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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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おねえちゃん その5

 シルフィが野犬を追い払う少し前。メイドからステラたちが農業地区に向かったらしい事を聞いたシャルルは、そこで先行していたテレーゼたちと合流した。


 農業地区はその大半を果樹園が占めるが他に畑や牧場もある。現在シャルルたちがいる居住地区寄りの場所はそのほとんどが畑だ。


 その畑が広がる農道を、シャルルたちは子供たちの名前を呼びながら歩く。


「ネリー、プリムー、ステラちゃーん、シルフィちゃーん」


「お嬢様~、ステラちゃーん、プリムちゃーん、シルフィちゃーん」


「ステラー、シルフィー、ネリー、プリムー」


 目撃情報によるとネリーともう一人、同じくらいの女の子、そして風のエレメンタルの合計三人が農業地区の方に向かって歩いていたらしい。


 それを踏まえてシャルルは考える。


 もう一人の女の子はステラだろう。だとするとシルフィが彼女から勝手に離れるとは考えづらい。という事は一緒に居た風のエレメンタルはプリムではなくシルフィという事になる。


 ここから推察するに、何らかの事情でプリムが外に出て、それを追いかけたか探しに出かけたといった感じなのではないだろうか。


 風のエレメンタルは大森林に生息していると聞くし、レティも森で暮らしていたような事を言っていた。


 なので風のエレメンタルが向かう先といえばやはり――


「森か?」


「森?」


 誰に話したつもりもないつぶやきをテレーゼに聞き返され、少し戸惑いつつシャルルは答える。


「あ、いや……プリムは森とか好きなんじゃないですか?」


「え、ええ。木がいっぱいあると落ち着くと聞いた事はありますけど……」


「なるほど」


 となるとやはり森が怪しい。そしてこの町の中において森と呼べるような場所。それは今まさに目の前に広がる果樹園だ。予想が正しければあそこにいる可能性が高いだろう。


 そう考えシャルルは果樹園に向かう事を決める。


 そしてしばらく進むと果樹園に行くまでもなく、こっちに向かってくる小さな影たちが手を振ってきた。


「しゃるー!」


「ごしゅじんさまー」


「おかーさまー」


「テレーゼー」


 ネリーとプリムはテレーゼに、ステラとシルフィはシャルルのもとに駆け寄る。


 そしてシャルルが駆け寄ってきたステラを抱きとめ無事だった事に安堵していると、彼女はシャルルに向かって興奮気味に話した。


「しるふぃがね。すごいの! いぬがうーってね。でも、しるふぃがばーんっておいはらってくれたの!」


「そうか」


 なんとなく理解したシャルルはシルフィをなでる。


「良くステラを守ってくれた。ありがとう」


 なでられたシルフィは、嬉し恥ずかしといった感じで照れつつ言う。


「わたしはごしゅじんさまにステラの護衛をまかされてますから。いちのこぶんとして当然の事をしたまでです」


 それを見てステラも嬉しそうに笑う。


 その隣ではテレーゼがネリーとプリムを叱っていた。


「勝手に家を出ては駄目でしょ」


「うん……ごめんなさい」


「ごめんなさい」


 その様子を見てうちもちゃんと叱っておいた方が良いなと思ったシャルルは、真剣な眼差しでステラとシルフィを見て言う。


「庭を出てはいけないと言ったよな」


 するとシルフィはすぐに謝罪を口にするが、ステラは言い訳を始めた。


「ごめんなさい。言いつけを守れませんでした」


「だってねりーが……」


 そんなステラにため息をつきつつシャルルは言う。


「『ごめんなさい』は?」


「だって――」


 言い訳を続けようとするステラ。それにかぶせるようにシャルルは言った。


「約束を破ったらまずは『ごめんなさい』だ。もちろん約束を破る事になったのにも理由はあるだろう。だけど私だって意味もなく庭から出るなと言ったわけじゃないんだ。外には危険がいっぱいあって、そばにいなければ私もお前を守れない。今日はシルフィが守ってくれたから良かったけど、次も守れるとは限らないぞ」


「うん……」


 シャルルはあまりステラをきつく叱らない。それは別に甘やかしているというわけではなく、いつもそばにいるので大事になる前に注意できるからだ。


 シャルルに嫌われてしまう。そう思ったステラはしょんぼりしてぼそりと謝る。


「……ごめんなさい」


「私は意地悪で言ってるんじゃないぞ。ステラが大切だから言ってるんだ。だから……あまり心配させないでおくれ」


 そう言うとシャルルは優しくステラを抱きしめた。


 シャルルの優しさ、自分を大切に思ってくれるその思いを感じたステラは大粒の涙を流すと声を上げて泣く。


「ごえ、ごえんなさい。ごえんなさい」


 そして彼らのすぐ横ではテレーゼも、同じく声を上げて泣くネリーとプリムを抱きしめていた。

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