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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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英雄公 その4

 ギルドの受付で待つ三人のもとに一枚の金属板を持ったパメラが戻ってくる。


「おめでとうございます。これでシャルルさんもハンターですね」


「ありがとう」


 シャルルはそれを受け取り眺めつつ答えた。


 スチールプレート。認識票を思わせるそれは鋼鉄でできた初級ハンターの身分証。そこには発行日時、発行ギルド名、ハンターの名前が記載されている。


「これ、私たちから」


 ローザが差し出したのは銀色の鎖。それを受け取りシャルルはプレートの穴に通しそれを首から提げた。


「ありがとう」


「素敵なプレゼントですね」


 パメラも微笑み周囲は和やかな雰囲気に包まれる。


「シャルルさん。パーティはどうするんですか?」


「パーティか」


「組まなければいけないわけではありませんが、やっぱり最初は一人だと何かと不便でしょうし」


「確かに」


 昨日ブルーノやパメラにハンターについての基本的な事はいくつか聞いたが、恐らくまだシャルルが知らない事はたくさんあるだろう。


 それをいちいちギルドで聞くよりも誰かとパーティを組んでメンバーに聞いたりフォローしてもらった方が効率が良い。


 特に彼はハンターの事だけでなくこの世界の事について知らない事がたくさんあるのだ。


 となると誰と組むべきか。


 シャルルが腕を組んで考えていると、パメラが良い事を思いついたという感じでパンッと手を叩いて言った。


「そうだ。アルたちと組んではどうでしょう? この子たちも一応1年以上の経験がありますし、一人でやるよりはやりやすいと思いますよ」


 この提案はシャルルのためというより二人のためだ。


 昨日の話によればシャルルは二人のピンチを救いワイルドウルフ数体を一人で倒した実力者。この人が一緒なら二人の安全が確保できパメラも安心できる。


「なるほど」


 その提案はシャルルも悪くないと思った。


 確かに二人はまだハンターレベル2で依頼に制限などもある。そういう事を考るなら、制限がなくなるレベル3と組んだ方が得だろう。


 だが依頼には拘束時間などがあり、それをやるなら自由にできる害獣狩りをメインにした方が気楽だし効率も良い。


 害獣狩りにレベルの制限はないのでレベル2と組んでもレベル3と組んでも同じ事。


 それに今からどういう人かもわからない人物と新たに関係を築くくらいならこの二人と組んだ方がずっと楽だ。


 だが――アルフレッドたちは顔を見合わせ苦笑した。


「いやいや、俺たち程度の実力じゃシャルルと釣り合わないよ」


「さすがにそうよね」


 二人の言葉にシャルルは考える。


 これは普通に頼んでも恐縮して固辞されたり、組めたとしてもギクシャクしそうだな……。


 そこで彼は言葉を選んで頼んでみる事にした。


「私はここに来たばかりでほかに知り合いもいない。二人さえ良ければだが、『とりあえず、しばらくの間』一緒にやらせてもらえないか?」


 とりあえず、しばらくの間。この言葉が二人の心を軽くする。


「まあ、そういう事なら断る理由はないな」


「そうね。シャルルがそうしたいって言うなら良いと思う」


 話がまとまり二人はシャルルの正面に立ち言った。


「我がパーティへようこそ」


「よろしくね」


 シャルルは二人が差し出した右手をそれぞれ握り返す。


「世話になるよ。こちらこそよろしく」


 それを見ていたパメラは微笑みながら、もう一度手をパンッと叩くと言った。


「まとまったみたいで良かった。シャルルさん二人の事、よろしくお願いしますね」


「ああ。まあ、世話になるのは私の方なんだけどな」


 その後――パメラの仕事が終わるのを待って、シャルルのパーティ参加記念パーティ(食事会)がギルドの食堂スペースで、リーダーであるアルフレッドの奢りで行われた。


「ですから~、ふたりは~私の弟と妹なんですぅ」


「そうなのか?」


 酔ったパメラの言葉を聞いてシャルルが質問すると、二人が答える。


「違うけど」


「違うわ」


「違うけどそうじゃ~ん。お姉ちゃん悲しい」


「どっちだよ……」


 そしてパメラはローザに寄りかかって寝息を立て始めた。


 ローザはそれを優しい目で見ながら言う。


「違うけど……お姉ちゃんみたいな人です」


「そろそろお開きだな」


 パメラをおぶりながらアルフレッドが言うと、ローザはウェストポーチのようなものから棒を取り出す。


 昨日アルフレッドがランプ代わりに使っていた光る棒に似てるなと思いシャルルはローザに聞く。


「もしかして、それって明かりにするやつか?」


