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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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スバルクでの生活 その4

 ティータイムでありおやつの時間でもある午後3時。この屋敷では、その時間に食堂に行くと紅茶とお茶請けのお菓子が振舞われる。


 ちなみに昼食とは違いメイドが呼びに来たりはしないので、そのくらいの時間に自分で行く必要があり行かなければ無しだ。


 ネリーとステラは屋敷の中にいればほぼ3時丁度、外に居ても時計を持っているわけでもないのに3時半までには食堂に来る。恐らく体内時計というか、腹時計みたいなものがおやつの時間を知らせるのだろう。


 今日もシャルルが紅茶を飲みつつお茶請けのスコーンを食していると、3時ちょっと過ぎの食堂にステラたちがやって来た。


「あ、しゃるー!」


 シャルルを見つけ駆け出すステラ。シャルルは席を立つと突進しながら抱きついてくる彼女を優しく抱きとめる。


 そして持ち上げイスに座らせてから注意した。


「こら、走ったら危ないだろ」


「そーよ、そーよ」


 少しだけ遅れてやってきたシルフィもシャルルに同意してステラを非難する。


「はーい」


 だが、ステラは二人の注意に反省の欠片もない返事をしつつ、早速スコーンに手を伸ばした。


「いただきまーす」


「あ、手は洗ったか?」


「はらっはほー」


 シャルルの問いに口をもぐもぐさせながら答えるステラ。『あらったよー』と言っているのだろうとは思いつつ、シャルルはシルフィに確認を取る。


「洗ったのか?」


「うん。ステラが水をだしてそれでみんな洗ったよ。あ、乾かしたのはわたし。わたしのあたたか~い風で乾かしました!」


「そ、そうか……」


「はいっ!」


 毎度の事ながら、これはやはりほめられたいという事だろう。そう思ったシャルルはシルフィの頭をなでた。


「うむ……偉いぞ」


「ごしゅじんさまのいちのこぶんとして、これくらいとうぜんです」


 鼻息荒く誇らしげに胸を張るシルフィ。それを見てうらやましくなったのか、やはりいつも通りステラも主張し始める。


「しゃるー! すてらも! すてらもてーあらった。みんなのぶんもすてらがおみずだしたの!」


「あ、ああ。偉いな」


 そう言ってシャルルがほめて頭をなでるとステラも満足げに笑った。




 今の季節、街灯を灯すのは午後4時から4時半くらいに始めることになっている。3時に始まるティータイムをゆっくりと過ごせば丁度良い時間だ。


「いってらっしゃーい」


「いってきます」


「いってきまーす!」


 ネリーたちに見送られ、今日もシャルルは街灯を灯すために屋敷をあとにする。ちなみにシャルルが連れて行くのはステラとシルフィだけだ。


 初日に同行したネリーは二日目も一緒に行きたがったが、それはシャルルが断った。彼はステラを見ながらよその子も安全に連れて歩けるほど、子供の相手になれているわけではないからだ。


 ネリーは若干駄々をこねたが、テレーゼとプリムの説得でしぶしぶ諦め見送りだけという事になった。


 日はかなり傾いているもののまだギリギリ昼間といった時間帯。シャルルはステラと手を繋いで歩きつつ、街灯にライトを付与して行く。


 この時間は仕事であると同時に散歩でもあり、コミュニケーションの時間でもある。ステラはいつもこのときに、その日ネリーと何をして遊んだのかをシャルルに話す。今日も彼女は楽しそうにシャルルにそういう話をしていた。


「でね、でね。ねりーがね。しるふぃのかんむりいーなー、ぷりむもあればいーのにって」


「ふむふむ」


「じゃーすてら、つくってあげるってゆったら、かだんはねりーのおかーさんのだからって。だからすてら、かだんじゃないのでつくったの」


「なるほど」


「でもすてら、やっぱりそのおはないーなって。そしたらねりーがおかーさんにきいてあげるって。そしたらねりーのおかーさんがちょっとだけいーよって、えらんでくれたの。でね、でね、それでできたらねりーのおかーさんがきれーねって、あげたらぷりむがありがとうってよろこんだの」


「そうか。よかったな」


「うんっ」


 シャルルが軽くなでるとステラは嬉しそうに笑う。


 ちなみに今のステラの話。シャルルは適当に相槌を打っているわけではなく、ちゃんと話を理解している。


 内容はネリーがシルフィの冠をうらやましがったので、ステラが代わりに花冠を作ってプリムにプレゼントしたというものだ。


 その過程でステラはネリーの母、テレーゼの育てている花壇の花を使おうとして止められる。


 だが、そこの花を使えばより良いものができると主張し、ネリーはテレーゼを呼んで花壇の花を使えないか聞く事にした。


 呼び出されたテレーゼはそれならと使っても良い花を選び、ステラは彼女に提供されたその花を使い冠を完成させる。


 そしてそのできをテレーゼはほめ、もらったプリムは喜んだ。


 以上がステラの語った内容である。


 初めてできた同年代の友達に毎日が楽しそうなステラ。ちょっと前までは常に自分にべったりだったのに、ネリーと遊ぶときは『しゃるーもいっしょ』とは言わない。それは精神的な成長なのだろうと嬉しくは思う。


 だが――シャルルはそれに伴いステラと少しずつ距離ができている感じもして、一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。




 街灯を灯し終わり屋敷に戻ると、ステラは出迎えたネリーと共に屋敷内の明かりを灯して行く。初日同様これは修練の一環でもあるので無料でやっている。


 それが終わると夕食で、夕食後は風呂に行く。湯を張るのはシャルルなので当然彼らが一番風呂だ。


 風呂を出るとあとは就寝。部屋に戻ってシャルルはステラと少し遊んだり、お話したり、本を読んでやってから寝かしつける。


 一緒に寝るときはそのままシャルルも寝て、別々に寝る場合はもう少し起きて本を読む。今日は別々に寝るのでステラを寝かしつけたシャルルは本を読んでいた。


「しゃるー?」


「どうした?」


 読んでいた本にしおりを挟みシャルルは答える。


「おしっこ……」


「はいはい」


 本を机に置くとシャルルはステラと手を繋ぎトイレに向かう。そしてトイレに向かって廊下を歩きながらなんとなく思った。


 マギナベルクの生活も悪くなかったけど、ここでの生活も案外悪くはないな。

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