表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
115/227

おねえちゃん その2

 外に出たプリムはブツブツと文句を言いつつ大通りを進む。


「ネリーのばか。わたしが本当に森にかえっちゃったらどうせ泣いちゃうくせに」


 風のエレメンタルが主に大陸南部にある大森林に生息している事は有名であり、北部でも極まれにだが森で暮らしている場合もある。


 だからこそプリムに対しても『森に帰る』といった類の言葉が出るのだが、プリムは人里で生まれ育ったため森で暮らした事は一度も無い。


 だが、そんなプリムでも森や林のような木の多い場所に行くと、なんとなく帰って来たという感じがして落ち着くのも事実。それはたぶん種族的な本能によるものなのだろう。


 そしてプリムはその本能に導かれるように農業地区にある森(のような果樹園)に向かい、そこで寝るのに丁度良さげな葉の密集した枝に寝転がるとつぶやいた。


「ふーんだ。ネリーが謝るまで帰ってあげないんだから」


 そして、いつの間にか眠ってしまった彼女は夢を見る。


 それは遠い昔の記憶――



「ねえ、プリム。この子のお姉ちゃんになってあげてね」


 それはネリーの母、テレーゼと初めて会った日。彼女の母に言われた言葉だ。


「うん、まかせて」


 その日、プリムはその赤ちゃんを姉として守って行くと決める。


 それからプリムは赤ん坊のテレーゼと過ごし、幼児のテレーゼと過ごし、子供のテレーゼと過ごし、だんだん自分より大人になって行くテレーゼと過ごし……テレーゼは結婚しネリーが生まれた。


 そしてプリムがネリーと初めて会った日。テレーゼが言った言葉は彼女の母が言ったのと同じだった。


「ねえ、プリム。私にそうしてくれたように、この子のお姉ちゃんになってあげてね。私とそうだったように喧嘩したりもすると思うけど……家族としてこの子を愛してあげてね」


「うん、まかせて」


 そしてプリムは誓う。テレーゼにそうしてきたように、今度はネリーを姉として守っていこうと。


 はっとしてプリムは目を覚ます。


 そうだ。わたしはネリーのおねえちゃんでかぞく……おねえちゃんなんだからあの子をゆるしてあげないと。


 夢のおかげで初心を思い出したプリムは軽く頷くと、ネリーのもとへ戻る事を決める。


 でも、ネリーがあやまらなかったらテレーゼにいいつけちゃおっと。


 そんな事を考えいたずらっぽく笑い、そして帰ろうと木の枝から飛び立とうとするが……木の下には彼女をにらみうなる野犬がいた。





 時刻は午後3時過ぎ。時計を持ち歩いていないネリーたちに正確な時間はわからない。だが、おやつの時間は腹時計だったり、厨房から流れてくる甘い香りなどでなんとなくわかる。


「そろそろおやつの時間ね……」


 ネリーはそうつぶやくが、その視線はおやつのある食堂ではなくプリムが出て行った屋敷の外に向いていた。


 どうせおやつには帰ってくる――プリムが出て行ったときにネリーがそう言ったのは、一緒におやつを食べれば些細な事など忘れ仲直りできるだろうと思っての事。だが、戻ってこなければ一緒におやつを食べる事もできない。


「ぷりむ……かえってこないね」


「おやつでも食べてればそのうち帰ってくるわよ」


 ステラは心配そうにネリーを見るが、シルフィは興味無さそうな感じで食堂へ行こうと促す。


 シルフィの態度は少し薄情ではあるがそれは仕方ない。なぜなら彼女とプリムはステラとネリーと違い、特に仲良しになったわけではないからだ。


 一緒に遊んでいるのもお互いステラやネリーがいるからで、二人の関係は友達ではなく知り合いと言った方が正しい。


 だが、ネリーにとってプリムは生まれたときから一緒の時間を過ごしてきた家族。それを放っておいておやつを食べになど行けるはずもない。


「わたし、プリムさがしてくる!」


 そう言うとネリーは門の外に駆け出し、それを見てステラは追いかけて行く。


「まって~」


「あっ……もー!」


 門から大通りに出て行くネリーとそれを追いかけるステラ。あわてたシルフィは止めるタイミングを逃す。


 戻ってシャルルに報告すべきか、それともステラについて行くべきか……どうして良いかわからないシルフィは、とりあえずついて行く事にした。


 そして――


「プリムー」


「ぷりむー」


「プリムー」


 三人はプリムの名前を呼びながら住宅街の大通りを歩く。


 戻るように説得するよりさっさと見つけた方が早そうだと考えたシルフィも、能力を使ってプリムらしき者がいないか探す。


 だが、近くにはいないらしくなかなか見つからない。


「プリム~、プリム~」


 歩みを進めその名を呼ぶたびにネリーの声は震えていき、目には涙がたまってくる。


 その様子を見てステラもおろおろし始め、泣き出すのは時間の問題といった感じになって行く。


「しるふぃ……」


 懇願するような表情でステラはシルフィを見るが、シルフィにはどうする事もできない。できる事はすでにやっているのだ。


 ため息交じりにシルフィはつぶやく。


「まったく……プリムはどこいったのかしら」


 シルフィのつぶやきと、遠くに見える森(のような果樹園)、そしてプリムに言った『森にかえっちゃえ』という言葉。この三つがネリーの中で一つに繋がる。


「森かも……」


「森って?」


 シルフィが聞き返すとネリーは農業地区の果樹園を指差す。


「あー、あそこか。たしかに森っぽいわね」


「じゃー、いってみよー」


 ステラがそう言うと、ネリーも頷き果樹園に向かう。


 そして果樹園に到着したネリーたちはプリムを探し始めた。


 ここには今、高度な捜索能力を持つシルフィがいる。なのでプリムはあっさり見つかるのだが――そこにはプリムだけでなく、木の上にいる彼女をにらみうなる野犬もいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