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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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ベルドガルトからの来訪者 その1

 スバルクに来て10日目の午前。シャルルは朝食のあと、鍛錬を終えたステラにいつも通り部屋で勉強をさせていた。


 ベッドに腰掛け隣に座るステラにシャルルは聞く。


「じゃあ問題。竜狩りの魔導師はどんな人?」


「えっとね、えっとね。えーゆーでー、まどーてーこくをつくったえらいひと!」


「……そうだな。ちゃんと覚えて偉いぞ」


「えへへ」」


 ステラをなでつつ、こりゃまたずいぶんざっくりと覚えてるなぁ……とシャルルは思う。


 とはいえ、まあ子供だしとりあえずはこれで良いか……と軽く頷き次の問題を出す事にした。


「それじゃあ次は――」


 そのときノックの音が響く。


 もう昼食か? シャルルは一瞬そう思うが、棚の時計が示す時刻はまだ10時半を少し回った程度。なので昼食の知らせとは考えられない。


 いったい誰が何の用だろう? 首をかしげつつノックに答える。


「どうぞ」


「失礼します」


 返事と共にドアが開く。そして、そこに立っていたメイドは一礼すると言った。


「シャルルさんにご紹介したい方がいらしているとの事で旦那様がお呼びです。応接室までお越しいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「紹介したい方?」


 シャルルが首をかしげると、メイドも軽く首をかしげながら言う。


「詳しくは知らないんですけど……『ベルドガルト』からいらしたとか」


「ん?」


 どこかで聞いたような……そう思いシャルルは記憶を探る。


 小都市ベルドガルト。それは辺境の町スバルクにとって最寄の都市であり最大の交易相手。シャルルはこの町に来てすぐ、町長のヘルマンにそこから来た魔術師と間違われている。


 そしてそこから定期的に来る隊商が帰るときに同行させてもらうための実績――と言うか信用を作るため、街灯を灯す仕事を請け負ったのだ。


 思い出したシャルルは、ようやく隊商が来たか……と思い頷く。


「わかりました。すぐ伺います」


「すてらも!」


 返事をしつつシャルルが立ち上がると、ステラもそう言ってひょいっと座っていたベッドから降りる。が――


「お前はここで本でも読んでなさい」


 そう言ってシャルルはステラを持ち上げ再びベッドに座らせた。


「えー、すてらもー。すてらもいきたいー」


「大人の話をするからつまらないぞ?」


「いきたい、いきたい、いきたい」


 シャルルが顔をしかめつつメイドをちらりと見ると、彼女は黙って首を振る。 やはり連れて行ったら邪魔だという事だろう。


 もので釣るのは教育上良くないかもしれないが……仕方あるまい。


 シャルルはステラの目線までかがむと言った。


「良い子でお留守番できたら、あとでジュースを買ってやろう」


「ほんと!?」


 ジュースと聞いて目を輝かせるステラ。シャルルは現金なやつだなぁと苦笑しつつ頷く。


「ああ、本当だ」


「じゃー、すてらおるすばんする!」


「良い子だ。なら、これを読みながら静かに待ってるんだぞ」


「はーい」


 本を渡すとステラは元気良く返事してそれを受け取る。そして彼女が本を開くのを見るとシャルルはシルフィに言った。


「ステラがちゃんと本を読んでいたかあとで教えてくれ」


「おまかせください、ごしゅじんさま」


 任務をもらって嬉しそうなシルフィにシャルルは少し微笑む。


「じゃ、行って来る」


「いってらっしゃーい」


「いってらっしゃいませ~」


 そして手を振る二人に軽く手を振り返し、シャルルはメイドと共に応接室へ向かった。




 応接室に到着すると、まずはメイドが扉をノックする。


「どうぞ」


 入室の許可が下りるとメイドは扉を開け先に入り言った。


「旦那様、シャルルさんをお連れしました」


「ああ、ご苦労さん。お通ししてくれ」


「はい。では、中へどうぞ」


「どうも」


 メイドに促されシャルルが入室すると、ソファに座っていた二人の男が立ち上がる。一人は屋敷の主人へルマン。そしてもう一人は白髪交じりの年配の男だ。


 ヘルマンは頭を下げつつ言う。


「お呼び立てして申し訳ない」


「いえ」


 シャルルがそう答えるとヘルマンは紹介を始めた。


「では早速ですが――こちら魔術師のクラウスさん。シャルルさんの後任として街灯を灯す仕事をしてくださる方です。そして、こちらは今まで臨時でその仕事をしてくださっていたシャルルさんです」


 紹介を受け二人は互いに頭を下げる。


「どうも、クラウスです」


「初めまして、シャルルです」


「まあ、おかけください」


 ヘルマンはソファに座りつつ二人にも座るように促す。そしてソファに腰掛けたシャルルはとりあえず後任となる人物クラウスを観察した。


 見た目からして種族は人間。物腰から性格は柔和な感じに見える。年齢は60代半ばといったところだろうか。弱いが魔法的な力を感じるので魔術師というのは間違いないだろう。


「クラウスさんは今朝到着した隊商と共にベルドガルトからいらしたんですよ」


「へぇ、隊商と。長旅お疲れ様です」


「ははは。若くはないし旅慣れしているわけでもないので確かに疲れましたよ」


 そんな会話をしつつ、やはり隊商は来ているのか……とシャルルは思う。


「町長。隊商が来てるなら同行についての交渉をしたい。会えないだろうか?」


「先ほども申し上げた通り隊商は今朝到着したばかり。今は色々と立て込んでいます。後日必ずお引き合わせ致しますゆえ、少々お時間をいただきたい」


 何事も早めに済ませた方が良いが――相手の都合というものもある。それを無視しては交渉もうまく行かないだろう。


 隊商が帰るまでに交渉の機会があれば良いのだから、後日時間を取ってもらえるのなら問題ない。


「わかりました」


「それから――」


 ヘルマンはちらりとクラウスを見てから続ける。


「隊商が来ているので私はしばらくそちらに関する仕事をしなければなりません。なのでシャルルさんにはクラウスさんへ仕事の説明、引継ぎなどをお願いしたいのですが……よろしいでしょうか?」


 なるほど。それで私を彼と引き合わせたというわけか。


 シャルルは納得しつつ頷く。


「ええ、かまいませんよ」


「よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


 頭を下げるクラウスにシャルルも軽く頭を下げる。


 そして、やはり何事も早めが良いという事で、早速今日の街灯点灯にクラウスが同行する事になった。

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