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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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親離れ、子離れ その2

 屋敷にはたくさんの部屋があるが、どの部屋もだいたい同じような作りになっている。広さはだいたい十畳ほどで、窓は採光用のはめ殺しガラス窓とガラスのついていない木の窓だ。


 だが、置いてある家具などで部屋の雰囲気はだいぶ変わる。


 例えばシャルルたちの部屋は客用の部屋なので家具はシンプルなものが多い。それに比べネリーの部屋は広さや窓は同じでも、やはり子供、それも女の子らしい感じの部屋だ。


 置いてある家具はベッド、勉強机、本棚、クローゼット、そして棚。ベッドには小さい棚がついていて、そこには時計とこの部屋の光源である魔法道具、魔法灯が置いてある。


 勉強机にはノートや筆記用具、そして教科書のようなものが置いてあり、本棚には絵本や子供向けの本が並ぶ。クローゼットは何の変哲も無いものだが、この部屋の一番の特徴は棚だろう。


 そこにはところ狭しとぬいぐるみと人形が並べられ、置ききれない分は重ねられている。


 そんな部屋にステラたちを伴い戻ってきたネリーは、一足先に部屋に入るとベッドの棚にある魔法灯のスイッチを入れた。


 そして部屋の入り口に向き直ると、満面の笑顔でステラたちに向かって言う。


「いらっしゃーい」


「おじゃましまーす」


「おじゃまします」


 部屋に入るとステラは中を見回す。


 別に初めて入る場所ではない。ネリーと家の中で遊ぶときはだいたいここだ。


 だが夜に入るのは初めてで、部屋を照らす魔法灯の雰囲気になんとなく興奮して声を上げる。


「おおー」


 魔法灯。魔法道具であるこれはオイルランプなどとは違い十分な光量があるので明るく、そしてつけたり消したりが容易な便利な道具だ。


 しかし燃費が悪いため、この屋敷でそれを使っている場所は少ない。


 屋敷の中で魔法灯を使っている場所は、広いので光量が欲しい食堂と応接室、つけたり消したりを短時間にするトイレ、火が使いづらい風呂、そしてこの部屋だけ。(今はステラやシャルルがライトの魔術を付与しているので、トイレと風呂では使っていないが)


 他の部屋では基本的にオイルランプを使い、魔法灯は特に必要なときにしか使わない。ちなみにネリーの部屋が魔法灯なのは、単に子供に火を扱わせるのは危ないとの考えからだ。


 部屋に入ったネリーはベッドに腰掛けるとステラに聞く。


「じゃあ、なにしてあそぶ?」


 その言葉にステラは不思議そうに首をかしげ聞き返す。


「あそぶの?」


 すると今度はネリーが不思議そうに首をかしげる。


「え? もうねむい?」


「んーん」


 首を振るステラ。


「じゃ、あそびましょ」


 ネリーはそう言うが、ステラは困ったような表情で言う。


「でも……しゃるーがよふかししちゃだめって……」


「まだそんなにおそくないからだいじょうぶよ。シルフィもそう思うでしょ?」


「んー、そうね。ごしゅじんさまは『あんまり』夜ふかしするなって言ってたから、ちょっとなら良いんじゃない?」


「おおー」


 シルフィの言葉にステラは『なるほど』といった感じで嬉しそうに声を上げる。そして四人は一緒に絵本を読んだりトランプをしたりして楽しいときを過ごした。


「ほら、ステラの番よ」


「ほぇ?」


 ババ抜きをしていたステラはネリーの問いかけに妙な言葉で返事をすると、その手に持っていたカードを落としてしまう。


「んもー」


 シルフィがカードを拾いステラに渡そうとするが、彼女はふらふらと揺れていてとても持てそうにない。そんなステラを見てあくびをしながらネリーは言った。


「ふぁ――わたしも、もう眠いかも」


 ふらふらだったステラはシルフィが運び、四人ともベッドに横になるとネリーは手を伸ばしてベッドの棚にある魔法灯を消す。


「……おやすみ」


「おやすみ」


「おやすみ」


 既に寝ているステラを除く三人は寝る前の挨拶をし、程なくして寝息を立て始める。そして――四人ともぐっすり眠っていると、静かに部屋の扉が開いた。


 そこにいたのは様子を見に来たネリーの母、テレーゼ。気配に気づいたシルフィは、目を覚ますと警戒しつつテレーゼの行動を見張る。


 テレーゼは光量を抑え淡い光を放つ魔法灯でネリーたちを照らし、ぐっすり眠っているのを確認する(シルフィは寝た振りだが)と微笑む。


「ふふ、おやすみなさい」


 彼女は小声でそう言うと、静かに部屋をあとにする。


 そしてテレーゼの気配が遠ざかると、シルフィは安心して再び眠りについた。




 テレーゼが様子を見に来てから少し時間が経ち、既に夜中と言って良い時間。尿意に目を覚ましたステラは半身を起こすと寝ぼけ眼で口を開いた。


「しゃるー……おしっこ」


 だが、いつもならすぐにあるはずの返事が無い。


 当然だ。ここは三階にあるネリーの部屋。いかにシャルルといえど、二階の部屋にいる以上、返事ができるはずがない。


 だが、寝ぼけているステラは再び彼を呼ぶ。


「……しゃるー?」


「んー?」


 ステラの動きに目を覚ましたネリーは、彼女がシャルルを呼ぶのを聞き言う。


「ふぁ……シャルルさんはいないわ……」


「しゃるー……いない?」


 ステラは遺跡で目を覚ましてから今まで寝起きにシャルルが居ないという経験が無い。彼女にとっては目を覚ましたときに呼べば返事が来るのが当たり前であり、返事が返ってこないのは非常事態だ。


 シャルルがすぐそばにいない。この事実はマリオンの部下に連行されたときの事を思い出させ、ステラの中で恐怖心がどんどん膨らんで行く。


 そして、ついにはもう二度とシャルルに会えないのではないかとさえ思い始め、怖くて、悲しくて、寂しくて――ステラはシャルルを呼びながら声を上げて泣き始めた。


「うぁーん! しゃるー! しゃるー! しゃるー!」


 急に泣き始めたステラに驚いたネリーは、ベッドの棚に手を伸ばして魔法灯をつける。


 そしてステラを優しく抱きしめ慰めようとするが――


「だいじょうぶ、だいじょうぶだから……」


「しゃるー! うぁーん! しゃるー!」


 ただひたすらに声をあげ、ステラは泣き続けた。


 どうして良いかわからず涙目のネリー。騒ぎに目を覚ましたプリムも困り果て、いつの間にか起きていたシルフィに尋ねる。


「あわわ、ど、どうしよう?」


「わたし、ごしゅじんさま呼んでくる」


 シルフィの言葉に、そうか、大人を呼べば良いんだとプリムは気づく。


「じゃ、じゃー、わたしはテレーゼを呼んでくるわ」

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