辺境の町と魔術師 その4
メイドに連れられやってきた幼女はシャルルを見るとにこやかに微笑み頭を下げる。そして共に来た風のエレメンタルも挨拶をした。
「いらっしゃいませ、おきゃくさま。わたしは町長へルマンの孫、ネリーです」
「わたしはプリム」
貴族のように優雅にとはいかないが、年の割にはしっかりしていて、彼女には育ちの良さというか教育が行き届いている事が見て取れる。
「私は旅の魔術師シャルル。で――」
シャルルはステラに軽く触れ挨拶を促す。するとステラも口を開き、シルフィも挨拶をした。
「あ。すてら! すてらはすてら!」
「わたしはシルフィ。ごしゅじんさまのいちのこぶんよ」
シャルルはネリーたちとステラたちの違いを見て、もう少しちゃんとしつけた方が良いかなぁ……などと思う。
「旅の……?」
シャルルの発言にヘルマンは首をかしげるが、それはステラの言葉と行動にかき消される。
「おおー! しるふぃ! しゃるー、しるふぃ!」
そう言ってプリムを指差すステラにシャルルは言う。
「こら、指差しちゃ駄目だ」
だが、興奮しているステラにシャルルの声は届かない。ステラはプリムのそばに行くと、触れようと手を伸ばした。
「しるふぃ!」
「わっ」
プリムはあわててネリーの背中に隠れる。
「いじわるしちゃダメ!」
両手を広げとおせんぼうするその姿に挨拶時のしっかりした感じは見られない。そんなネリーの子供らしさにシャルルは少し安心感みたいなものを感じた。
「……はーい」
「それにこの子はプリムよ。シルフィはその子でしょ?」
そう言ってネリーはステラの後ろを飛ぶシルフィを見る。
「そうよ。あっちの子はプリムでシルフィはわたしなんだから」
「うん?」
シルフィが頬を膨らませると、ステラは『あれ?』という顔をして首をかしげた。
ステラはどのメーカーのゲーム機も昔一番売れたゲーム機の名称で呼ぶお母さんの如く、どの風のエレメンタルも『しるふぃ』と呼ぶ。
これは最初に見た風のエレメンタル(のぬいぐるみ)の名前をシャルルに聞いたら『シルフィ』と彼が答えたせいなのだが――それを見て、レティの事はちゃんとレティと呼んでたのになぁ……とシャルルは思う。
「えっと、こっちのしるふぃはぷりむ?」
「こっちも何も、わたしはしるふぃとは関係ないわ」
困惑するプリム。
場を仕切るようにネリーは一人一人の名前を言って行く。
「わたしはネリー。この子はプリム。あなたはステラでその子がシルフィ。わかった?」
「えっと、ねりーはねりーで、そっちのしるふぃじゃないしるふぃがぷりむで、すてらはすてらで、こっちのしるふぃはしるふぃ?」
「だーかーらー! シルフィはわたしだけなのよ。あっちの子はプリム!」
しきりに首をかしげるステラ。だが、なんとなくわかったようでもう一度言う。
「えっと、ねりーはねりーで、し……ぷりむはぷりむで、すてらはすてらでしるふぃは――しるふぃ?」
「そうそう」
「うんうん」
ネリーとプリムは満足げに頷くが――
「なんでわたしのときに首をかしげるのよ」
シルフィは不満げに頬を膨らませた。
「ねぇ。シルフィはステラのこぶんなの?」
「そーなの?」
ネリーの質問に、ステラは答えずそのままシルフィに疑問を向ける。すると、シルフィは再び不満げに頬を膨らませた。
「ちがうわよ。わたしのごしゅじんさまはシャルルさま! わたしはごしゅじんさまにステラの護衛をまかされてるのよ」
「すごいわね! なんかかっこいいわ」
「ふふん。でしょ?」
「えへへ」
ネリーがほめるとシルフィは誇らしげに胸を張り、そしてステラがなぜか照れ笑い。それを見てプリムは言う。
「わ、わたしもテレーゼにネリーを任されてるんだから」
「てれーぜ?」
初めて出てきた名前にステラが首をかしげる。
「テレーゼはわたしのお母さまよ。プリムはわたしはもちろん、お母さまが生まれる前からずっといっしょなんだから」
「おおー! すごい! かっこいい!」
どの辺がかっこいいのかはわからないがステラが興奮気味にプリムをほめると、今度はプリムとネリーが誇らしげに胸を張った。