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異世界でのとある日常

 閉まった窓の隙間から、朝日が差し込む宿屋の一室。


 窓の前に並ぶ二つのベッドの片方には、白いゆったりとしたワンピースを着た小さな女の子が布団をはいで眠っていた。


 長い黒髪、薄い褐色の肌、そしてやや尖った耳。それらの特徴はこの子が魔族である事を物語っている。


 女の子は目をうっすらと開け、半身を起こすと手探りでなにかを探す。


 そして手に当たったそれを両手で抱え上げ、つぶらな瞳でみつめるとにっこりと笑った。


 それは三頭身くらいの風の精霊といった感じのぬいぐるみ。


 肩くらいまでの髪は黄緑で、服は薄い黄緑と白のワンピース、背中には半透明の羽が生えている。


 女の子はそれのほっぺにキスをすると言った。


「おはよー、しるふぃ」


 挨拶が終わると女の子はぬいぐるみをベッドに置き、もう一つのベッドにあるふくらみを見ていたずらっぽく笑うとしゃがみこむ。


 そして――


「しゃっるー!」


 掛け声? と共に手足を伸ばす反動を利用してふくらみに向かってダイブする。


 いわゆるフライングボディアタックだ。


 寝息を立てていた男は気配を察知し目をさます。


 そして一瞬『ひざを立ててやろうか?』などと思うが実行せず、その攻撃をすなおに受けた。


 所詮は幼女の攻撃なので、もろに受けてもダメージは無い。


 男は飛び込んできた女の子を捕まえて言う。


「こら、ステラ。普通に起こせと言っただろ」


「きゃー」


 男につかまれステラと呼ばれた女の子は嬉しそうに悲鳴を上げる。


 そして彼の顔を見てにっこり笑うと、そのほっぺにキスをした。


「おはよー、しゃるー」


「おはよう、ステラ」


 男もステラのパッツン前髪を少し上げ、おでこにキスをする。


 ちなみにステラは彼をしゃるーと呼ぶが、彼の名前はシャルルだ。


 挨拶を終えるとステラはベッドの端に行き、ガラスのはまってない窓を開けて言った。


「おひさまにこにこ! いいてんきー」


「そうだな」


 シャルルはフッと笑うとステラを連れて宿の洗面に行き、魔術で出した水で顔を洗い歯を磨く。


 隣でステラも歯を磨いているが、適当にわっしゃわっしゃと動かしているだけできちんと磨けているようには見えない。


「こら、ちゃんと磨け」


「みがいへうおー」


 そう言うと、ステラは再びわっしゃわっしゃと適当に動かし始める。


 それを見てシャルルは軽くため息をつくと、ステラの歯ブラシを取り上げて言った。


「ほら、いー! だ」


「いー!」


 シャルルはステラの歯を磨きつつ思う。


 こいつなんかこれやってるとき、恍惚とした表情してるように見えるんだよなぁ。磨いてもらうのが気持ちよくてわざと適当に磨いてるんじゃないだろうな……。


 とはいえ彼はこうも思うのだ。


 結婚とか家庭とか子供とか……この世界に来る前は正直興味もなかったけど、こんな生活も案外悪くないものだなぁと。


「ほら、終わったぞ」


 シャルルはコップに魔術で出した水を注ぎステラに渡す。


 がらがらがら……。


「歯磨きの後はぶくぶくだと言ってるだろ」


 ぶくぶくぶく――ぺっ。


「おわったよー」


「よし。朝ごはん食べたら魔術の勉強な」


「おやつは?」


「ちゃんと勉強したらな」


「うんっ」


 そしてシャルルは思うのだ。


 おやつ……か。まだ朝ごはんも食べてないんだがなぁ。

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