「あ、うん。魔術師の人にライトの魔術をかけてもらうのよ」


「へー。それってただでやってくれるのか?」


「いや、お金払うけど……」


 シャルルは少し考える。


 なるほど、そういうので金稼ぎができるのか。だが仲間から金は取れないな。


「私がかけてやろう」


 シャルルは昼に魔法道具屋でラーニングしておいたライトを使う。


 すると、ライトをかけられた棒が光を発し始めた。


「は?」


「え?」


「ぐ~」


 二人は目が点になり、パメラは寝息を立て続ける。


 そして、次の瞬間二人は同時に驚きの声を上げた。


「お前――」


「シャルルって――」


『魔術、使えたのか!?』


「うるさい!」


「いてっ」


 パメラがアルフレッドの頭を軽く小突き再び寝息を立てる。


「あ、うん。まあな」


「じゃあ、なんで昼間――」


 二人が言いたい事はわかる。じゃあ、なんで昼間、魔法道具を欲しがったのかと言いたいのだろう。


 まあ、それは魔法道具と同じ効果の魔法がある事を知らなかったからなのだが……。


 とはいえ細かい説明をする気がないシャルルは強引にごまかす事にした。


「ああ、うん。魔法使えるの忘れてたわ」


「は?」


「え?」


「ぐ~」


「じゃ、私は先に宿に戻ってるよ。ごちそうさま」


 こういうときは長居は無用。シャルルはそう言うとさっさとギルドを出た。


 残された二人は顔を見合わせる。


「まあ……不思議な奴だからな」


「そうね……」




 宿屋の一室でベッドに横になりながら本を読んでいたシャルル。


 彼は本を閉じるとライトの魔法で丁度そこに埋め込み型の電灯でもあるかのように光っている天井を見上げてつぶやく。


「なるほどねぇ」


 閉じられた本のタイトルは英雄大公。


 ラーサーの事が少しはわかるかと昼間に本屋で買ったもので、片方のページには絵、片方のページには大きめの文字という児童書みたいな本だ。


 子供向けなので事実と比べると端折りや脚色が多分に含まれている可能性は高いが、内容はこんな感じだった。



 修行の旅をしていた青年ラーサー。


 彼はハンターになって活躍し軍にスカウトされる。そして軍でも大活躍で騎士になった。


 その後ドラゴンから王女を救い男爵になる。そして最終的にマギナベルクを支配していたドラゴンを倒し王女と結婚して大公爵になった。



 ラーサーがシャルルの考える人物と同じだった場合、彼が次元の扉をクリアしたのは約1年前なのでそのときにこっちに来た事になる。


 本の内容が事実なら、たった1年でそれだけの事をしたという事になるのだが……。


「さすがに1年じゃ無理だよなぁ」


 とんとん拍子に事が進んでもやはり数年は必要だろうし、会って数ヶ月の素性の良くわからない者に爵位を与えたり娘を嫁がせたりする王様がいるだろうか? 『ゲーム』や童話じゃあるまいし、『10倍くらいの時間』は必要だろう。


「あっ!」


 ゲーム、10倍の時間。この二つのワードがシャルルにある事を思い出させた。


 アナザーワールド2にはゲーム内の時間というものがある。


 それは6秒で1分進む実時間の10倍の速度。


 もしこの世界の時間の流れがそれと同じ現実の10倍だったとしたら、1年前にこっちに来た者の時間はすでに10年経っているという事になる。


 10年あればできるかもしれん……とシャルルは思う。


 だが、この仮説が合っていたとしても一つの疑問が残る。


 それはラーサーのブログがドラゴンロードを倒したあとも更新されていたという事実。


 別の人が代理でやっていたという可能性も否定できないが、ドラゴンロードを倒したあとの事など本人しか書かかなそうな事も書いてあった。


「うーむ」


 これ以上は考えても無駄だろう。


 一応その可能性があるという事だけは頭の片隅に置いておいて、本人に会う事があればそれとなく聞いてみれば良い。


「さて、寝るか」


 立ち上がり、ふとテーブルの上の本に目を落とすとシャルルは急に気づいた。


「この本……そういえば日本語で書いてあるな」


 よくよく考えてみれば会話も普通に日本語でしている。


 異世界転移のアニメで実は別の言葉だが本人にはそう見えてそう聞こえるというのもあった気がするが、そういうのだろうか?


 まあ、これに関しては完全に確かめるすべがない。本当に考えるだけ無駄だ。


 そしてシャルルはベッドに横になり、自分がとんでもないミスをしていた事に気づく。


「明かり、消せないじゃん……」


 ライトの魔術は効果が切れるまで光り続けるので消す方法は無い。


 だから通常は棒などにかけて明かりを取り、暗くしたい時は布をかぶせたり箱にしまったりするのだ。


 天井から降り注ぐライトの明かりに照らされたシャルルは、仕方なく布団を頭からかぶって寝た。

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