スバルクでの生活 その2
「はーい!」
「はーい」
「わかりました」
昼食の支度ができた事を知らせに来たメイドは、元気良く返事をした二人に微笑みながら軽く手を振るとお辞儀をして静かに扉を閉める。
「じゃあ、今日の勉強はここまで。お昼にしよう」
「やったー」
そしてシャルルはステラの手を引き、シルフィを頭に乗せて食堂に向かった。
この屋敷では基本的に食事は屋敷に居る者全員で取る事になっている。
現在屋敷に居るのは主人であるヘルマンとその妻、ヘルマンの息子の妻テレーゼとその娘ネリー、風のエレメンタルのプリム、メイド2人、そして客人であるシャルル、ステラ、シルフィの合計10人。
どうやらシャルルたちが最後のようで、食堂に入ると給仕をしている二人のメイド以外は全員席に着いていた。
シャルルも準備ができている自分たちの席に向かい、ステラを子供用に高さを調節するための補助台がついたイスに座らせる。
そしてシャルルが隣の席に座ると、メイドたちも自分たちの分を用意し終え席に着いた。
全員の準備ができた事を確認するとヘルマンが言う。
「では、いただこう」
そして、みんなで『いただきます』と言ったあと、昼食が始まる。
町長の家なのでこの町ではかなり裕福なのだが、それでも昼食は庶民とさほど変わらない。
メニューはパンと一切れのチーズ、軽く塩と油をまぶしたサラダ、そしてわずかに肉の入った野菜スープと一杯の牛乳だ。
ちなみにエレメンタルに食事は必要ないのでプリムとシルフィには何も無い。常に何も無しというわけではなく、お茶の時間には色の薄い魔石が夕食時にはちゃんとした魔石が一つ出るのだが、朝食と昼食のときは何も無しだ。
なので二人は特に席に着く事もなく、それぞれネリーとステラのそばでふわふわと浮いている。
シャルルは相変わらずスプーンやフォークを不器用にグーで持って食事を取るステラを見て思う。
その持ち方じゃどう考えても食べづらいと思うんだが……器用なんだか不器用なんだか普通に食べてるな。
そして、相変わらずスープの人参をがんばってよけているのを見て言う。
「ほら、ちゃんと人参も食べろ」
「……はーい」
ステラはシャルルに言われ一度は人参をフォークで突き刺す。だがしばらく眺めたあと、それをシャルルに向けて言った。
「しゃるーにあげる」
「私には私の分がある」
「じゃー、しるふぃにあげる」
シャルルに断られ、今度はシルフィにそれを向けるが――
「わたしはそういうの食べたりしないの」
宙に浮いているシルフィはふわりと避ける。
「あ、こらーにげるなー」
「こらーはお前だ。ちゃんと自分の分は食べなさい」
「そーよ、そーよ」
「だってぇ……」
困ったような顔をするステラにシャルルは言う。
「ほら、食べないと食事が終わらないぞ。残りは私が食べるから、一つだけでも食べなさい」
「うー……」
ステラはうなってみるが、目を閉じ観念したとばかりに口を開く。
「あーん」
シャルルはステラのスープボウルの端によせられた人参を、フォークで突き刺してステラの口に入れる。そしてステラは口を閉じ、渋い顔で数回そしゃくすると飲み込んだ。
もうちょっと良く噛んだ方が……とシャルルは思ったが、まあしょうがないか……と口には出さない。そしてステラをなでながら言った。
「良くがんばった。偉いぞ」
「えへへ」
ステラは嬉しそうに笑う。
「じゃー、しゃるーあーん」
そう言うと既にフォークに刺さっていた人参だけでなく、ボウルに残っていた人参をすべて突き刺しシャルルに向ける。
早く目の前から消したいといった感じなのだろう。シャルルがそれを食べると、ステラはもう食べなくて良いからか安心したように笑った。
そのあとはつつがなく食事が進み全員食べ終わる。特に用事がある者は別だが、基本的に食事を終えるのも全員一緒だ。
「食事は終わったようだな」
ヘルマンの言葉に皆が確認するように左右を見渡し、その後、全員で『ごちそうさま』と言った。
食事が終わると用事のある者はすぐに食堂から出て行くが、特に用事が無いシャルルはすぐには動かず茶を飲む。
シャルルが動かないのでステラも一緒にいると、そこにネリーがプリムと共にやってきた。遊びのお誘いだ。
ネリーも午前中は勉強をしているようだが午後は自由時間らしい。
シャルルたちがここに来てから二日目には昼食後に遊ぼうとステラを誘い、それから毎日昼食後にステラを誘いに来る。
「ステラ。あそびましょ」
ネリーの問いかけに答える前に、ステラはシャルルを見て聞く。
「しゃるー。あそんできていーい?」
「ああ、いいぞ」
「やった」
シャルルの返事を聞きステラはにっこり笑うと、元気良くイスからぴょんと飛び降りようとした。