シャルルは彼らと組んでみてわかった事がある。


 パーティを組んで敵を倒しまくれば仲間も経験値が貯まってレベルがどんどん上がるのでは?


 ゲーム的要素があるここならもしかしたら……と思ったがそんな事はなく、一ヶ月程度シャルルが敵を倒しまくり二人はその補助という形を取ったがレベルはまったく上がらなかった。


 ちなみにこのときほぼいるだけ状態だった二人は、ほとんど何もしてないから……と報酬の分配を拒否。


 これは普通に言っても受け取ってもらえそうにないと思ったシャルルは「後で私が楽になるための投資だ」と、その金で新しい装備を買わせた。


 もしや本人が戦わなければ経験値が貯まらないのでは?


 そう思い二ヶ月目は逆に補助役となり、シャルルは二人に戦い方を指導しながらやった。


 もちろん現実の彼には戦いの経験など無いのだが、ここではアナザーワールド2での経験、つまりプレイヤースキルがそのままシャルルの戦闘技術に変換されているらしい。


 ベータテストからの古参プレイヤーであるシャルルのプレイヤースキルは、トップクラスとはいえないまでもかなり上位。つまりシャルルはただ能力が高いだけでなく、高い戦闘技術も持っている。


 基本能力以外の経験や戦闘技術が戦いにとって重要なのはこの世界の住人も同じで、二ヶ月目も二人のレベルは上がらなかったが明らかに強くはなった。


 だが、それは無駄がなくなり本来の能力を発揮できるようになったに過ぎず、結局レベルの低い二人はやはりシャルルにとって足かせとなる。


 シャルルは強いが他人を守るのが得意なわけではない。


 したがって強い害獣を狩ろうとすると二人を命の危険にさらす事になり、彼らの安全を考えると弱い害獣を効率悪く狩る事になる。


 更に二人はこの世界の住人とはいえ国にも属していないような辺境の村出身で、ハンターとしての経験も浅くプロハンターと組んだ事がない事もあり知識も乏しい。


 この二ヶ月の間、自分でも色々調べ二人からも色々聞いた事で、もはやシャルルが彼らから得られるような知識はほぼなくなっていた。


 ガンガン狩ってガンガン稼ぎ、家を買ってメイドを雇ったりしたい。


 そんな事を考えていたシャルルはこのまま二人と組んでいても埒が明かないと思い、一ヶ月前、ソロやほかのパーティのサポートメンバーなどをしたいという事を伝え、明らかにシャルルに負担をかけている自覚のあった二人は快く承諾した。


 とはいえシャルルもいきなり放り出すような事はせず、一ヶ月間、二人をみっちり鍛え上げ、シャルルがいなくても余裕でやっていけるように指導してきた。


 そして今日はその最終試験。ソロで戦えるかどうかを見てきたところだ。


 ちょうどシャルルと初めて会った日に苦戦していたワイルドウルフを、ローザがソロであっさり片付けたのはなんとも感慨深いものがある。


 しょんぼりしながらパメラが言う。


「じゃあ、パーティ登録も解除しておきますか?」



 パーティ登録。ギルドに申請しておくと、依頼を受けるときなどの手間を省いたりできる。必須ではない。



「あーどうする?」


 アルフレッドの問いに、シャルルは少し考えるような仕草をしてから言った。


「とりあえずはそのままで」


「ではそうしておきますね」


 二人とはこれっきりというわけではない。害獣狩りや依頼でサポートが必要なときは優先的に協力するという約束をしている。


 今後もその枠組みを使う事があるであろう事を考えると、シャルルか彼らが別の人と固定パーティを組むまではそのままが良いだろう。


 こうして登録はそのままだが、シャルルはアルフレッドたちのパーティを抜けた。

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