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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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親離れ、子離れ その1

 スバルクに来る前はシャルルと一日中一緒にいたステラ。今は昼食後の数時間だけではあるが、ネリーと遊んでいるためその間は一緒にいない。


 今日もステラと共に街灯を灯して回っていたシャルルは、いつも通り昼間ネリーと何をして遊んでいたのかを語る彼女の言葉に耳を傾けていた。


 話の内容はどうという事もない。お人形で遊んだとかゲームをしただとか、そんなたあいもない話。だが、いつもステラはネリーと遊ぶのが楽しくて仕方がないというふうに話す。


 シャルルもそれはとても良い事だとは思うのだが――楽しそうにネリーの事を話すステラを見ていると、なんだか彼女にとっての一番の座をネリーに取られたような気分になる。


 もちろん家族と友達は別のカテゴリで、それは好きな音楽と好きな本のようにまったく別のもの。ステラにとってネリーが一番の友達だとしても、彼女にとってシャルルが大切な家族である事に変わりは無い。


 だが、それでもなんとなく面白くないとシャルルは感じてしまう。


 そんな嫉妬のような感情を抱く自分に苦笑し、こんなにも自分の中でステラの存在が大きくなっていたんだなぁと彼はしみじみ思う。




 街灯を灯し終え屋敷に戻ると、いつも通り玄関でネリーとプリムがシャルルたちを出迎える。そしてステラはシルフィを連れネリーたちと共に屋敷中の明かりを灯しに行き、シャルルは一度部屋に戻って身支度を整えてから食堂に向かう。


 この屋敷の食事は特別な事情が無い限り全員そろうまで始まらない。なので夕食も全員そろうまで待つのだが、基本的に最後に食堂に来るのは屋敷の明かりを灯してから来るステラたちだ。


 彼女たちが席に着くと夕食が始まり、それが終わると風呂の時間になる。


 今日もつつがなくすべての事が無事進み、そして風呂に入ったシャルルたちは狭い湯船にみんなで浸かっていた。


「じゅーはち……じゅーく……」


 浸かる時間を数えるステラの声を聞きながら、今日はもうやる事も無いし、あとはステラを寝かしつけるだけか……そんな事をシャルルはぼんやりと考える。


 そしてステラの数える数がつっかえ始めた頃、彼の頭に乗っていたシルフィが何かを思い出したように口を開いた。


「ろくじゅ……えっと、ろくじゅ――」


「あ、ステラ。あのことごしゅじんさまに聞かないの?」


「ろく……あのこと?」


 覚えが無いといった感じでステラは首をかしげるが――


「ほら、明かりつけてたときにネリーが……」


 そこまで聞いて思い出したステラはシルフィの言葉をさえぎって言う。


「あ、そーだ。しゃるー。ねりーがね、きょーいっしょにねよーって。いーい?」


「それはネリーの部屋でか?」


「うん」


 シャルルが尋ねるとステラは頷く。


「シルフィも一緒か?」


「うん」


「うん」


 再び尋ねると、今度はステラだけでなくシルフィも一緒に頷いた。


 それを見てシャルルは少し考える。


 階は違うが同じ屋敷内だし今日までの暮らしを考えれば特に危険があるとは考えられない。シルフィも一緒ならまったく問題ないと言って良いだろう。


「まあ、それならいいぞ」


「やったー」


「こら、暴れるな」


 狭い湯船で両手を上げて喜ぶステラを注意しつつシャルルは思う。


 しかし……ついに寝るときもか。


 あれだけいつも一緒に寝たいと言っていたステラが別の部屋で寝る。これはいわゆる親離れというやつだろうか……そんな事を考え少しの寂しさを感じつつも、これが成長というものなのだろうとシャルルは思う。


 そして風呂から上がり部屋に戻ってしばらくするとドアがノックされた。




 迎えに来たネリーたちと共に部屋を出るステラ。ただ寝るだけだというのにわくわくが止まらないといった感じだ。


「じゃ、しゃるー、いってくるねー」


 そう言うと、廊下まで見送りに来たシャルルにぶんぶん手を振る。それに軽く手を振り返しながらシャルルは言った。


「ああ。あまり夜更かしするなよ。シルフィ、何かあったらすぐ知らせに来い」


「うんっ」


「はーい」


 ステラとシルフィは元気良く返事する。


「それじゃ、シャルルさん。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


「ごしゅじんさま、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 みんながおやすみの挨拶をすると、ステラは何かを思い出したようにシャルルのもとへてくてくと駆け寄ってきた。


「ん? どうした?」


「しゃるー、ちゅー」


「ああ……」


 すぐ寝るわけじゃないから忘れていたが、そういえば寝る前にはキスをするんだったな。


 思い出したシャルルはステラの目線までかがみ、彼女のおでこにキスをする。するとステラはにっこり笑い、お返しとばかりにシャルルの頬にキスをした。


「おやすみ、ステラ」


「おやすみ、しゃるー」


 ステラは再びぶんぶんと手を振りシャルルも軽く手を振り返えす。


 そしてステラたちが階段の方に消えるまで見送った。


 部屋に戻ったシャルルはイスに腰掛けると読みかけの本を開く。


 この時間帯はいつもステラの相手をしているのだが、今は居ないのでシャルルの自由な時間だ。


 今夜はゆっくり過ごせるし、良く眠れそうだな。


 本のページをめくりつつそんな事を考えていたシャルルだったが、おもむろに本を閉じると天井を見てつぶやいた。


「静かだな……」

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