おねえちゃん その3
ティータイムの食堂。紅茶を飲みながら食堂の入り口を見ていたシャルルは懐から懐中時計を取り出し確認する。
時刻は午後3時半少し過ぎ。いつもならとっくにステラたちが食堂でおやつを食べている時間だ。
妙だな……そう思ったシャルルは手を挙げメイドを呼ぶ。
「あの、すみません」
「はーい」
それに反応し、すぐに近づいてきたメイドはシャルルに聞く。
「お茶のお代わりですか?」
「あ、いや。珍しくステラたちがまだ来てないんだが……見かけませんでしたか?」
「ちょっと前に庭でボール遊びをしていたのは見かけましたけど……呼んで来ましょうか?」
「ええ、もうすぐ街灯を灯しに行く時間なので、すみませんがお願いします」
そして、しばらくするとメイドがあわてて戻ってきた。
「大変です! 庭にも、部屋にも、お嬢様もプリムちゃんも、ステラちゃんも、シルフィちゃんも……みんないません!」
それを聞き食堂内が騒然となる。と言っても、食堂に居るのはシャルル、メイド、テレーゼ、そしてヘルマンの妻の合計4人だけだが。
「ネリーたちがいなくなったですって!?」
「おや、まあ……」
「私、旦那様と先輩にも知らせてきます」
「あ、ああ」
メイドの発言に、もう一人のメイドってどう見ても中年だし、やはりあの人の方が先輩なのか……などとシャルルは思う。
そしてメイドが呼んできたヘルマンともう一人のメイドも合流し、現在屋敷にいる全員で手分けして子供たちを探す事になった。
シャルルはメイドの一人と共に庭を、他の者は屋敷内をくまなく探す。
だが、風呂やトイレも含めた屋敷内のすべてを確認し、庭はもちろん庭にある小屋の中も探したが子供たちは見つからなかった。
全員が再び食堂に集まり相談する。
「これだけ探していないとなると、外に出たんじゃ……」
「かもしれんな」
テレーゼの発言にヘルマンが同意すると、そこにいる全員が顔を見合わせつつ軽く頷く。
時刻は既に午後4時を過ぎ、これからだんだん暗くなる時間。そしてシャルルは街灯を灯しに行かなければならない時間だ。
「暗くなる前に見つけてあげないと……」
「そうねぇ」
「では、手分けして外を探しましょう」
そしてテレーゼとメイドたちは住宅街を、シャルルは街灯を灯しつつ商店街を探し、ヘルマン夫婦は何らかの見落としで子供たちが屋敷にいる可能性や戻ってくる可能性を考え待機する事に決まった。
シャルルは急ぎ足ですばやく街灯を灯して回りつつ、道行く人に聞いて回る。 だが一向に手がかりはつかめない。
そんな状況に彼はあせり、苛立ち始めていた。
くそっ、何か連絡を取る手段はないのか?
この世界に来る前は、現実では携帯電話、ゲームには一対一のチャットなど、離れた場所にいる相手と連絡を取る手段があった。だがここにそんな便利なものは無い。
会話する手段は無いが――
そうだ、シルフィを呼び戻せば……そこまで考えシャルルは首を振る。
課金ペットの精霊であるシルフィ。彼女はエレメンタルリングから出したり、そこに戻したりする事ができる。それにかかる時間は一瞬で、ゲームではどんなに離れていても戻す事ができた。
長距離で試した事は無いものの、ここでも一瞬で出し入れできる事は確認済み。挙動はゲームとほぼ同じだったので、距離も恐らく問題ないだろう。
シルフィはたぶんステラと一緒にいる。だから一度戻して召喚しなおせば、ステラたちの居場所を聞く事ができるはずだ。
だが――もし、今まさに何かが起きていてシルフィがステラたちを守る行動を取っていた場合、戻してその場から消えると大変な事になる。現在どういう状況かわからない以上、うかつにそれをやるのは危険だ。
となるとこれは最終手段。手詰まりになるまでやるべきではない。
結局シャルルは有力な情報を得る事も無く、商店街の街灯を灯し終え住宅街に戻る。するとテレーゼたちと住宅街を探していたはずのメイドの一人が屋敷の前にいた。
彼女はシャルルを見ると手を振る。
見つかったのか? そう思ったシャルルが急いでメイドのもとへ行くと彼女は言った。
「シャルルさん。お嬢様たちが農業地区の方に行くのを見た人がいたんです。若奥様と先輩はそちらに向かいました」
どうやら彼女はそれをシャルルに伝えるためにここで待っていたらしい。
「わかった、すぐ向かう」