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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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辺境の町と魔術師 その5

 何を話しているのかは良くわからないが、楽しそうに話しているステラとネリー。それをしばらく微笑みながら眺めていたシャルルとヘルマンだったが、ヘルマンはシャルルのさっきの言葉に疑問を感じ質問した。


「ところでシャルル殿。先ほど旅の魔術師と言っておられたが……ベルドガルトから来たのではないのですか?」


「ベルドガルト?」


 聞きなれない単語にシャルルは聞き返す。


「小都市ベルドガルトです」


 ああ、ゾフの村長マルティンがスバルクには都市から物品が流れてくると言っていたが、その都市がベルドガルトなんだな。そう思い納得しつつ答える。


「いえ、今はこの辺を旅していて、次は都市の方に向かおうと思っています」


「え? ではもしかして――」


 さすがにもう勘違いしていた事には気づいているのだが、ヘルマンは一応確認する事にした。


「シャルル殿は街灯を灯す仕事を請け負った魔術師ではないのですか?」


「今日この町に着いたばかりで、特に何かを請け負った覚えはありませんが……」


「……そうですか」


 確認が取れヘルマンは肩を落とす。


 確かにこの町に魔術師が来る事なんて滅多にない。だから街灯を灯す仕事を請け負う魔術師が来る事になったという事を知っている者が魔術師を見たら、その魔術師が来たと勘違いするのも仕方がない事だろう。


 とはいえ、待ちに待った魔術師が来たと思ったら人違いとなると、がっかりしてしまうのもやはり仕方ない。


 隊商と共に来ないのは不自然だとは思ったが……ようやく来たと思ってほっとしていたんだがなぁ。


 隊商が次に来るのは中旬から下旬なのでもうしばらくかかる。それまでの間は今まで通りかがり火を焚いて夜の明かりをを取らなければならない。


 確かに今まで散々やってきた事だし、それをあとわずかの期間続けるだけだ。だが、それでも一度終わったと思った事を続けるのはしんどいと思ってしまう。


「魔術師かと聞かれ、そうだと答えたら町長に会ったかと問われたので会ってないと答えたらこちらに案内されたのですが……この町には魔術師に町のルール的なものを町長から説明するとかそういうのがあるのではないのですか?」


 もはや単に人違いだったのだろうとシャルルも思ってはいるのだが一応聞いてみる。すると予想通りの答えが返って来た。


「いえ、そもそも魔術師自体、滅多に来ない町なので、特にそういうのはありません」


 まあ、そうだろうな。シャルルは心で頷くと、せっかくなのでここを去る前にと質問をぶつける。


「ところで、ここから都市――ベルドガルトに行く方法を知りたいのですが」


「ベルドガルトに行く方法ですか。こちらにはどうやっていらしたんですか?」


「村から出る馬車に同乗させてもらいました」


「つまり、馬などはお持ちでないと」


「ええ」


「となると、同じようにベルドガルトに行く馬車に同乗させてもらうのが一番でしょうな。とはいえこの町の者がベルドガルトに行く事は滅多にありません。なので行商人や隊商に頼む事になるでしょう。徒歩で行けない事もありませんが、お子さんがいては厳しいでしょうし。とはいえ旅の方を乗せてくれる馬車があるかどうか……」


「厳しいですか」


「町の者などならともかく、旅の方となるとやはり難しいと思います」


 シャルルは腕を組んで考える。


 まあ、普通はそうだよな……となると徒歩か。もう、王国金貨とか気にせず馬でも購入するか?


 考え込むシャルルを見ながらヘルマンは名案を思いつく。


 そうだ、この人も魔術師なのだからたぶん街灯くらい灯せるはず。私が頼めば隊商もベルドガルトまで乗せて行ってくれるだろうし、それをエサに頼んでみれば受けてくれるんじゃないだろうか。


「そこで提案なのですが……しばらく街灯を灯す仕事をやってみませんか?」


「私が魔術で?」


「ええ。その仕事をやる予定の魔術師は、隊商と共に今月中旬から下旬くらいにベルドガルトからやってくる予定です。それまでの期間、請け負ってくださるのなら、短期間とはいえ我が町で働いた人物として隊商にベルドガルトまでの同行を頼む事ができるでしょう。もちろんそれまでの住まいと食事、そして少ないですが給金もお支払い致します。どうでしょう?」


「うーん」


 リベランドからの追っ手が気になるので辺境にはあまり留まりたくはないという思いがシャルルにはある。


 もちろん森を抜け辺境を旅してここまで追って来るとは考えづらいとシャルルも思う。だが絶対ではないのでやはりもっと安心できる場所――人の多い都市、それも帝国領の中心辺りまでなるべく早く行きたいと考えている。


 とはいえやはり徒歩の旅はやりたくない。それに――


 背中の方からはさっきからステラがネリーたちとはしゃぐ声が聞こえている。シャルルが振り向くとステラがとても楽しそうに笑っているのが見えた。


 ステラが同年代の子と遊ぶのを見るのは初めてだ。長く留まる事はできないが、この子にもそういう経験は必要だろう。


 シャルルはそう思い頷くと言った。


「わかりました。お引き受け致しましょう」


「おお、ありがとうございます」


 ヘルマンは笑顔で立ち上がると右手を差し出し、シャルルも立ち上がって笑顔で握手を交わす。


 そんな大人たちの後ろでステラたちは本当に楽しそうにじゃれあっていた。

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