09 精霊の悪戯
「テティ、ちょっといい?」
「ルア……早くしないとテティ達の家族が」
私は森へ人間が侵入したと聞いては、少し複雑な気分に襲われた。
まあ、前世人間ですし、そりゃ人間の言い分も分からないでもないわけでね?だから、人間をどうしようか迷ってるのです。
テティは凄く怒ってるし、その横の精霊ちゃんは「はわわー!!」とか言ってパニックになっている。
私としては無血で事を収めたい。
でも、テティは怒りが込み上げてきている。
テティならきっと堪えられるだろう。でも、それはあまりいいとは言えない。我慢は良くない。耐えるのは大切だけど、でも、耐えて耐えて結果、生きる意味すら分からなくなってしまうのなら、耐えるのなんて良くない。
経験者の私が言うんだ、何も間違ってない。過労死はしなかったけど、それでも休みもなくずっと働きっぱなしなんてしょっちゅうだった。
きっとテティはいっぱい我慢してる。精霊で、人間とは多分そんなに争いたくはないのだろう。だって勇者に加護を与えるくらいなのだから。
でも、私はそんなテティを見て心がチクリと痛んだ。
あぁ、痛んだ。凄い痛い!なんで可愛いテティがこんな顔しなくちゃなんないのさ!?
おかしいでしょ?テティの笑顔を帰せよ!人間?許さーん!!
もう、人間も何も知ったことか!!うちのテティをこんな顔にさせたんだ。殺しはしない。殺しはしないが、それなりに怖い目に遭ってもらおう!
「テティは面白いものが大好きでしょ?」
「うん。だからルアの事も大好き」
あらなんて出来た子だこと。どこのお子さん?あら、うちの子でしたか。そうでしたわ。
まあ、私なんかよりずっと年上だけど。
そんな事よりも、私は面白い考えをテティと共有する。
「テティ、感覚共有っていう私のスキルがあるのね。だから、出来れば協力をして欲しいなーって」
「感覚共有?」
「うん。そのスキルで、テティの体を共有する、みたいな?」
つまりは、テティの中に入って人間たちの元へ行って私が懲らしめるのだ。
このスキルにあった制限の一つに、スキルを使える有効範囲があった。それは確かに、遠くにある物にはスキルが掛からなかった。
だが、それにも例外はある。私はここから動けない。だからここからその人間たちのところへは行けない。
が、それもテティなら行けるわけだ。
そして、テティであれば今ここにいるから私のスキルを使うことが出来る。
このスキルは、スキルを掛けられる範囲を制限していたのであって、掛けた後であれば何の制限も受けない。つまりは、掛けてさえしまえば、それが動ける者であれば問題ないのだ。
「感覚共有で、私を人間のところへ連れて行ってくれればいいの。あとは、きっとテティもきっと大好きな、悪戯が始まるから!」
そう言ってテティを説得する。
ここで駄目、と言われたらそれは私にはどうしようもない。それでもやっぱりテティはまだ子供。
なんだか大人が子供を騙すようで心が痛いが、テティも喜ぶだろうといことで、嘘も方便だ。
「悪戯?人間に?……面白そう!分かった。じゃあ、いいよルアも来て!」
「ありがとうテティ!じゃあ、ちょっとテティの中入るね?」
「うん!ルアならいつでもいいよ!」
なんて嬉しい事を言ってくれるんだ?ちょっとキュンと来ました!
《スキル『感覚共有』を使用して精霊テティとの同調を開始します》
私の頭の中にいつもの様に物凄い情報が流れて来る。
そして、気が付くと、私はクリアな視界を手に入れたのだった。
「うーん。いつも見てるより少し見えづらいな」
「なんか変な感じ。ルア、テティの中に入ったの?」
「そうそう!だから少し気持ち悪いだろうけど、でも少しの間だから」
「分かってる。うん。大丈夫だよ。じゃあ、そろそろ行かないと!」
私はテティの感覚の一部を貸してもらっているだけなので、体の主導権はあくまでテティが握っている。でも、やっぱり動けるって最高だ。なんだか今まで半分死んでるような状態だったのに、生き返った気分になる。
「それで、人間って森のどの辺りにいるの?」
やはり、どこにいるのか。それはとっても大事だ。私のお家の周辺を把握する。これからもこういうことがあるかもしれないのだ。対策くらいは考えられるように森の全容は把握しておきたい。それに、いつか森から出ることになっても外が分からないと出ることも出来なさそうだ。
「うーんと、確か森の西側だって。それで、多分入り口付近で止まってる」
「入口付近で?あ、そっか。人間にはここは結構きついんだっけ?」
「うん。多分魔法で結界を張って、それで入ってきてる。その結界を解けば魔素を取り込みすぎて体がおかしくなるの」
魔素を取り込みすぎると体がおかしくなる?何がどうなるのだろうか?
いや、なんとなく予想はついている。ラノベやアニメ、漫画でも定番だ。身の丈に合わないほどの力を手に入れれば、往々にして自らの体を壊している。
体が爆散したり、力が暴走してしまったり、逆に力に体を乗っ取られたりと、とにかく何でも身の丈に合わない物は良くないという事だ。
私も、昔は身の丈に合わない夢を抱いていたものだ。
まあ、そんな夢はすぐに覚めるのだが。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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